東南アジアで進む軍事演習による米中覇権争い

東南アジアで進む軍事演習による米中覇権争い
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/27791

『8月14日付英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)は、「米中は東南アジアで別々に軍事演習を実施」と題すメルセデス・ルール同紙シンガポール特派員の記事を掲げ、米国とインドネシアの陸軍共同訓練と同時期に中国とタイの空軍共同訓練が行われているのを解説している。
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 米中は東南アジアに影響力を強める中で、夫々インドネシアとタイで軍事演習を行った。中国は、8月14日に空軍共同訓練ファルコン・ストライク2022でタイに戦闘機を派遣した。この訓練は、米国とインドネシアが2週間行ったガルーダ・シールド年次実弾演習の終了と同時期だ。この米インドネシア共同訓練は2009年の開始以来最大で、今回、日本、豪州、シンガポールが初めて参加した。

 東南アジアでの共同訓練は、米中間の緊張が高まる中で行われた。8月のペロシ米下院議長の台湾訪問は中国を苛立たせた。同訪問は中国軍による度重なる恫喝戦術をもたらし、実弾演習や台湾封鎖のシミュレーションである水域・空域の閉鎖が行われた。

 米国は歴史的に東南アジアで強固な同盟関係と軍事的プレゼンスを有しているが、中国の経済的影響力は急速に強まっている。中国と幾つかの東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国との領土紛争は、地域に緊張を生んでいる。

 米国と中国は、今後地域における軍事訓練を一層強化することで、戦略的な抑止を形成し、インド太平洋の中小国の支持を得ようとする可能性が高い。


 合同軍事演習は、米国と中国の競争が激しさを増す中で、東南アジアが米中の影響力を巡る主戦場になることを示す一つの例である。

 中国はウクライナ戦争の教訓を受けた動きとして、アフリカとの関係強化やブラジル・ロシア・インド・中国(BRICS)などの既存の多数国間枠組みの拡大により、危機に際して孤立を避けるべく外交政策を調整している。これは、正に三十六計の「遠交近攻」の「遠交」とも言える動きであるが、その一方で、今回の記事は、「近攻」で何が起こっているのかを示すものの一つとも言える。

 まず、タイについて述べておきたい。従来からASEAN諸国は、米中の間の選択を迫らないで欲しい、と言いつつも、実際には各国が置かれた戦略環境などにより、選択してきており、いわば「踏み絵を踏まない分断」が起こっている。

 その中でタイは、日本外務省の世論調査によると、より頼りにする国が、政権によって、日本と中国の間をスイングする。正に今回、中国がタイを共同訓練の相手としたのは全くの偶然ではない。ファルコン・ストライクは中タイ間で 2015年以降行われている空軍共同訓練で、今回が5回目に当たる。

 一方、忘れてはならないのは、タイは1954年以来米国の条約上の同盟国だということである。東南アジア条約機構(SEATO)は解散したが、相互防衛義務を定めたマニラ条約は現在も米タイ間で有効である。その米国とタイは1982年から、東南アジア最大級の合同軍事演習であるコブラ・ゴールドを実施している。』

『41回目に当たる本年は、コロナ禍もあり、規模を縮小して 2 週間行われた。この演習には、近年、東南アジア諸国(インドネシア、マレーシア、シンガポール)や米国の同盟国(日本、韓国等)も参加しており、自衛隊は2005年以降毎回加わっている。

 しかし、ここでタイらしいのは、15年以降は、中国も参加しているということだ。但し、中国の参加は人道支援訓練部分のみに制限されている。
日本にとっても有意義なインドネシアとの軍事交流

 次いでインドネシアについて述べる。日本とインドネシアとの間の軍事交流では、これまで海上自衛隊が中心的役割を果たしてきたが、今回ガルーダ・シールドに陸上自衛隊が初めて参加したのは、両国の軍事面での協力を拡大する上で非常に有意義だ。なお、本記事では今回の演習には日本、豪州、シンガポールが初めて参加したとされているが、その他に韓国、カナダも参加している。

 インドネシアは、この地域の盟主であり、自由で安全な海洋航行のために必須な要衝を数多く抱える重要な国である。地域の大国であるインドネシアが、危機に際して日米に近い立ち位置を取るかどうかを占う上で、このような平時からの連携が果たす役割は大きい。

 インドネシアのナツナ諸島周辺海域には、最近毎年のように海警に守られた多くの中国漁船が現れる。このような中国の「やり過ぎ」は、インドネシアが安全保障面でも日米を頼りにするという事態を招いている。このような連携は、今後も続くと思われる。』