退路断ったプーチン氏 ウクライナ支配へ分断と停滞覚悟

退路断ったプーチン氏 ウクライナ支配へ分断と停滞覚悟
編集委員 坂井光
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK224OQ0S2A820C2000000/

『ロシアのウクライナ侵攻開始から24日で半年。戦闘の先行きは読めないが、プーチン大統領についてはっきりしたこともある。時間をかけてでもウクライナを支配下に置こうとする執念と、その実現のためには西側との関係を改善するつもりもないという覚悟だ。
勢力圏の回復が最優先

・7月11日、ウクライナ全土の住民にロシア国籍の取得手続きを簡素化する大統領令に署名

・8月22日、「ロシアは強力で独立した世界の大国だ。我々は祖国の利益に合致する政策のみを国際舞台で追求することを固く決意する」とプーチン氏が発言

・9月にもウクライナ南部ヘルソン州でロシア編入を認める住民投票を実施の見通しとロシア紙が報道

これらの事例が示すのは、プーチン政権はウクライナのゼレンスキー大統領が降伏しない限り戦いを止めるつもりはないということだ。

占領地を拡大して「ロシア化」を進め、何年かけてでもウクライナを勢力圏に取り戻すことを最優先に置いているとみられる。仮に停戦合意しても、占領地をてこにゼレンスキー政権を追い詰めていくのだろう。
占領地では通貨ルーブルでの取引など「ロシア化」が進む(7月25日、南部ヘルソンで)=ロイター

それが西側諸国による制裁強化に結びつくことは覚悟のうえだ。エネルギー、食料、宇宙開発、核兵器――。あらゆることを対西側の政治カードとして利用し、対ウクライナ支援疲れを誘う姿勢が鮮明になっている。

西側との関係で退路を断つ一方で、中国、インドのほか、アフリカ、中南米などの米欧とは一線を画す国との結びつきを強め、制裁の影響を最小限にとどめる戦略だ。
西側諸国に問われる覚悟

西側諸国はウクライナを支援し続ける覚悟だけでなく、世界の分断を図るロシアにどう向き合い、対処していくかが問われている。

ロシア国内の世論はどうなのか。それを左右する経済の先行きに対するロシア人の立場は3つに分類されそうだ。

1つは戦争に反対する悲観論者。インテリ層が多く、一部の品不足やモノやサービスの質の低下などをいち早く感じ取っている。2つ目はプーチン政権を支持し、中国などからの輸入代替政策を期待する人たち。そして、多数派を占めるのが、政治、経済に関心がなく、戦争による変化をまだあまり認識していない層だ。

今後の世論に影響を与えるのが3番目の人たちだが、「異変」は着実に広がっている。それは日本からもうかがえる。

7月中旬の伏木富山港。極東ウラジオストクに向かう貨物船に中古車が満載されていた。新車に近い車もある。日本からロシアへの中古車輸出は侵攻直後の3~5月は制裁に伴う決済への不安から前年同月を下回ったが、6月は前年から24%増え、1万8000台強と単月では2020年以降で最高となった。
7月中旬、伏木富山港に停泊中の貨物船には中古車が満載されていた

日本からの中古車輸出に詳しい富山高等専門学校の岡本勝規教授は「制裁対象外の銀行や第三国の銀行などを利用し、支払いは問題ない。足元は運搬船が足りないほど需要は旺盛」という。

ロシア国内ではトヨタ自動車をはじめ海外メーカーは生産を停止し、新車の正規輸入もなくなった。ロシア車の生産は続くが、人気が高いのは中古とはいえ外国車だ。車以外でも西側製品の多くは並行輸入にシフトしている。
確実に広がる経済のひずみ

制裁の影響を軽減するロシアのしたたかな一面といえるが、その裏返しとして国内産業のひずみも浮き彫りとなり始めた。自動車やIT(情報技術)関連機器など先端分野では空洞化が進み、価格も確実に上昇している。もっと深刻なのは品薄感が出ているワクチンや医薬品だ。乳幼児や病気を抱える人たちの間では不安が急速に広がっている。

サンクトペテルブルクに住む20代の教師はこういう。「最大の苦痛は、毎日多くの人々が無駄死にしているのに声を上げられないこと。戦争に反対する自分が少数派であるかのような孤独感や失望感にさいなまれる。戦争を支持する隣人への嫌悪感も増している」

侵攻は西側との対立を決定的にし、経済的な停滞を招いているだけではない。国民レベルでも分断が深まり、無気力感が広がりつつある。そんな愚策をプーチン氏はやめるつもりはない。

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