ウクライナ危機の長期化が世界の多極化をもたらす

ウクライナ危機の長期化が世界の多極化をもたらす アメリカでじわりと広がる悲観論
https://www.dailyshincho.jp/article/2022/09050559/?all=1

『ロシアがウクライナへ軍事侵攻を開始してから半年が経った。多数の兵員と兵器を投入した両国の間の戦いは膠着状態になりつつあり、長期化する懸念が強まっている。

 ウクライナのゼレンスキー大統領は8月23日「ロシアの侵略との戦いに勝利し、クリミアを占領から解放することが必要だ」と表明するなど強気の姿勢を崩していない。

【写真11枚】プーチンの長女・マリアの“訪日旅行写真” 東京ディズニーランド満喫後の姿を捉えた!

 ウクライナが徹底抗戦の姿勢を示す一方、ロシアも長期戦を辞さない構えを見せている。当初、短期での決着を目指していたロシアだが、侵攻が長期化した今、2014年から紛争が続いた東部ドンバス地方と同様、戦闘を続けることでウクライナを曖昧な立場にとどめておくことができるというメリットを見いだしているとの指摘がある(8月23日付日本経済新聞)。

 ロシアが長期戦に移行できた背景には、西側諸国が厳しい制裁を科したにもかかわらず、ロシア経済のダメージが小幅だったことがある。ロシアの今年第2四半期のGDPは前年比4%減となり、5期ぶりのマイナス成長となったが、落ち込み幅は予想されたほど大きくなかった。ロシア経済省は「今年のGDPは4.2%減にとどまり、当初想定したほど落ち込まない」との見通しを示している。堅調な資源輸出がロシア経済への制裁の影響を和らげていることに加え、ロシアからの外国企業の撤退も下火となり、輸入されなくなった消費財などの国内代替が進んでいることが功を奏した形だ。

 楽観できる状況ではないものの、プーチン大統領は「ロシアは長期戦に耐えられる」との自信を深めていることだろう。』

『米国の嘆き節

 ロシアには長期戦を志向する別の理由があるのかもしれない。

 プーチン大統領は「米国主導の世界秩序は終わった」とかねてから主張してきたが、ウクライナでの紛争状態が長引けば長引くほど、米国一極集中時代の終焉の可能性が高まっているからだ。

 ウクライナへの軍事支援の総額は既に100億ドルを超えているにもかかわらず、米国政府は24日、ウクライナに対する約30億ドルの追加軍事支援を発表した。ロシアの侵攻開始以降で最大の規模であり、長期戦を見据えてウクライナを支援するとしている。

 だが、「ウクライナの反転攻勢」への期待をよそに、米軍関係者の間では「ウクライナ軍は精鋭部隊を既に失っており、武器を追加供与したとしても戦況を好転させることは不可能だ」との悲観論が流れている。武器の管理がほとんどなされていないことから、「米国がウクライナへの武器供与に費やした巨額なカネはアフガニスタンへの侵攻の時のようにドブに捨てるようものだ」との嘆き節も聞こえてくる。

 ゼレンスキー大統領が8月上旬に中国に対して救援の要請をしたことについて、米国メデイアが猛反発していることも気になるところだ。

 8月10日付米誌ニューズウィークは「ゼレンスキーの物語は変化しつつある」と題する記事を掲載した。同誌は、米国が国民の血税からウクライナに巨額の支援をしているのにもかかわらず、あろうことか、ゼレンスキー大統領が米国の最も危険な敵である中国共産党に救いを求めたことに憤懣やるかたないようだと報じている。さらに同誌はゼレンスキー氏のことを「腐敗した独裁者」と切り捨て、「ウクライナへの支援は米国の国益に害をもたらすばかりか、ウクライナ国民の窮状を悪化させるだけだ」と結論付けている。ウクライナ危機の下でも、分断化が進む米国は「一枚岩」になることができない。』

『米国の立場に疑念

 ウクライナ危機はこれまで「自由や民主主義を守る戦い」と称されてきたが、紛争が長期化するにつれて、「国際秩序に変革が起きる」との認識が広まりつつある。

 ウクライナに一方的に肩入れした西側諸国に代わり、黒海の対岸に位置するトルコが仲介者として存在感を高めていることがその証左だ。実を結ばなかったものの、3月に外相レベルの停戦交渉が行われたのはトルコであり、8月の穀物輸出に関するロシアとウクライナ間の合意はトルコの仲介によって実現している。

 現在ロシアが占拠しているウクライナ南東部はもともとオスマン・トルコの支配下に置かれていた地域だ。ロシアと中国との「距離」が縮まりつつある中、その入り口にあるのがトルコだ。西側諸国が主導する国連が機能不全となり、世界が再び群雄割拠の時代に逆戻りすることになりつつある状況下で、地の利をいかしてトルコのような地域大国が影響力を持つようになっているのだ。

 米国メデイアも国際社会における米国の立場に疑念を投げかけ始めている。

 8月23日付米ニューヨーク・タイムズは「西側諸国の関心がウクライナに集中しているため、国連の人道支援機関は記録的な資金不足に直面している」と報じた。米国が主導する制裁のせいで深刻な打撃を受けている発展途上国の反発は高まるばかりだ。ウクライナ侵攻に中立を保つ国々の人口は世界の3分の2を占めるが、これらの国々の行動基準は民主主義の価値よりも自国にとって損か得かだ。

 米誌ナショナル・インタレストのコラムニストは8月23日「ロシアとウクライナのどちらが勝ったとしても、戦略的敗北を喫するのは米国だ」との分析を示した。「ロシアは中国やインド、ペルシャ湾岸諸国とより緊密な関係を築き、西側諸国と永遠に関係を絶つだろう」とした上で「米国は多極化が進む世界の現実に向き合わざるを得なくなるだろう」と悲観的な未来を予測している。

 ウクライナ危機の長期化により、米国一極時代の終焉が現実味を帯びてきている。日本もこうした国際政治の現実を直視しなければならないのではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部』