元KGB諜報員が明かす内幕 プーチン政権の底流映す世界の話題書「L’ECLAIREUR」

元KGB諜報員が明かす内幕 プーチン政権の底流映す
世界の話題書「L’ECLAIREUR」 パリ発
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR2008J0Q2A820C2000000/

『「我々と仕事をしてほしいと思っている」。旧ソ連のエリート校、モスクワ国際関係大学の大学生だったセルゲイ・ジルノフ氏に国家保安委員会(KGB)から声がかかった。成績優秀、特に英語、フランス語がずばぬけて得意だったジルノフ氏は才能を見込まれて勧誘され、想像もしなかった諜報員(ちょうほういん)としての人生を歩み出す。与えられた任務はフランスの情報を盗み出すことだった。

元KGB職員のジルノフ氏と元仏軍人のジャンリュック・リバ氏による共著「偵察者(L’ECLAIREUR)」は旧ソ連がどのように諜報員を国外に送り込んでいたかを明らかにするノンフィクション作品だ。3月に発売され、ウクライナ危機でロシアへの警戒感が高まったことも重なって話題作となっている。

ジルノフ氏が旧ソ連政府の目にとまったのは同氏が12歳の時だ。ある英語のコンテストで優勝したことがきっかけで、本人の知らないところでKGBのデータベースに登録された。旧ソ連は国を挙げて才能ある若者を探し、諜報員として育て上げる体制を持っていたのだ。

「帝国主義者」「ブルジョワのプロパガンダ」――。冷戦下で旧ソ連がいかに欧米を敵視し、国民に同じ考えを強いていたかも垣間見える。ジルノフ氏の周囲の人物は欧米諸国や思想について、こんな表現を使って軽蔑する姿勢をみせてきた。当時は欧米からの人の移動や文化の流入にも制限がかかっていた。

本書が話題となったのは、こうした記述から現在のロシアのプーチン政権が欧米諸国をどうとらえているかを理解することにもつながるからだろう。フランスのマクロン大統領はロシアとの対話を模索してきたが、プーチン氏にとって「西側」はどこまでいっても敵国で、国威を維持拡大するのに障害となり得る存在なのだ。ウクライナ侵攻でその傾向は加速しているようにみえる。

ところでジルノフ氏はプーチン氏とも面識があり、KGBに勤務していたプーチン氏が大学生だったジルノフ氏に西側のスパイ嫌疑をかけ、尋問する場面もある。KGBのルールに反して敬語を使わず尋問を始めたプーチン氏に対し「敬語で話してください」とジルノフ氏がやり返す興味深いやりとりなどが収められている。通常では知ることができないこうした旧ソ連内部の動きが詳細に書き込まれているのも本書の魅力だ。

(白石透冴)

【世界の話題書】

・中国を助けて誰が得をしたか 米中関係に一石投じた本
・「それでも生きていく」 翻弄される庶民描く中国小説
・ウクライナ史の解説書 翻弄された「欧州の国家」 』