[FT]ギリシャ野党幹部の盗聴に首相関与か 情報機関暗躍

[FT]ギリシャ野党幹部の盗聴に首相関与か 情報機関暗躍
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『ギリシャの野党・全ギリシャ社会主義運動(PASOK)の党首、ニコス・アンドロウラキス氏が真相を求めている。同国の情報機関は今月、同氏の電話を盗聴していたことを認めたが、この事件にミツォタキス首相が関与したのかどうかが焦点だ。

政権発足から3年を経過したミツォタキス首相にとって盗聴スキャンダルは深刻な政治問題になりつつある=ロイター

アンドロウラキス氏はインタビューに応じ、「ギリシャ選出の欧州議員であり、当時はギリシャ第3野党の党首候補だった私への盗聴を法と憲法に違反してまで誰がどんな理由で要請したのか」と述べ、全容解明を求めた。「首相が直接の政治的責任を負っていないすれば、誰が国の情報機関の任務を管轄しているというのか」

欧州議員でもあるアンドロウラキス氏への盗聴は発足後3年を経過したミツォタキス政権にとって深刻な政治問題になりつつある。野党側は今週始まった議会での議論と質疑を通じて政権を厳しく追及し、中道右派を掲げる首相の人気を崩したい考えだ。

アテネのシンクタンク、ヘレニック財団欧州・外交政策研究所のゲオルギオス・パグラトス所長は「ミツォタキス氏は移民問題から新型コロナウイルス、トルコとの二国間関係、エネルギー危機まで、数々の深刻な危機をうまく切り抜けてきたが、今や政治的混乱に陥りかねない未曽有の危機に直面している」と語った。

「私は知らないし、許可もしていない」

全ギリシャ社会主義運動のアンドロウラキス党首は情報機関に電話を盗聴されたとして政府に訴訟を起こした=AP

ミツォタキス氏は今月行った演説の中で盗聴は違法との認識を示し、自らの関与を誤解だと否定した。「私は盗聴について知らなかったし、当然ながら許可したこともない」と述べ、「闇の勢力」が国を揺るがそうとしていると非難した。

ミツォタキス氏に近い人物は、ギリシャがロシアによるウクライナ侵攻に反対したことへの当てつけだと説明した。「この数カ月間、欧州諸国を直接・間接に揺さぶろうとする動きが相次いで見られたのも単なる偶然ではない」

アンドロウラキス氏は今年に入り欧州議員として実施した調査でも、自身の携帯電話がスパイウェア「プレデター」の標的になっていたことに気付いた。プレデターは対話アプリ「ワッツアップ」の暗号化された通信内容を盗んだり、カメラやマイクを起動して標的を監視したりできる。

ギリシャ政府はプレデターを購入も使用もしていないと否定する。一方、スパイウェアを監視するカナダの専門機関シチズンラボの分析によると、ギリシャ国家情報庁(EYP)はアンドロウラキス氏の携帯電話にプレデターを埋め込むのに失敗したのとほぼ同時期に、通信事業者を通じて同氏の電話盗聴を開始していたという。

アンドロウラキス氏は「EYPは私の電話の盗聴を始めた5日後に、私の携帯電話にプレデターを仕込もうとした。これをどう説明するのか」と語気を強めた。

フィナンシャル・タイムズ(FT)にかつて記事を寄稿していたジャーナリストのタナシス・コウカキス氏もプレデターの被害に遭ったと明かした。EYPに電話を監視されていると電子通信監視機関の電子政府推進庁(ADAE)に訴え出た後、プレデターを仕込まれたという。両氏ともギリシャ政府を相手取って訴訟を起こしている。

盗聴スキャンダルを受け、EYPの監視活動の実態を追及する動きが強まっている。ミツォタキス氏は2019年の首相就任直後にEYPを首相直属の機関とした。

19年にはミツォタキス氏がEYP長官にパナギオティス・コントレオン氏を指名したことも問題視された。民間警備会社のトップながら国の安全保障に携わった経験に乏しかったためだ。同氏の新長官就任は就任資格に関する法律改正を経て議会承認されたものの、盗聴事件の発覚を受けて今月辞任した。

ミツォタキス氏の甥(おい)で、EYPを政治的に監督する立場にあった首席首相秘書官のグリゴリス・ディミトリアディス氏も辞任した。同氏は不正行為や盗聴への関与を否定している。
合法的な監視命令が年々増加
19年、ミツォタキス首相から情報機関EYPの長官に指名されたコントレオン氏は盗聴事件の発覚を受けて辞任した=AP

ADAEのデータによると、EYPによる合法的な監視命令は年々増えている。2021年は1万5000件に達し、ミツォタキス氏の首相就任前の18年の水準を30%超上回った。

もっとも、夏季五輪を開催したギリシャがテロリストの攻撃目標になると見られていた04年でさえ監視命令は500件未満にとどまっていた。

監視命令が急増したのは18年からだ。当時政権に就いていた急進左派連合(SYRIZA)が、監視命令の承認に必要な検察官を2人から1人に減らしたためで、これを機に監視手続きの独立性と正当性が損なわれたと批判する声もある。

1999年から2005年にかけてEYP長官を務めたパブロス・アポストリディス氏は、監視命令の多さに驚きの声を上げた。「毎年急増してきたのは正当化できない」

英マンチェスター大学のディミトリス・パパディミトリウ教授(政治科学)は、盗聴スキャンダルは「経済的・社会的課題に対してリベラルな立場を取るミツォタキス氏が何年もかけて慎重に築いてきた政治家としてのイメージを傷つけかねない」との見方を示した。
政府は必要以上に監視が強化されているとの見方を否定する。ゲラペトリティス内閣府担当大臣は、監視対象者が複数の電話を所有しているケースもあれば、1つの電話番号に複数の監視発令が繰り返し出される場合もあると釈明した。

これまで情報機関がある人物を監視下に置いた場合や、その人物が国の安全保障の脅威ではなくなったと判断した場合には、ADAEがその事実を認定しなければならなかった。だが、ジャーナリストのコウカキス氏が昨年、訴訟を起こしてからは法が改正され、ADAEによる認定は不要になった。

ADAEトップは憲法や欧州連合(EU)の基本権憲章に反する可能性があるとして法改正に反対したが、施行された。

ゲラペトリティス氏はギリシャがトルコとの関係悪化や相次ぐスパイ事件などで「重圧を受けている」と述べ、法改正を正当化した。さらに、欧州では安全保障上の理由で監視対象とする人物の氏名を公表しない国も多いと付け加えた。

ミツォタキス首相が新たにEYP長官に指名した人物は今週、野党全員が投票を棄権した議会委員会で承認された。ミツォタキス氏は今後、盗聴事件の調査範囲を拡大し、前政権下での監視活動も対象に加えるとみられている。

EYP長官を務めたアポストリディス氏はEYPの監視をめぐる議論によって「彼らの任務を妨げるのではなく、改善につなげることが重要だ」と強調した。

By Eleni Varvitsioti

(2022年8月25日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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