ウクライナ侵攻、崩れた安保の国際秩序とアジアの不穏

ウクライナ侵攻、崩れた安保の国際秩序とアジアの不穏
ウクライナ侵攻と世界(下)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM142ZT0U2A810C2000000/

『「停戦はなかなか難しい。長引く戦争になってしまうのではないか」。国連のグテレス事務総長は8日、広島訪問後の記者会見でウクライナ情勢について悲観的な見方を示した。
止められぬ侵攻

ロシアの侵攻を国連も北大西洋条約機構(NATO)も止めることはおろか仲裁さえできない。世界は国際秩序の崩壊という危機に直面している。

国連の安全保障理事会が出したロシアへの非難決議案はロシアの拒否権で否決になった。総会での非難決議は141カ国が賛成した一方、ロシアや中国などの反対と棄権、無投票が52カ国に上った。合計人口は45億人と世界の6割に迫る。国連は総会決議以上の強い声を上げられなかった。

国連の機能不全はいまに始まった話ではない。冷戦期も米ソが対立した。朝鮮戦争の国連軍は国連憲章第7章に基づく正規の国連軍ではなく、ソ連不在の安保理で決議したものだった。

冷戦終結後の一時期は米ソ、米ロが一定の協調関係にあり、国連が曲がりなりにも機能した面はあった。湾岸戦争ではクウェートへ多国籍軍を派遣し、主権を回復させた。北朝鮮の核・ミサイル開発には安保理が制裁決議を出してきた。

再び溝が深まるのは2010年代。オバマ米大統領が「世界の警察官ではない」と認め、国際秩序の空白ができた。ロシアがクリミア併合やシリア内戦への介入に動くと安保理は有効な手を打てなかった。

亀裂はウクライナ侵攻で決定的になった。22年5月、安保理で北朝鮮のミサイル発射への制裁決議案が初めて否決された。

集団安保に限界

国連以外の集団安保にも限界がある。冷戦期、加盟国に攻撃があれば全体で反撃する枠組みをつくったNATO。加盟国を守り続けてきたが、未加盟のウクライナが侵略を受けた。米国がウクライナに派兵しないと表明すると軍事介入の選択肢はとれなかった。

欧州で「力による現状変更」を止められない状況をみたスウェーデンやフィンランドは中立政策をやめてNATOに加盟申請した。

アジアはNATOのような集団安保の仕組みがない。冷戦期は日本や韓国を防衛する米国の軍事力が中ソを上回り、集団防衛の必要性が薄かったためだ。

アジア各国は米中両にらみに流れる。韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は訪台したペロシ米下院議長と会わなかった。米主導の「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」の初会合は東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国のうち7カ国しか参加しなかった。

台湾に限らず沖縄県・尖閣諸島や朝鮮半島、中印国境などアジアには火薬庫のように紛争の芽がある。いずれも中国あるいは中国が後ろで支える国が絡む。

日米は自由や民主主義といった価値観を共有する国・地域とスクラムを組んで中国を抑止する戦略だ。その対象は「同志国(like-minded partners)」。「同盟国(allies)」よりも緩い表現が集団安保の枠組みがないアジアの不安定な状況を映す。

(安全保障エディター 甲原潤之介)

【「ウクライナ侵攻と世界」記事一覧】

・深まる分断、消える500兆円 逆回転するグローバル化
・米中の緊張高止まり 「中立」台頭、危うい3極化

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詫摩佳代
東京都立大学 法学部教授
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分析・考察

国連の機能不全がウクライナ戦争で注目を集めていますが、記事にもある通り、今に始まった話ではありません。むしろ世界政府でもなく、加盟国に対して何ら強制力をもたない国連にとっては当然の限界です。安全保障とは本来、グローバル、地域、国など多層的なものであり、国連の集団安全保障はその一部と捉えるべきです。国際社会の分断に伴い、グローバルなレベルでの機能は弱体の一途を辿り、一方、地域や有志といったサブレベルの取り組みが重要性を増すのは当然の成り行きです。日本に関しては、国際的な緊張をコントロールする努力と併せて、有志国間や国レベルの安全保障機能を強化する必要性が、いつになく増しているように感じます。
2022年8月25日 9:24

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鈴木一人
東京大学 公共政策大学院 教授
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分析・考察

う~ん、「集団安保(集団安全保障)」というのは、国連のような国際機関において、国際の平和と安全の脅威と指定された国や組織、個人に対して、その加盟国全体が軍事的・非軍事的制裁を行うこと。NATOは「集団安保」の組織ではなく、「集団的自衛権」を行使する同盟。こういう単語の使い分けをきちんとしないと変な誤解が蔓延する。それと、そもそも国連は拒否権を持つ大国が関与する戦争を止めることも、介入することも出来ない。
2022年8月25日 4:01』