[FT]ロシアの極右思想、世界へ  プーチン氏の侵攻を支持

[FT]ロシアの極右思想、世界へ  プーチン氏の侵攻を支持
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB240Z00U2A820C2000000/

『長いひげと過激な発言をもってすれば、簡単に注目を集められることにロシアの極右の思想家アレクサンドル・ドゥーギン氏は気づいた。彼を「プーチン大統領の頭脳」、あるいはロシア帝政末期の怪僧になぞらえ「ラスプーチン」と呼ぶ人までいる。だが、2014年にモスクワ国立大学教授の職を失った事実から、ロシア政府に対し、特に影響力を持つわけではないとする向きもある。

イラスト James Ferguson/Financial Times

それでも今月20日、ドゥーギン氏の娘で国家主義的なジャーナリスト、ダリア氏がモスクワ郊外で運転していた自動車が爆発して死亡した事件から、ドゥーギン氏を重要人物とみる人がいるのは明らかだ。爆発したのが彼の車だったため、ドゥーギン氏を狙った犯行との見方が優勢だ。

ウクライナ侵攻を1990年代から提唱

プーチン氏とドゥーギン氏の個人的な関係がどうであろうと、プーチン氏がウクライナ侵攻を決断したことは、ドゥーギン氏が1990年代初頭から主張してきた考え方が実行に移されたことを意味する。ドゥーギン氏は97年の著書でロシア士官学校の必読書にもなった「地政学の基礎」で「ウクライナは地政学的には存在する理由がない」と主張した。

2018年に中国・上海の復旦大学で講演した際、プーチン氏への影響力について質問されたドゥーギン氏はあまり多くを語らなかったが、ロシアがクリミアを併合すべきだとの考えは「プーチン氏が行動を起こすはるか前」の1990年代に自分は主張していたと指摘した。
ドゥーギン氏は中国で存在感を発揮した。彼はプーチン氏に近いらしいという噂と、高い言語能力(英語とフランス語を流ちょうに話す)を生かし、自ら国際的にその存在感を高めていった。

そして今や中国やイラン、トルコでは、米国の覇権を打破したいとする勢力のスポークスマンおよび調整役となっている。一方、欧州や米国では各国の極右勢力と通じ、自らを「グローバリズム」との闘いにおける同盟者と位置付けている。

ドゥーギン氏は復旦大学での一連の講演でロシアと中国は連帯して「多極的な世界秩序」を構築し、米国による覇権を終わらせなければならないと論じた。3月に中国の王毅(ワン・イー)国務委員兼外相とロシアのラブロフ外相が会談した際、両者はこの考え方を支持し、ラブロフ氏は王氏に両国が「ともに(中略)多極的で公正で民主的な世界秩序へと向かう」べきだと呼びかけた。

イラン、トルコの政府や西側の極右に接触

ドゥーギン氏の世界観では、ユーラシア大陸の国々はロシアを中心とした「大陸国家」であり、米国(その前は英国)が主導した「海洋国家」中心の世界とは必然的に対立する。同氏はナチスにも加担したドイツの哲学者カール・シュミットが「欧州とロシア、アジアが直面する『敵』とは、米国とその島国の同盟国イングランドであることを明確に理解していた」として彼を称賛してきた。

こうしたドゥーギン氏の反西欧的、反自由主義的な考え方はイランでもすぐ歓迎された。同氏はイランを何度も訪れており、体制内の強硬派に特に人気がある。2015年には自分を招いたイランの人々に、イランを「近代化(西洋化)に抵抗する闘いの主要拠点だ」と持ち上げた(これは褒め言葉らしい)。

同氏はトルコも定期的に訪問しており、与党・公正発展党(AKP)のゲストに招かれることもある。そうした中で、現政権内の反米勢力と共通認識を築いてきた。

一方、欧州ではドゥーギン氏は自らの資金提供者であるロシアの銀行家コンスタンチン・マロフェーエフ氏とオーストリアの自由党やイタリアの同盟、フランスの国民連合など極右政党と関係を築き、ロシアや西欧各国で会議や講演、会合を催すことで連携を維持している。

米国のドゥーギン氏支持者も当然、極右勢力だ。トランプ氏が大統領に就任して間もない17年2月に、ドゥーギン氏は極右の陰謀論者アレックス・ジョーンズ氏のインタビューを受け、「私が心から支持するトランプ氏」への期待を表明した。そして、トランプ氏支持派とプーチン氏支持派は「共通の敵であるグローバリスト」に対抗するため団結すべきだと語った。

トランプ氏が16年の大統領選に勝利した直後、右手を斜め上に掲げ「ハイル・トランプ」と叫ぶ姿がカメラに捉えられた極右のリチャード・スペンサー氏(編集注、白人至上主義者として知られる)もドゥーギン氏とつながっている。スペンサー氏の妻はドゥーギン氏の著作を英訳したこともある。

ロシア政府の政策、今後過激さ増すのか

ドゥーギン氏は最近、中国やパキスタンの学者を集めた講演で、ロシアはウクライナでの敗北を認めるぐらいなら核兵器を使うだろうと断言した。今の問題は、20日のダリア氏殺害事件を受け、ロシア政府がウクライナでの戦争や国内政治で一層過激な政策に向かうのかだ。

ロシア連邦保安局(FSB)は既に事件を解決したと主張している。ウクライナが暗殺を依頼したと断定し、実行犯は既にロシアから国境を越えてエストニアに逃亡したと発表した。この主張はロシアが今後、ウクライナ政府の主要な建物や要人を標的とした攻撃を含む首都キーウ(キエフ)空爆を正当化するのに利用される可能性がある。

さらにロシア政府がエストニアに実行犯とする容疑者の引き渡しを要求するだけでなく、引き渡さなければ軍事措置も辞さないと脅せば、ロシアは北大西洋条約機構(NATO)加盟国と紛争に発展しかねない事態に突入することを意味する。

ウクライナ政府は事件への一切の関与をすぐに否定した。しかし、だからといってロシア政府の多くの人の考え方が変わるわけではない。ドゥーギン氏に代表される極端な国家主義を信奉する面々は、以前からロシアはもっと容赦ない戦術に出るべきだと主張してきた。

ドゥーギン氏は暴力的で扇動的な弁舌を得意とするが、それは講堂やテレビ局のスタジオなど戦場から離れた安全な場所からだった。しかし、20日の事件で、モスクワも戦いの最前線となった。

14年にロシアが一方的にクリミアを併合した際、ドゥーギン氏はロシア人にウクライナ人を「殺して殺して殺しまくれ」と呼びかけた。ロシア侵攻による悲惨な事態を耐え忍んでいる多くのウクライナ人に、ドゥーギン氏のために涙を流す人はほぼいないだろう。ロシアとウクライナの紛争から距離のある人は、どんな人であっても自分の子どもを目の前で爆破されるようなことは許されないと思うのかもしれない。

By Gideon Rachman

(2022年8月23日付 英フィナンシャル・タイムズ紙 https://www.ft.com/)

(c) The Financial Times Limited 2022. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.

ギデオン・ラックマン

Gideon Rachman 英国生まれ。英BBCや英エコノミストなどを経て2006年FTに入社。同年、現在の外交関係の論評責任者に。2016年政治分野のジャーナリストとして英オーウェル賞を受賞。著書に「Easternization」(2016年)などがある。

[FT]ロシアの極右思想、世界へ  プーチン氏の侵攻を支持(0:00)
[FT]トルコ、NATOに不可欠 黒海掌握で価値証明(7月8日) 』