[FT]米中対立のはざま、「踏み絵」迫られる東南ア諸国

[FT]米中対立のはざま、「踏み絵」迫られる東南ア諸国
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB0544G0V00C22A9000000/

『「ボンボン」の愛称で知られるマルコス氏は、ペロシ米下院議長の台湾訪問はもともと緊張していた政治状況を「悪化させていない」と発言した。また、地域情勢が不安定ななか、フィリピンにとって米国との関係が重要であると述べた。

発言はブリンケン米国務長官との会談後のことだった。一部の専門家は、マルコス氏がドゥテルテ前大統領の親中政策を見直し、米国とのつながりを深めようとしているのではないかと考えている。

ジレンマを最も強く感じるフィリピン

フィリピンは米中双方にいい顔をしている、と過去にアナリストは批判してきた。だが公的な発言が変化し、それに対して域内も敏感に反応している。これらは、米中両国から圧力を受け、バランスを取らねばならない東南アジア各国が直面する状況を如実に示している。

台湾を自国の領土だと主張する中国は、ペロシ氏の台湾訪問を受けて威嚇を強めている。日本とフィリピンの排他的経済水域(EEZ)と重なる海域に軍事演習区域を設置したほか、日本のEEZ内に弾道ミサイルを撃ち込んだ。

シンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策大学院のドリュー・トンプソン上級客員研究フェローは、これらの動きで「東南アジア各国が台湾海峡での紛争のリスクを無視できなくなった」と指摘した。

台湾と地理的に近いフィリピンが最も強いジレンマを感じている。中国が最近実施した海上での実弾軍事演習は、フィリピンのEEZ内にあり最も近い島から約40キロの距離にあるバシー海峡の一部を含んでいた。

フィリピンと米国は相互防衛協定を締結しており、専門家は紛争が起きれば米国はフィリピン国内の基地使用を求めるとみている。一方、中国はフィリピンを米軍事行動の起点とみなす可能性がある。

トンプソン氏は「リスクの軽減策について東南アジア各国間でコンセンサスはない。だが多くの国はどちらか一方を味方とはしない、中国から敵視されたくはないという点では一致している。中国が過度の報復措置を取ることは確実だからだ」と話した。

米国は同盟国の懸念を払拭するため、各国にある基地の使用を保証する一方で、中国への接近を防ごうと努めている。ブリンケン氏はマルコス氏に、もしフィリピンが南シナ海で攻撃を受ければ米国が援護すると伝えた。

米国の行動、非難働きかける中国

豪シンクタンクのロウイー研究所の研究部門を率いるエルベ・レマユー氏は、マルコス氏が取った立場は大きな方針転換だと指摘する。米国との「別離」を発表し中国との関係を深めたドゥテルテ氏の任期中、フィリピンは「ゲームに参加していなかった」。しかし「今はフィリピンが米国を支援する可能性がある」という。

ドゥテルテ氏の外交政策に関する著書があるリチャード・ヘイダリアン氏は、「米国は失った時間を取り戻し、ドゥテルテ氏のような人物が大統領になっていなければあったはずの協力関係を拡大するようマルコス政権に求めるだろう」と話した。

中国は台湾への支援にはリスクや代償が伴うと域内各国に伝えようとすると同時に、各国政府や市民に米国の行動を挑発的だと非難するよう働きかけている。

孫海燕・駐シンガポール中国大使は、最近発表したビデオメッセージで米軍のアフガニスタン撤退の映像を使い「私たちの国で混乱を起こすなと、トラブルメーカーに対して共に声を上げよう」と550万人のシンガポール国民に直接呼びかけた。

シンガポールのISEASユソフ・イシャク研究所のウィリアム・チョーン上級フェローは「中国は自らの主張、特に『一つの中国』政策を維持するよう、かなりの圧力をかけている」と、台湾への主権を主張する中国の立場について説明した。

米中両国と良好な関係にあるシンガポールは台湾とも長年関係を築いてきた。中立政策をとっているが、紛争の際に米軍の海上作戦を支援したり、米軍機に領海や領空の通過を認めたりするか検討を迫られる可能性がある。

レマユー氏は「中国は即座にシンガポールを厳しく監視するだろう」と話した。

インドネシア、米国と演習も中国の目を懸念

インドネシアも地理的に重要だ。同国のアンディカ・プルカサ国軍司令官は米国に好意的だが、今年定年を迎える。

インドネシアは先月、米軍との合同演習「ガルーダ・シールド」を実施した。毎年恒例の演習だが、今回日本、シンガポールとオーストラリアが初参加した。中国は同じ時期に軍事演習を開催して対抗することが多く、今年もタイ空軍との合同演習を実施した。

アナリストは「ガルーダ・シールド」を米国への接近を示しているととらえるべきではないと指摘する。インドネシア政府内の議論を知る人物は、「演習が中国の目にどう見えるか懸念の声が上がっていた。全面的に支持したわけではない」と明かした。

インドネシアが米中どちらかの側についたり両国の行動を非難したりする可能性は低いと指摘する専門家もいる。米戦略国際問題研究所(CSIS)の研究員でジャカルタに拠点を置くギラン・ケンバラ氏は「紛争が起きた際は、米国であれ中国であれ、いかなる軍の船舶もインドネシアの群島水域を通過させない方向で議論が進んでいると思う」と話した。

世界経済の成長見通しが弱まり、供給網のデカップリング(分断)で輸出に依存する国が打撃を受けるなど、経済的な圧力に対して、東南アジア各国は懸念を強めている。米国は自国主導の新経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」の利点を強調し、中国は政府による好条件の提示や融資などの経済的機会をみせつけている。

シンガポール国立大学の荘嘉穎准教授は「(東南アジア)各国がいいとこ取りをするのは難しくなってきている。紛争の際にどのような行動を取るか明確にした国は今のところないが、近いうちに明らかにせざるを得ないだろう」と話した。

By Mercedes Ruehl

(2022年9月4日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

(c) The Financial Times Limited 2022. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation. 』