[FT]中米エルサルバドル、4万人収容の巨大刑務所を建設

[FT]中米エルサルバドル、4万人収容の巨大刑務所を建設
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『エルサルバドルのブケレ大統領は、この「テロリズム監禁センター」の工事を60日以内に終わらせるよう現場作業員に命じた。エルサルバドルが独裁へ一層進むことを何よりも鮮明に示す動きだ。

同国南東部の農村地帯、緑の草原が広がる緩やかな丘陵地帯に立地する「メガ刑務所」は、37の監視塔と8棟の獄舎を備え、ブケレ氏が「脱獄不可能」とする高い塀で囲まれる。

「わずか数年前に世界で最も危険な国だったエルサルバドルは今、中南米で最も安全な国に向かって進んでいる」とブケレ氏は7月に述べた。同氏はツイッターへの投稿で、新しい刑務所は「4万人のテロリストを収監でき、外部との連絡は完全に断たれる」としている。
国内的には「犯罪に厳しい大統領」

人権団体は、恣意的な拘束や拘留中の死、家族が連絡を取れなくなることに警鐘を鳴らしているが、長年の流血にうんざりしている国民は「ギャングとの戦争」を旗印に掲げるブケレ氏の弾圧を支持している。

エルサルバドルは3月27日、人口650万人にすぎない国内で週末の一日にギャングの暴力により62人の死者が出た事態を受けて、非常事態を宣言した。

警察は貧困地区でギャングのメンバーとされる数千人を拘束した。報道写真は、白い下着姿で後ろ手に縛られて連行される容疑者たちの姿を捉えている。ブケレ氏は「神に誓って一粒の米も与えない」とし、拘留中の食事を大幅に減らした。

暗号資産(仮想通貨)への投資に動き、その代表格のビットコインを法定通貨に採用したブケレ氏は、時代の先端を行く革新的な大統領として国際的にアピールしている。だが、国内的には「犯罪に厳しい大統領」というイメージで、巨大刑務所の建設はその実績につながる。 

ホセ・シメオン・カーニャス中米大学(UCA)が5月に実施した世論調査では、回答者の40%は憲法上の権利が停止されていることを知らなかったが、ほぼ85%の人が非常事態宣言を支持すると回答した。また、ほぼ80%の人が非常事態宣言で犯罪が減ったとした。

「この国はギャングを憎んでいる」と話すのは、独立系報道機関エルファロのオスカル・マルティネス論説委員だ。「この国は、誰かが問題の解決を約束してくれる限り、市民の権利を大きく犠牲にすることもいとわない」
長引く非常事態宣言延長

エルサルバドルの議会は17日、非常事態宣言の5度目の延長を決めた。ビジャトロ司法・公共治安相は5万人を拘束したと報告し、殺人件数ゼロの日が77日あったとしている。

人権擁護の活動に長年携わるセリア・メドラノ氏は、「これは恒久的な非常事態宣言であることがより明確になってきている」と言う。

非常事態宣言が出された3月、米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスによると、ブケレ氏が1億600万ドル(145億円)の公的資金を投じて購入したビットコインは約5700万ドルの含み損を抱えていた。同氏はビットコイン債の発行と戦略都市「ビットコインシティー」の建設計画を打ち出したが、ともに遅れが出ている。

シンクタンク、国際危機グループ(ICG)の中米アナリスト、ティツィアーノ・ブレダ氏はギャングの暴力事件について「大統領のイメージを傷つける象徴的な事件だった」と説明する。「ビットコイン信奉者に大統領自らが投資を呼びかける国にふさわしくない現実の姿を見せつけた」

エルファロの報道によると、2022年に入ってからのギャングの暴力は、21年の議会選挙への協力と金銭的な取り計らい、刑務所内での処遇改善と引き換えに暴力を控えるというギャング側と政府との密約が火種となった。

ブケレ氏は密約について否定したが、その後に米財務省が密約の交渉に関わったとしてブケレ政権の高官2人を制裁対象とした。ブケレ氏がツイッター上でバイデン米政権を非難し、両国関係はこじれた。

人権団体クリストサルの報告によると、非常事態宣言の発出以降、恣意的な拘束の訴えは2700件近くに上り、69人が拘束後に死亡している。札付きのギャングのメンバーと同じ監房に入れられた容疑者もいるという。拘束後の居場所について家族が情報を得られないことも少なくないと、同団体で反腐敗部門を率いるルース・ロペス氏は話す。

拘束された容疑者たちの家族を代表するオットー・フローレス弁護士は、「捜査や証拠の収集に基づかずに拘束している」と語る。「何もかもが場当たり的だ」

ブケレ氏は人権団体や非政府組織(NGO)の活動を軽視し、テロリストを守っていると非難する。メディアにも矛先を向け、主要な報道機関に対する統制を固めた。

20年2月には軍の兵士を議会に乗り込ませて自ら議長席に陣取り、治安装備調達のための借り入れを承認するよう要求した。
NGOにも規制、協力に消極的に

21年の議会選挙で3分の2の議席を獲得したブケレ氏の新思想党は、憲法法廷と司法システムを骨抜きにした。新たな法律により、NGOに対する会計検査と非常事態宣言下での報道統制も強化された。

「NGOという言葉は以前のような人気はない」と語るのはオランダ多党民主主義研究所のエルサルバドル部長、フアン・メレンデス氏だ。同研究所に協力する人たちが「政治的な迫害を受けることになると思うようになったため」、協力を控えることが多くなっているという。

エクアドル大統領府はコメントの要請に応じなかった。

専門家は、非常事態宣言によって少なくとも一時的にギャングは弱体化したとみるが、押収されている武器はごく一部分にすぎないと指摘する。

これまでギャング側はもたらす被害者の多さを大統領に対する「交渉カード」に使い、「ブケレも反応してくると考えていた」とエルファロのマルティネス氏は言う。「しかし、ブケレはただの指導者ではない。全権を握る指導者だ」

By David Agren

(2022年8月24日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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