「中国にのみ込まれた」 カンボジア海軍基地の町ルポ

「中国にのみ込まれた」 カンボジア海軍基地の町ルポ
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM099LN0Z00C22A8000000/

『カンボジア南西部のリアム海軍基地の拡張工事を中国が無償で支援し、米国が警戒している。海洋進出を進める中国が同基地を軍事利用する可能性があると考える。リアム基地を抱える主要都市シアヌークビルには中国系のホテルやカジノが並ぶ。中国の経済力に頼るフン・セン政権による開発の最前線だ。市内を歩くと、住民からは「中国にのみ込まれた」との嘆きが漏れた。

「このあたりは中国にのみ込まれてしまったようだ。あそこもそうだ」。7月下旬にシアヌークビルを訪れると、リアム基地の近くで雑貨店を営む女性が、基地の方を指さして話した。車で近づくと、カンボジア軍の兵士に制止された。これまでの訪問では感じなかった緊張感が漂っていた。

中国が拡張工事を支援するリアム海軍基地

「基地に近づく住民は最近、少なくなった」。現地のジャーナリストは話す。この数カ月、基地には工事の関係者とみられる中国人の出入りが目立つようになったという。基地の近くには土砂を満載した大型トラックが列をつくっていたが、基地の拡張工事との関係は確認できなかった。

カンボジア政府が中国の支援で拡張工事を始めると発表したのは6月上旬だ。7月上旬に撮影された衛星写真で米戦略国際問題研究所(CSIS)が分析すると、基地の内部では桟橋のような構造物が新たに確認された。

シアヌークビルは首都のプノンペンから車で4時間ほどかかる。かつては人通りが少なく、のどかな雰囲気だった。だが、5年ほど前から中国企業の進出が急増した。

市内のいたるところに、漢字が書かれた看板がある。あちこちから中国語が聞こえてくる。ランチで利用したレストランは、従業員も客も中国人ばかりだった。

リアム基地はタイ湾に臨む。中国がベトナム、フィリピンなどと領有権を争う南シナ海に近い。米紙ワシントン・ポスト(電子版)は6月上旬、中国がこの基地の一部を使用すると同国当局者が認めたと報じた。科学者も利用し、軍事目的に特化しないというが、中国軍の海外拠点としてアフリカ東部ジブチの補給基地に次ぐ2つ目になる可能性がある。

8月上旬、プノンペンを訪問したブリンケン米国務長官は会談したフン・セン氏に「基地における中国の軍事活動は、透明性を完全に保つべきだ」と求めた。だが、カンボジア側は中国軍が基地に駐留する可能性を憲法が認めていないという立場だ。
カンボジア側はリアム海軍基地に中国軍が駐留する可能性を否定する

シアヌークビルの外側にも中国の影響は広がる。基地から北西方面に車で3時間ほど進むと、近く開業予定のダラサコール国際空港が見えてくる。中国側が資金を提供して建設を担い、開業後の運営にも携わる。空港の土地は中国側に長期貸与される。地元の州の人口は10万人にすぎないが、滑走路は同国最長の3200メートルで、軍用機の離着陸も可能だ。米国は「軍事転用の可能性」を疑っている。

南シナ海や台湾を巡り、米中の対立は激しくなる一方だ。「国際的な紛争に巻き込まれなければよいが」。シアヌークビルで乗ったタクシー運転手は話した。

(シアヌークビルで、大西智也)』