中国、「G2」の世界秩序構築に動く 呉軍華氏

中国、「G2」の世界秩序構築に動く 呉軍華氏
日本総合研究所上席理事
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD199GA0Z10C22A8000000/

『2022年8月、ナンシー・ペロシ米下院議長が台湾を訪問した。これに猛反発したように、中国は初めて台湾を包囲する形での大規模な軍事演習を実施した。こうした情勢を受け、中国がいよいよ軍事力による台湾との統一に踏み切るのではないか。そしてこれに触発されて、中国と米国が直接衝突するのではないかとの懸念が高まった。

果たしてそうなるのか。

呉軍華・日本総合研究所上席理事

筆者はかねて、米中関係悪化の最大要因は価値観、ひいては文明の差異だと考えてきた。このため、中国で共産党の一党支配体制が改められるか、米国が自由・民主主義を守る覇権国としてのステータスを放棄するようなことがない限り、両国の衝突は避けられないようにもみえる。

ただし、短期的にはその可能性はかなり低い。経済力の急伸を背景に、米中のパワーバランスは中国の方に大きくシフトしてきた。しかし、中国が米国との本格的な軍事的対峙を制するような状態にはまだ至っていないからだ。

台湾を包囲する形で実施された今回の演習は史上最大規模といわれる。演習を通じて中国は、台湾を封鎖する能力を見せつけたが、その矛先は台湾に向けられたものではない可能性が高い。

最近の中国の内外情勢を分析すると、長距離と短距離の攻撃力で米国などの軍事的介入を阻止する「A2AD」(Anti-Access Area-Denial=接近阻止・領域拒否)能力の誇示が目的だったようだ。中国はこの能力をベースに、勢力範囲を画定しようとしているとの見立てだ。

この見方が正しいならば、台湾周辺の海域での大規模軍事演習は既定の方針であり、ペロシ議長の訪台はその実施を早めただけで、演習実施を決めた要因ではない。

習近平(シー・ジンピン)総書記(国家主席)は、秋の党大会で3期目に入るとみられる。習氏は勢力範囲の画定を、米中が世界を仕切る「G2体制」の構築に向けての重要なステップにしつつ、世界秩序の再編を図っていく可能性が大きい。

中国外務省の汪文斌報道官は6月13日の記者会見で、「台湾は中国の不可分な領土の一部。中国は台湾海峡に対する主権および管轄権を有する」とあらためて強調した。そのうえで「台湾海峡を『国際水域』と呼ぶ国があるが、これは台湾問題に干渉し、中国の主権と安全保障に脅威を与える口実であり、反対する」との主張を展開した。

画期的な主張だったが、今になって改めて考えると、これは台湾海峡の周辺海域が中国の内海であるという外交的宣告であった。そして、今回の演習で実力を誇示し、軍事的に宣告したわけだ。

12年2月、習近平国家副主席(当時)は次期最高指導者の外交デビューとして訪米した。それに先立ち米紙ワシントン・ポストの書面インタビューを受けた習氏は、「広い太平洋は、大国である中国と米国を受け入れるのに十分な広さだ」と語り、中国と米国のG2による秩序の形成に期待を寄せた。以上の分析が正しいならば、中国は習氏が望む方向に向けて着実に進んでいることになる。』