[FT]水上供給網に気候リスク 渇水、航行を阻害

[FT]水上供給網に気候リスク 渇水、航行を阻害
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『猛暑が数週間も続いたことで、フランス西部を流れるロワール川流域では乾ききった川底を散歩できるようになった。

ライン川では、水位が多くの船舶にとって操業が経済的に見合わない水準まで低下した=ロイター

欧州の重要な水路であるドナウ川も水位が下がった。流域の東欧諸国は貨物を運ぶはしけ船が航行できるように、川底の土砂を除去する浚渫(しゅんせつ)を余儀なくされた。

ドイツなどを流れるライン川では、航行の要衝において、水位が多くの船舶にとって操業が経済的に見合わない水準まで低下した。ただ、迫りくる課題のことを考えると、こうした事態はまだ準備期間にすぎないのかもしれない。

マレーシア、洪水で半導体供給に打撃

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、気候変動に伴い干ばつや洪水、激しい嵐といった異常気象が今後はより頻繁に発生し、規模も大きくなると明言している。そのため食料・製品の生産、製造、流通への世界的な影響は、途方に暮れるほど広範囲に及びかつ、複雑になる。

企業がまず懸念することは、高まる気候リスクに自社やサプライヤーのどの工場がさらされているかという点だ。各国政府はもっぱら食料供給に対する脅威に注目している。

だが、今年の干ばつは気候変動が激しくなるに従い、国際貿易の水上輸送インフラそのものが干上がったり、閉鎖されたりする危険性があることも浮き彫りにした。

事例は枚挙にいとまがない。アルゼンチンでは、南米の川としては全長がアマゾン川に次ぐパラナ川で、水位低下が深刻な状況がここ数年続いている。この川は穀物を輸出する際の主要水路だが、渇水が大豆の輸送に支障をきたしている。なお、アルゼンチンは大豆輸出で世界第3位だ。

マレーシアでは、昨年の洪水でマラッカ海峡沿いにあるクラン港が被害を受け、台湾製の高度な半導体の供給が深刻な打撃を受けた。こうした半導体の多くは、最終工程のパッケージングがマレーシアで施されてから世界各地に出荷される。

やはり昨年氾濫が被害をもたらしたライン川経由の貿易は今、過去5年間で2度目の深刻な渇水に苦しめられている。前に渇水があった2018年には、貨物の運搬が止まったことで、同年第4四半期のドイツの経済成長が0.4%下振れした。

炭素排出、一層増加の恐れ

オランダのデルフト工科大学のマーク・ファン・コニングスフェルト教授(港湾・水路学)は、こうした状況にもかかわらず、「輸送に対する気候の影響よりも気候に対する輸送の影響の方にはるかに大きな関心が寄せられてきた」と話す。

国際貿易の約8割はどこかの段階で船によって運ばれており、海上輸送の貿易量は20年までの30年間で3倍近くに膨らんだ。また気候変動以外の変化によっても、貿易システムは混乱に陥りやすくなっている。船舶は徐々に大型化し、問題が発生した場合の救援が困難かつ高コストになった。

干ばつが発生した場合の容易な代替ルートもない。内陸輸送用の船1隻が輸送できる量は約100~150台のトラックに相当するため、道路や鉄道では負担を背負いきれない。典型的な対応としては、船の積載量を減らすか、小型船で運航回数を増やすしかない。

河川の水位が低いと、船が進行しづらくなり、使用燃料が増えるため、二酸化炭素の排出は一層増えることになる。それだけでなく、水路と港湾システムを取り巻くコスト上昇と混雑にもつながる。

しかも、こうした対策が常に奏功するわけでもない。ファン・コニングスフェルト教授によると、18年の渇水のピーク時には、最善の努力を尽くしたにもかかわらず、輸送貨物の総量は約6割減少した。

世界3800カ所の沿岸部の港に対する気候変動の影響を研究している米ロードアイランド大学のオースティン・ベッカー准教授は、問題は「気候から生じるリスクは貿易システムのあらゆる側面に広がっているため、特定の組織が問題に対処しようとすることは難しい」と指摘する。

喫緊の課題は、こうした港の3分の1は熱帯低気圧が発生しやすい場所にあることだ。嵐の激しさの平均が少し変わっただけでも港の稼働停止期間が大幅に増えかねない。

独化学大手BASFのように、低い水位でも航行できるはしけ船を開発するなど、企業が独自に取り組んでいる事例も見受けられる。しかし、問題の大きさを考えると、こうした対応策は、技術またはコスト面から実現可能性の限界にぶつかる可能性が高いと専門家は指摘している。

より一般的に言えば、こうした異常気象は悪化し続ける構造的な問題ではなく、個別の非常事態として扱われる傾向がある。抜本的な対策が打たれないまま似たような問題が再発しがちで、国連防災機関(UNDRR)はこれを「災害・対応・復旧の繰り返し」サイクルと呼んでいる。

災害対策への投資、企業・国家レベルで増加

ビジネスにおいても同じことが言えるかもしれない。企業にはすでに、サプライチェーン(供給網)を感染症のパンデミック(世界的な流行)などで生じるような混乱から守り、高まる地政学的リスクに備えて全面刷新を迫る圧力がかかっている。

だが、サプライチェーンをより簡素にした場合、気候リスクが集中する恐れがある。レジリエンス(強じん性)を実現しようとすると、調達先の二重化や地理的な多角化、在庫の積み増しによって効率性が犠牲になる。災害に耐えられるように、各種資産への投資も必要になるかもしれない。

気候変動対策に取り組むオランダの財団グローバルセンター・オン・アダプテーションのパトリック・フェアコイエン代表は、これは「先送りして代償を払う」より望ましいと言い、気候変動に対するレジリエンスへの投資は国家レベル、企業レベルで金額が積み上がっていくと主張している。

政府と企業は今後、気候を新たなサプライチェーンが抱えるリスクとしても考慮しなければならないのだ。

By Helen Thomas

(2022年8月17日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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