中国、日台に「離間の計」か 日本統治下に60万人殺害説

中国、日台に「離間の計」か 日本統治下に60万人殺害説
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM269QE0W2A820C2000000/

『中国が再び日本に接近している。台湾有事で日本が米軍や台湾の本格支援に回る事態を警戒し、日本の世論が中国から離れないように緊張緩和を探っている。一方で日本がかつて「60万人以上」の台湾の人を殺害したとの情報戦を展開。日台間の連携を阻止するべく「離間の計」を進めている。

8月中旬まで中国では日本を巡る悪い話で持ちきりだった。8月10日に中国江蘇省蘇州市で、浴衣を着て写真撮影しようとしていた女性が警察から、「(中国人にもかかわらず)和服を着ている」と詰め寄られて一時拘束された。日本の夏祭りをイメージしたイベント「夏日祭」も、次々と中止に追い込まれた。
反日から一転、日本に秋波

風向きが変わったのは17日だ。中国側の求めで、秋葉剛男国家安全保障局長と中国の外交担当トップの楊潔篪(ヤン・ジエチー)共産党政治局員が中国・天津で会談した。日中間の「建設的で安定的な関係」を実現するため、対話を継続すると一致した。

9月29日の日中国交正常化50年に合わせて岸田文雄首相と習近平(シー・ジンピン)国家主席が電話協議をする案も浮上している。

8月22日に習氏は新型コロナウイルスに感染した岸田氏にお見舞いの電報を送り「国交50年」の重要性に触れた。

きっかけは8月上中旬に開かれたとされる「北戴河会議」とみて間違いないだろう。北戴河は首都・北京から近い河北省の避暑地で、党幹部や引退した長老らが別荘に集まり、党の重要政策や人事を話し合う場とされる。
 会談前にペロシ米下院議長(左)と握手をする岸田首相(8月5日、首相公邸)

8月上旬にペロシ米下院議長が台湾を訪問し、日本にも足を運んだ。岸田首相は公邸に招いてもてなしており、北戴河会議で台湾情勢を巡る日米の連携が議題に上ったとみるのが自然だ。習氏が異例の3期目を確実にしようとしている秋の党大会を前に、日本が台湾問題に関与を深めようとしているのは大きな痛手といえる。

中国は台湾有事で日本の自衛隊が米軍支援にどの程度回るかを注視している。それを左右する日本の世論が「反中」で固まり、米軍と台湾への支援で一致する事態への警戒が高まっている。今後も首脳協議や政府高官らの対話の機会を増やし、あの手この手で日本を”懐柔”していくとみられる。

8月中下旬に中国共産党の党外交を推進する中央対外連絡部が主催する形で、北京の日本大使館や日系企業、政府系機関の関係者らが参加する雲南省の視察が実施された。現地では雲南省ナンバー2の副書記が現れ、あまりの「熱烈歓迎」ぶりに戸惑う関係者もいた。
中国、日本懐柔の一方で情報戦

一方で、中国は台湾向けに情報戦を仕掛けている。8月8日、中国外務省の汪文斌副報道局長が日本の台湾統治期間中に「60万人以上」を殺害したと主張した。15日付の中国共産党の機関紙、人民日報の重要コラム「鐘声」でも「日本は60万人以上の台湾同胞を殺害し、書き尽くせぬほどの犯罪を犯した」と強調している。

中国側が数字の具体的な根拠を示していないことなどから、日本ではほとんど取り上げられていない。日本統治下の台湾で抗日運動が起こり、日本側が弾圧した事実はあるが、当時の台湾の人口は最大600万人超で、その約1割以上が殺害されたというのは、単なる主張としても無理のある数字だ。日本経済新聞は8月17日に中国外務省に60万人の数字の根拠を書面で質問したが、9月1日時点で回答はない。

だが、すでに中国のブログなどでこの「60万人」の数字が転載され、独り歩きを始めている。同じ中国語圏の台湾では日本の無関心を見越した情報戦が始まりやすいとみられる。日本が気づかぬうちに台湾へ広がり、将来、日台間で思わぬトラブルに発展する懸念をはらむ。

日中間で政府・民間を問わずにパイプを増やし、意思疎通を強化するのはお互いに利点がある。だが、中国のほほ笑み外交の裏で新たな「歴史戦」が始まる可能性があることには注意が必要だ。

(北京=羽田野主)

[日経ヴェリタス2022年9月4日号掲載]
日経ヴェリタス https://www.nikkei.com/theme/?dw=20062208 』