[FT]中国のスパイ活動が「ロシア並み」に

[FT]中国のスパイ活動が「ロシア並み」に 米欧は警戒
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 ※ 『西側の情報当局者が中国とロシアの情報工作の違いを説明する際、海岸から砂を持ち帰れという指令が、例え話としてよく使われる。

ロシアは夜間に潜水艦から数人だけ上陸させ、バケツ1杯の砂を持ち去る。ところが、中国は白昼堂々、多数の海水浴客をビーチに送り込み、それぞれに少しずつ砂を持って帰らせることで、結果として大量の砂を手に入れるという寓話(ぐうわ)だ。

元CIA職員で中国に詳しいニコラス・エフティミアデス氏は、こうして「情報活動の実行方法に新たなパラダイム」が生じていると語った。

西側の複数の情報当局者によると、中国のやり方は非効率で、統制がとれない可能性があり、同一のターゲットに複数のスパイがアプローチすることもある。それでも成果は出やすい。』…。

 ※ まあ、象徴的な話しだな…。

『フランスのテレビのスパイドラマ「ザ・ビューロー」にありそうな話だ。仏情報機関のメンバーであるアンリ・Mが北京に派遣され、駐中国仏大使の通訳とプライベートで親しくなり、機密情報を中国側に流し始める。
FBIのレイ長官は中国のスパイ活動の高度化に驚く(8月上旬、米連邦議会)=ロイター

アンリ・Mはすぐフランスへ呼び戻された。それから20年余り後の2020年の裁判でこのスパイは「フランスの利益を損なう情報」を外国に漏らした罪で投獄8年の判決を受けた。同僚のピエールマリー・Hは17年に逮捕されるまで中国のスパイとして活動したが、アンリ・Mと同じ裁判で投獄12年を言い渡された。

2人が受けた量刑は重く、罪は公開裁判で問われた。この事実は、中国のスパイ活動が広がり、欧州にとっては旧敵であるロシアをしのぐ脅威になりかねないという危機感を映している。

「工作員の能力で、中国はロシア並みになってきた」。米中央情報局(CIA)の欧州部門でトップを務めた経験のある人物は証言する。西側の情報機関員の一人も「中国はロシアと、最も高度な情報活動では肩を並べるようになった」と話す。中国には「忍耐力が極めて強い」工作員がいると、付け加えた。

サイバー攻撃ではすでに高水準

中国のサイバー攻撃はすでに、水準の高さで知られている。21年に米マイクロソフトのシステムが狙われ、世界の3万社・機関が被害を受けたハッキング事件では米国、欧州連合(EU)、英国が、中国政府の命令を受けた犯罪組織の犯行だと断定した。中国側は「根拠がなく無責任な」言いがかりだと主張し、疑いを否定している。

一方、西側の現役とOBの情報機関のメンバー8人によると、中国は人物との接触を通じた「ヒューミント」と呼ばれる情報活動でも、ロシアに劣らないレベルに到達した。こうした状況で、米欧は中国への警戒を強めている。

英秘密情報部(MI6)長官を務めたことのあるアレックス・ヤンガー氏は「ロシアは帝政時代からスパイ活動を続けている。それが好きでたまらないのだ」と話す。「中国はヒューミントでかなり劣っていたのに、最近では右肩上がりだ」

マッカラム英情報局保安部(MI5)長官とレイ米連邦捜査局(FBI)長官は7月にロンドンで共同記者会見を開き、中国共産党による秘密情報活動が盛んになっている現状が「ゲームチェンジ」につながる可能性を秘めていると指摘した。

マッカラム氏は「私たちはオオカミ少年でない」と主張した。欧州の安全保障にとって数十年ぶりの深刻な脅威であるロシアのウクライナ侵攻を目の当たりにして、この言葉は重い意味を持つ。

スパイの手口は中国とロシアではかなり異なる。西側の情報機関は対策を練り直す必要がある。

MI5は22年に入ってから、英国籍の弁護士、クリスティン・リー氏に対し、違法行為は確認されていないが、中国の利益のため英政治に干渉していると公に警告した。

ロシアの工作員とは全く異なる手法

話を聞いた8人のうち、ヤンガー氏の次の情報機関員は「中国のスパイ活動はロシア(によるアプローチ)と全く異なる」と語った。「誰が中国のスパイなのかを定義するだけでも難しい」というのだ。

