人口減で国力の方程式一変 量から質、豊かさ競う

人口減で国力の方程式一変 量から質、豊かさ競う
人口と世界 成長神話の先に(5)

人口と世界
2021年8月26日 11:00 [有料会員限定]
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB28EFF0Y1A520C2000000/

『国力=(人口・領土+経済力+軍事力)×(戦略目的+国家意思)

米中央情報局(CIA)分析官だったレイ・クライン氏は1975年、国家が持つ力を算出する「国力方程式」を考案した。大国が人口増にこだわる理由がここにある。

【前回記事】富む前に迫る超高齢化 社会保障の崖、世界に火種

「実態に即して人口を公表すれば、中国は前代未聞の政治的な激震に直面するだろう」。米ウィスコンシン大の易富賢研究員は中国の人口統計の水増し疑惑を指摘する。

中国政府は2020年の人口を14.1億人と発表した。だが易氏によると実態は12.8億人ほどで「18年から人口減は始まった」と推定する。

中国・ロシアは増加固執

人口急減を認めれば産児制限の失敗があらわになる。当局は易氏の著書を発禁処分とし、疑惑に反論する。「中国の人口は増え続けており、欧米の合計より多い」(華春瑩外務省報道局長)

「戦争論」を著したクラウゼビッツは「全国民が勝敗の帰趨(きすう)を決定する」と説いた。産業革命で人口が急増した英国は、19世紀後半に500万超の移民を世界に送り出したとされる。

20世紀に英国の人口増が鈍ると、ドイツやロシアの人口が膨張した。隣国との緊張が高まり、列強は世界大戦へとなだれ込んだ。英人口学者ポール・モーランド氏は「人口の脅威が各国を戦争へと駆り立てる」と指摘、ソ連崩壊も「人口減速が要因」とみる。

ロシアの人口は2100年に約2千万人減る。「人口減は国家存亡の危機だ」とみるプーチン大統領は、25年までに最大1千万人の移民を招く目標を掲げる。

ロシアのパスポートを受け取ったウクライナ東部の住民=ロイター

ロシアの工業都市ノボシャフチンスクに、紛争が続くウクライナ東部の住民が乗る大型バスが続々と着いた。住民が移民局で受け取ったのは赤い表紙のロシアのパスポートだ。19年春に手続きを簡略化し、60万人超がロシア国籍を得た。

拡張戦略に転機

中国の台頭をにらみ米国も数での対抗を模索する。日米豪は外交・安全保障を協議する「Quad(クアッド)」にインドを招いた。世界最大の民主主義国インドが加われば、中国を圧倒する。

しかし米国を含む多くの国で働き手世代の比率が減る人口オーナス(重荷)期に突入するなか、人口に頼る国家拡張戦略は転機を迎えている。

米国経済の成長力に陰りが出たことで、富の偏在が加速。足元で民主主義が揺らぐなかで、20年に及んだテロとの戦いを投げ出しアフガニスタン撤収を余儀なくされた。

中国も焦りを隠せない。習近平(シー・ジンピン)国家主席は17日の共産党中央財経委員会で「共同富裕(ともに豊かになる)」と強調した。生産年齢人口が減り成長力が低下すれば、社会の安定が崩れかねないとの危機感がある。

軍事力も兵員や軍備の物量頼みからサイバー戦での技術力など質の争いに移った。人口が経済・軍事に直結する量の時代は過ぎ、人口は少なくても豊かでスマートな質を競う時代に入りつつある。

民主主義や資本主義がシステムの優位性で東西冷戦を勝ち抜いたように、人口という量に頼らず豊かさを実現するシステムを構築できるか。新たな国家間の競争が始まる。

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蛯原健
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分析・考察

つい二百年程前まで中国とインドのGDPは欧州諸国より大きく米国に至っては出来たてほやほやの小国であった。その後産業革命が欧州で起き技術を手にした西側諸国が生産性革命を起こし経済覇権がアジアから西側に移った。そこから二百年経った今テクノロジーが世界に伝播しきってコモディティ化したため再び巨大な人口を持つアジア諸国が生産と需要両面において物量戦で台頭し、対する先進国の中間所得層が苦難に面している。今後の人口動態変化はこのモメンタムを変える一方で二百年前との違いはグローバリズム進展である。国家間のジオグラフィックな比較も重要だがそれ以上に同じ国でもデモグラフィックな格差がより困難な時代になるだろう。
2021年8月26日 15:18

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石塚由紀夫
日本経済新聞社 編集委員
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ひとこと解説

第2次世界大戦前は「人口=軍事力」の時代。例えば第1次世界大戦で敗れたドイツは人口増に政策の舵を切り、周辺国の脅威となりました。

日本も1941年に近衛文麿内閣が人口政策確立要綱を閣議決定。富国強兵を旗頭に、政府は国民に子どもを5人以上産むことを強く推奨しました。子どもを持つか持たないか、持つとしてもいつ何人くらい持ちたいのか――誰にも強制されずに自己決定できることは平和な社会の象徴ともいえます。

ただし、現状の少子化は子どもが持ちたくても持てない状況。少子化対策の目的は経済・国力増強のためだけではないはず。個人の希望をかなえるという視点も忘れず、対策拡充を。
2021年8月26日 11:50 (2021年8月26日 14:11更新)』