トラス英新政権の展望を聞く

トラス英新政権の展望を聞く インフレ対策課題
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB077RA0X00C22A9000000/

『英国で6日にトラス首相が就任した。外交面ではロシアや中国など強権国家への対応、内政ではエネルギー価格を中心に高進するインフレ対策が喫緊の課題となっている。トラス新政権の展望を識者に聞いた。(聞き手はロンドン=今出川リアノン)

対中強硬、景気が左右 フランシス・バーウェル氏(大西洋評議会特別研究委員)
大西洋評議会のフランシス・バーウェル名誉フェロー(本人提供)

トラス政権はジョンソン前政権のアジア外交を踏襲するだろう。中国以外のアジア諸国との関係強化を進めるとみられる。ただしトラス首相が保守党の党首選で唱えていたような対中国の強硬姿勢をどこまで推し進めるかは、英国の景気動向に左右される。

党首選では保守党員に対し、強硬な外交政策をアピールしてきた。だが首相としては異なる面を見せるかもしれない。次期総選挙ではより幅広い国民層に働きかける必要があるからだ。

英国海軍や政府高官が中国以外のアジア諸国を訪れる機会が増えるだろう。だが、中国と距離を置いても支障がないほどその他のアジア各国と深い関係を築くには、英経済の継続的な成長が必要だ。急成長するアジア諸国に対し、地理的に遠い英国との通商のメリットを示さなければならない。

ウクライナ戦争は外交の最優先課題であり続ける。比例してアジアや日本外交の優先順位が落ちることは十分あり得る。

米英は首脳が誰であろうと緊密な関係が続く。ただし(EU加盟国のアイルランドと地続きの)英領北アイルランド問題は両国の不協和音の原因となりうる。

トラス氏は外務大臣として北アイルランドに関するEUとの取り決めの一部を一方的に上塗りする法案を推し進めてきた。米国にはアイルランド系移民も多く、バイデン米大統領は北アイルランド内の親英派と親アイルランド派の対立再燃につながらないか懸念している。

公約の減税、小規模に アナンド・メノン氏(英ロンドン大教授)

インタビューに応じる英ロンドン大キングス・カレッジのアナンド・メノン教授(8月31日、ロンドン)

英国の欧州連合(EU)離脱が決まった2016年以降、保守党内では離脱を支持した強硬派と、残留を望んだ穏健派がその他の様々な分野でも対立している。離脱強硬派は減税やEUとの離脱協定の一方的な変更を政府に求めるが、実行すれば英国経済は悪化する。トラス首相は強硬派議員らの支持を保ちつつ、迫る経済危機を回避するという難題に取り組むことになる。

トラス氏は公約した減税をできる限り小規模にとどめるだろう。(大規模な減税は)インフレを悪化させ、一段の利上げにつながる可能性もあり、国民の生活難にはね返ってくるからだ。

一方、エネルギー価格の急騰などで膨らむ生活コストの影響は、低所得層にとって08年の金融危機時を上回るという予想もある。生活費高騰に対応する大型の支援策を打ち出す必要がある。

23年は厳しい経済状況が続くため、総選挙は24年秋まで待つ可能性が高いとみている。EUとの本格的な対決も総選挙後まで先延ばししようとするだろう。

英北部スコットランド地方の政府が求める同地方の独立に関する住民投票も懸案だ。英政府の同意なしに実行できるかは最高裁が判断する。英政府の認可が必要となった場合、トラス首相は分断を避けるため、なるべく判断を先送りするだろう。最終的に却下すると予想するが、決定は総選挙後まで持ち越すのではないか。

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伊藤さゆり
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 研究理事
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ひとこと解説

トラス新政権はエネルギー価格高騰への緊急対策を本日発表する予定。
FT紙は家計向けの光熱費を向こう2年間抑制する対策に900億ポンド(約15兆円)、企業向け対策に400?600億ポンド、総額1500億ポンド、GDP比で6.4%の大規模対策との観測を伝えています。

トラス首相は、昨日、首相就任後初の議会での「首相質問(PMQ)」に臨み、エネルギー価格高騰で利益を得た企業への超過利得課税を財源とする可能性を否定。大規模な借入となるようです。

トラス政権は、首相に近く、右寄りの顔ぶれが揃いました。
企業負担軽減、投資促進が難局打開の鍵という首相の思いは強く、月内には減税案も提示されるようです。
2022年9月8日 7:57 (2022年9月8日 8:45更新) 』