米軍アフガン撤収1年

米軍アフガン撤収1年 中国・ロシアの増長招く
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『【ワシントン=坂口幸裕】アフガニスタンの駐留米軍が撤収してから30日で1年になる。想定外の現地の混迷は米国の威信を低下させた。海外紛争への関与に慎重とみたロシアによるウクライナ侵攻を招いたとの見方は根強い。バイデン大統領の1年前の決断が政権運営になお影を落とす。

バイデン氏は26日、アフガンの米軍撤退直前に米兵13人が死亡した自爆テロから1年を受けて声明を発表した。8月に発表した国際テロ組織アルカイダの最高指導者ザワヒリ容疑者の殺害などを挙げ「米国に危害を加えようとするテロリストがどこにいようと追い詰める」と対テロ作戦を継続する姿勢を強調した。

バイデン氏にとって2021年8月は暗転の始まりだった。米国史上最長のアフガン戦争の終結は世論が望んだはずだったが、米マーケット大が21年9月に実施した世論調査によると、74%が米軍撤収を支持したものの、バイデン氏の撤収への対処を66%が「好ましくない」と答えた。

若い米兵の犠牲を防ぐのが撤収理由のひとつだったが、現地の混乱を狙ったテロで13人の米兵が殺害された。欧州の同盟国からも慎重論があった8月31日の撤収期限にこだわった結果だっただけに、国内外でバイデン氏の指導力に疑問符がついた。

国連によると、アフガンで21年8月から10カ月の間にテロによる死者は700人。負傷者は1400人以上にのぼる。

世界で米国の存在感が薄まる「力の空白」は中国やロシアなど米国と敵対する国に増長する隙を与えた。米国際評価戦略センターのリチャード・フィッシャー主任研究員は「ロシアのプーチン大統領がウクライナ侵攻を決めたのは米国のアフガン撤退が引き金になった可能性が非常に高い」とみる。

2月24日のウクライナ侵攻に先立ち、バイデン氏は同国への米軍派遣を否定した。軍事力の行使をためらう米国の抑止力低下は隠しようがなく、冷戦後の国際秩序が揺らぐ現状を映す。

アジアにも波及する。ウクライナ危機に伴う安全保障環境の変化は、米国がテロとの戦いから中国との競争に重心を移すさなかに起きた。米国の対中国の抑止力強化が妨げられれば台湾海峡や東・南シナ海の安定を損なう事態になる。

中国軍は8月上旬、ペロシ米下院議長の訪台に反発して台湾周辺で大規模な軍事演習を実施。台湾上空を通過するミサイルも発射した。中国軍はこうした動きを常態化させようともくろむ。米国は日本やオーストラリアなど同盟国とともに、中国を抑止する戦略を具体化する作業を急ぐ必要がある。

米国内でも低下したバイデン氏の求心力は回復していない。米リアル・クリア・ポリティクスによると政権発足直後の21年1月下旬に56%あった世論調査の平均支持率は、アフガンを巡る混乱で批判が高まった同年8月中旬以降、一貫して不支持が支持を上回っている。

足元では与党・民主党内の対立で滞っていた歳出・歳入法の成立などに加え、歴史的な物価高に一服感が出ていることを受けて支持が持ち直してはいる。7月中旬に36%台まで落ち込んだ支持率は28日時点で42%に戻したが、アフガン撤収前の水準には遠い。

バイデン氏に対する審判となる11月8日投票の中間選挙まで残り2カ月余り。1年前に下したアフガン撤収判断がいまも政権の重荷になっている。

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鈴木一人
東京大学 公共政策大学院 教授
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分析・考察

私もあちこちでフィッシャーさんのいうように米のアフガン撤退がプーチン大統領にウクライナ侵攻のきっかけを与えたと論じてきたが、裏返せば、これまでアメリカが介入するということがいかに他の国を抑止してきたか、ということでもある。それはつまり、アメリカによる平和という時代が終わり、国際関係が第二次大戦以前の姿、すなわち主権国家が互いに自らの利益のために対立するという姿を見せ始めているともいえる。ただし、こうした介入が出来るのはロシアが自ら大国だと自認しているからであり、どこでも起こる話ではない。
2022年8月30日 10:42

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柯 隆
東京財団政策研究所 主席研究員
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ひとこと解説

バイデンの国際戦略は間違いなく間違っていた。アフガン撤兵はもとより、ウクライナ戦争に参戦しないと早々手のひらをみせたのも。ただ、アメリカの国力が予想と違って、依然強い。この点についてプーチンは後悔しているはず。そして、かつてないほどアメリカの同盟国は予想以上に団結している。これから新たな国際秩序を構築しないといけない
2022年8月30日 7:23』