ミスター黒田、際立つ国際人脈 最後のジャクソンホール

ミスター黒田、際立つ国際人脈 最後のジャクソンホール
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB313BX0R30C22A8000000/

 ※ 国際金融政策は、こういう「インナーサークル」の中での、「阿吽の呼吸」で決められていく…。「金融マフィア」などという言い方もされるが…。

 ※ そういう「構造」の中で、重大決定の前に「そっと耳打ちされる」立場にあるのか、「事前に何も知らされず、不意打ち食らう」立場にあるのか…、などということが「その国の行く末を」大きく左右していく…。

『経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」が閉幕した。米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長らがインフレ退治の決意を示して話題を集めた同会議だが、トップ同士が腹のうちを明かすインナーサークルの集まりである側面を持つ。日銀の黒田東彦総裁に目立った発言はなかったが、その存在感は国際社会でも際立つ。来春以降に想定される日銀新体制は黒田氏が築いた国際人脈を継承できるかも焦点となる。

ジャクソンホール会議は1982年から始まり、毎年夏に開かれている。米カンザスシティー連邦準備銀行が主催するシンポジウムで中央銀行関係者や経済学者らが参加し、世界経済や金融政策を議論する。新型コロナウイルスの影響で2020、21年はオンライン開催となったが、3年ぶりに対面での開催となった。

「(インフレ退治を)やり遂げるまでやり続けなければならない」(パウエル氏)、「インフレ抑制には犠牲がつきもの」(欧州中央銀行=ECBのシュナーベル専務理事)。各中銀トップの利上げを巡る発言が注目を集める一方、黒田氏は従来の大規模緩和の必要性を強調するにとどめた。

表向き目立った発言はなく、随行したのも秘書らごく一部の職員だけ。来年4月に任期を迎える総裁として最後の出席になるであろう会合は比較的ひっそりと、目立たぬかたちで幕を閉じたように見えた。

それでも「今回の会議は収穫が多かった」。多くの日銀関係者は口をそろえる。それはジャクソンホールのもう一つの顔が理由だ。各国中銀トップが講演やシンポジウムで市場へ強いメッセージを打ち出す側面が注目されるが、各国中銀トップがインナーの場で決して表に出さない本音を交わしている。

異次元緩和を維持する日銀だが、利上げという出口戦略を将来にわたり全く念頭に置いていないわけではない。金融政策で他の主要中銀との違いが鮮明になっても、各国のインフレ対応は今後の政策運営を考える上で重要情報となるのは間違いない。

財務官、アジア開発銀行(ADB)総裁を歴任した黒田氏の国際的な知名度は高い。それに加え、10年目に入った日銀総裁在任期間は今の主要中銀の中で群を抜く。

7月にイエレン米財務長官が来日した際も、財務相会談の前にひそかに黒田氏と面会したとされる。日銀関係者は「(黒田氏は)独自の人脈で海外の高官と直接会い、頻繁に意見を交わしている」と明かす。

他国から日銀の金融政策に干渉する向きはほとんどみられない。「ミスタークロダ」の存在感は依然として大きく、「国際的な会合では他国の中銀関係者が黒田氏のもとにあいさつに訪れるカリスマ的存在だ」(日銀関係者)。

残り任期が半年余りとなった黒田氏だが、今から利上げに踏み切ると見る声は市場でも少なくなりつつある。市場の視線が徐々にポスト黒田へ移るなか、ある日銀OBは「異次元緩和は永遠に続けられるものではない。5年のうちには正常化が求められる。次の総裁は火中のくりを拾うようなものだ」との見方を示す。

金融政策を講じる上で国際社会の置かれた情勢を迅速に、正確に把握できる主要中銀のインナーの地位を築いたのは黒田氏の力が大きい。異次元緩和を維持するにしろ、出口を模索するにせよ、次期正副総裁は黒田氏に匹敵するだけの国際人脈を備えることができるかも試されることになる。

(小野沢健一)

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上野泰也
みずほ証券 チーフマーケットエコノミスト
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ひとこと解説

一般論として、日銀総裁は海外の政策当局者と堂々とわたりあえる人物が望ましい。日本の金融政策は、日本だけで鎖国的に完結する事柄ではない。経済がグローバル化しており、かつ金融市場の影響力が以前にも増して大きくなっている中で、日本にとってベストの政策の道筋を探るべく、記事にあるような非公式ベースのものも含めてさまざまな情報を入手した上で、政策運営に生かしていく必要がある。そうした金融政策のプロとしての資質に加え、日銀という大きな会社組織のトップとしての統率力・指導力、国会における参考人質疑を無難にこなすことなどができるコミュニケーション能力なども要求されてくる。次期総裁の人選に、市場は注目している。
2022年9月2日 9:08 』