複数の情報当局者によると、ロシアの対外情報活動は、暗号通信などスパイ技術の訓練を受けたエリートの情報機関員に頼る部分がなお大きく、目標を定めて活動する。しかし中国のスパイは、政治家への影響力の行使、経済や技術に関する機密情報の入手など、様々な目的を持つという。

3番目に取材した情報機関員は「ロシアはスパイ行為の標的を絞り込んでいるが、中国は『全社会』アプローチを採用している」と指摘した。この発言は、17年に成立した中国の国家情報法で「あらゆる組織と市民」が「国の情報活動への支援、助力、協力」を義務付けられた事実を踏まえている。

4人目の情報機関員はロシアの工作を、リスクが高く、ある意味「ならず者」のようだと話した。そのうえで、ロシアと英国の二重スパイだったセルゲイ・スクリパリ氏が18年にイングランド南部で毒薬によって殺されかかった事件を引き合いに出した。

8人のうち、元CIA職員は「ロシアのスパイは、手口が器用でないうえ、かなり傲慢だ。『できるものならば捕まえてみろ』という態度に見えることがある」と説明した。中国の場合は「相手国との良好な関係の維持を目指し、スパイ絡みの不祥事は避けたがる」と語った。

西側の情報当局者が中国とロシアの情報工作の違いを説明する際、海岸から砂を持ち帰れという指令が、例え話としてよく使われる。

ロシアは夜間に潜水艦から数人だけ上陸させ、バケツ1杯の砂を持ち去る。ところが、中国は白昼堂々、多数の海水浴客をビーチに送り込み、それぞれに少しずつ砂を持って帰らせることで、結果として大量の砂を手に入れるという寓話(ぐうわ)だ。

元CIA職員で中国に詳しいニコラス・エフティミアデス氏は、こうして「情報活動の実行方法に新たなパラダイム」が生じていると語った。

西側の複数の情報当局者によると、中国のやり方は非効率で、統制がとれない可能性があり、同一のターゲットに複数のスパイがアプローチすることもある。それでも成果は出やすい。

年83兆円相当の知的財産を米国から盗む

米政府の試算によれば、中国の産業スパイは年間で最大6000億ドル(約83兆円)相当の知的財産を米国から盗み出してきた。だが、中国は否定する。EUは、知的財産が盗まれたことで毎年500億ユーロ(約6兆9000億円)相当の損害を受け、67万1000人の雇用が失われていると推計している。

元MI6副長官で、現在は英国際戦略研究所(IISS)の上級アドバイザーを務めるナイジェル・インクスター氏は「効率よりも成功率の高さの方が、中国の情報機関にとっては大事だ」と話す。

人種に基づいて捜査対象を絞り込む手法を避けながら中国のスパイを特定しなければならないのも課題だと、複数の情報当局者は指摘する。

この面でもロシアとの違いがくっきりと浮かび上がる。欧州諸国は22年、ウクライナ侵攻が始まってから、ロシアの外交官やスパイとみられる人物ら計600人以上を国外に追放してきた。

インクスター氏は「中国政府に同様な対応をとるのは難しい」と語った。当事国の対中関係が希薄になり、揺らぐ可能性があるためだという。

スパイ対策に携わる担当者の一部は、海岸から砂を持ち帰る指令の寓話(ぐうわ)について、中国が最近使うようになった洗練された工作の印象を薄め、誤解を招くとの見方を示した。

情報活動における中国とロシアのアプローチの違いはさておき、西側諸国は事件の多さに戸惑っている。中国のスパイ活動と疑われる案件について、FBIは12時間に1件のペースで新たな捜査が始まると発表した。この件で、MI5の取扱件数は18年以降、7倍に増えた。

FBIのレイ氏は「ここまで労力を惜しまない中国には驚かされる」と感嘆した。

By John Paul Rathbone & Demetri Sevastopulo

(2022年8月30日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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