ミャンマー、ASEANと深まる溝 間隙縫い中ロが接近

ミャンマー、ASEANと深まる溝 間隙縫い中ロが接近
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM165Z10W2A810C2000000/

『東南アジア諸国連合(ASEAN)議長国にカンボジアが就任して8カ月。フン・セン首相は当初、クーデターで政権を握ったミャンマー国軍に対し、積極的に仲介する姿勢を見せていたが、国軍の強硬姿勢は変わらない。ミャンマーとASEANとの溝が深まる中、その間隙を縫って中国やロシアがミャンマーに接近し、ASEANの結束を一段と揺るがしている。

「深く失望した。この状況が続けば、ミャンマーへの我々の役割を見直す必要に迫られるだろう」。8月3日に首都プノンペンで開かれたASEAN外相会議の開幕式。フン・セン氏は国軍が7月に民主派活動家ら4人の死刑を強行したことに、異例の厳しい口調で非難した。
フン・セン氏は首相として在任37年超。ASEAN議長を務めるのは3度目だ。就任直後の1月には早速ミャンマーを訪問し、国軍トップのミンアウンフライン氏と会談。3月にはASEAN特使を務める「部下」のプラク・ソコン副首相兼外相を同国に派遣し、国軍との関係を深めていたはずだった。
ASEAN外相会議の開幕式で会見するカンボジアのフン・セン首相(3日、プノンペン)=AP

そして6月、ミャンマーの民主派活動家らの処分に関してフン・セン氏はミンアウンフライン氏に書簡を送り、死刑執行を取りやめるよう要請した。ところが、ASEANの外相会議の約1週間前というタイミングで国軍が死刑執行を公表。フン・セン氏は顔に泥を塗られた格好になった。

一部の加盟国から懸念する声が出る中でも、フン・セン氏は国軍へ融和的な態度を続けてきた。ただ、国軍の”裏切り”に直面し、最近の発言からは当初の情熱が薄れ「見切りをつけたのではないか」(外交筋)との見方が出ている。

ASEANは2021年4月に加盟国の首脳で決めた暴力の即時停止など5項目の履行を国軍に求め続けている。しかし、国軍は大半を履行していない。ASEANは21年10月以降の首脳会議や外相会議などの主要会議からミャンマーを締め出しており、実質的な「ASEAN9カ国」体制が続く。

ASEAN特使のプラク・ソコン氏は8月6日の会見で、ミャンマーの主要会議への復帰は民主化の進展が条件になると強調。「5項目は履行する必要がある」として、上司であるフン・セン氏に歩調を合わせ、国軍を突き放した。

一方、ASEAN内で孤立を深めるミャンマーに対し、地域大国の中国やウクライナに侵攻するロシアはこれ見よがしに接近を図っている。ロシアのラブロフ外相は、ASEAN外相会議当日の3日にわざわざミャンマーのネピドーを訪問。ミンアウンフライン氏らと会談し、軍事面での連携を確認している。

これに先立ち、中国の王毅国務委員兼外相は7月初旬、クーデター以降初めてミャンマーを訪れ、国軍との関係強化をアピールしている。王毅氏は国軍幹部との会談で「両国関係は常に盤石」と発言し、国軍への影響力を強めようとしている。

ASEANは多くの国が植民地として大国による支配を経験している。宗教や政治体制、経済規模などが大きく異なる中、結束することで大国の影響力を回避しようとしてきた。しかし、ミャンマー問題を契機にASEANは大国が影響力の行使を競う場に変わりつつあり、「遠心力」は強まる一方だ。

実際、マレーシアのサイフディン外相は、ミャンマーの民主化に向けてASEAN域外にも協力を求める可能性に言及している。

8月3日から5日まで開かれたASEAN地域フォーラム(ARF)閣僚級会議など一連の国際会議。中国の王毅氏が少し遅れたタイミングで入場すると、各国の外相が握手を求めて近づいていく場面が何度もみられた。「ミャンマー問題も結局、中国に委ねるしかないかもしれない」。地元記者は不安げにこうつぶやいた。

(ハノイ=大西智也)

[日経ヴェリタス2022年8月28日号掲載]

日経ヴェリタス https://www.nikkei.com/theme/?dw=20062208 』