中ロ・北朝鮮の強硬姿勢は「虚勢」 軍事演習は国内向け

中ロ・北朝鮮の強硬姿勢は「虚勢」 軍事演習は国内向け
編集委員・高坂哲郎
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM240U70U2A820C2000000/

『中国やロシア、北朝鮮が相次ぎ大規模な軍事演習を日本周辺で実施し、日本や米国、台湾などを威嚇している。ただ、いずれの軍事行動も強硬姿勢の裏に「虚勢」がにじむ。開始から半年が経過したウクライナ侵攻でロシア軍の弱さが露呈し、これまで同軍を参考に軍備を近代化してきた中国軍などが苦境に陥っていることが背景にある。
15日、中国軍の東部戦区が「微信」の公式アカウントに投稿した軍用機の画像=共同

中国軍は8月上旬、ペロシ米下院議長の台湾訪問に反発して台湾周辺で大規模な軍事演習を実施。台湾上空を通過するミサイル発射もした。中国軍は今後こうした動きを常態化する恐れもある。ロシア軍は9月1日から極東地域で4年に一度の大規模軍事演習「ボストーク2022」を実施し、これには中国軍なども参加する。米韓両軍は22日から9月1日までの日程で定例の合同軍事演習を韓国全域で継続中だ。北朝鮮は既にこれに反発しており、演習期間中にミサイル発射など何らかの動きに出る可能性がある。

ただ、中ロ朝が見せる軍事的強硬姿勢は、見せかけの可能性がある。すべての起点は、この半年間でロシア軍が示した「弱さ」だ。

「ロシア軍があれほど無様とは正直驚いた」――。冷戦時代からソ連軍、その後身のロシア軍を注視してきた元自衛隊制服組幹部が語る。米欧製の精密誘導兵器で次々撃破された地上軍部隊やロシア海軍の旗艦モスクワ、戦闘機部隊の無残な姿が報じられている。
ウクライナ軍に撃破されたロシア軍の戦車(キーウ近郊)=AP

これに内心激しく動揺しているとみられるのが中国軍だ。中国軍は共産党政権の発足前から旧ソ連の軍事支援で創設された経緯があり、近年もロシア製戦闘機やエンジンなどを多数輸入。外洋艦隊としての経験の浅い中国海軍は、ロシア極東艦隊を「師」と仰ぎ、過去には本州や九州の周辺海域を周回する合同訓練などをしてきた。

ウクライナでのロシア軍の苦戦ぶりを見る限り、現時点で中国軍が台湾制圧を強行しようとしても、上陸前に揚陸艦などは次々と沈められ、多数の兵士が犠牲になる展開が強く意識されるようになった。弾道ミサイルなどを多数発射して台湾の政府や軍の中枢をたたけたとしても、その後に地上部隊を送って台湾を長期間制圧できるだけの能力は現在の中国軍にはなさそうだ。「米軍の攻撃を恐れ、中国空母も軍港の奥深くから出てこられない」(元自衛隊情報系幹部)との声もある。

無理に軍事行動に出たとしても、その後に各国から厳しい制裁を受け、経済が混乱するという展開もロシアは示した。このため、中国軍が今できるのは、ミサイルを台湾上空越しに撃ったり、多数の戦闘機を台湾周辺空域で機動させて威圧したりすることくらいしかない。いずれも、中国軍が「劣勢ではない」ことを国内向けに必死で訴え、中国国民の支持を失わないようにするのが最も重要な目的なのだ。

ロシア軍が近く開始する大規模演習も同様に「国内向け」と言ってよい。ロシア地上軍は極東地域から多数の兵士をウクライナに送り、おびただしい犠牲者を出した。そうした苦境にあるからこそ、「ロシアには味方となる外国軍がおり、孤立しているわけではない」と自国民に強調したいプーチン大統領にとっては、中国軍の演習参加は欠かせない。ただ、旗艦をあっさり沈められたロシア海軍との合同演習について、中国海軍は冷めた目でみているはずだ。

米韓合同演習に北朝鮮が反発して何らかの動きに出る公算は大きい。ただ、それは相次ぐ自然災害や新型コロナウイルスの感染拡大、経済弱体化に苦しむ北朝鮮にどの程度の余力があるのかを、米韓両国の情報機関に分析させる材料にはなろうが、北朝鮮にとっては貴重なミサイルなどの在庫を減らすデメリットしかない。

こうしてみると、足元の中ロ朝の軍事的強硬姿勢には過剰反応する必要はないことが分かる。ただ、おそらく中国軍はウクライナ紛争の戦訓を慎重に研究し、今後30年程度を視野に「次世代型複合戦」の手法を磨こうとするだろう。そうした中長期的展開に関しては、日本や米国、台湾などは油断すべきではない。

[日経ヴェリタス2022年8月28日号掲載]

日経ヴェリタス https://www.nikkei.com/theme/?dw=20062208 』