ロシア非難の文言削除 NPT最終文書案、決裂回避狙う

ロシア非難の文言削除 NPT最終文書案、決裂回避狙う
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『【ニューヨーク=白岩ひおな、吉田圭織】国連本部で開催中の核拡散防止条約(NPT)再検討会議の最終文書案が22日夜(日本時間23日午前)、加盟国に配布された。ウクライナ南部のザポロジエ原発をめぐり「ロシアの軍事活動により」ウクライナ当局の管理が失われたと指摘していた文言を削除したことが明らかになった。

最終文書を出せずに閉会した2015年の前回会議のような事態を回避すべく、ロシアの反発にも配慮した。26日の閉会までに最終文書案の採択につなげる狙いがありそうだ。

再検討会議は1日に開幕した後、①核軍縮②核不拡散③原子力の平和利用――の3テーマを扱う委員会に分かれ、最終文書の素案や修正案を議論してきた。ただ、いずれも合意できないまま、22日に全ての討議が終了した。各委員長の権限でとりまとめた素案を基に、再検討会議のスラウビネン議長が最終文書案として同日、一本化した。

日本経済新聞が入手した最終文書案は「ザポロジエ原発などウクライナの核施設周辺での軍事活動で同国当局の管理が失われ、安全と核物質の防護を含むセキュリティーと保障措置に深刻な負の影響を与える」として重大な懸念を表明した。軍事活動についてロシアを名指ししていた21日の委員会修正案の文言から後退した。

ロシアは22日の公開会合で「核施設を脅威にさらしているのはウクライナ当局だ」と主張した上で、同原発をめぐる文言は「非常に一方的で、コンセンサスの基礎になり得ない」と修正を要求した。この問題が「会議の最終段階での作業を複雑にしうる最も困難な問題の一つだ」とも警告していた。

一方、「ロシアからウクライナ当局への管理権限の回復と、国際原子力機関(IAEA)による検証活動の効果的実施を要請する」との文言は最終文書案でも維持された。

核軍縮をめぐっては「核廃絶が核兵器の使用またはその脅威に対する唯一の絶対的な保障であることを再確認する」と強調した。核保有国に対し「核の先制不使用」の採用を含めた核兵器の役割を減らす措置を取るよう求めた。

非核保有国に核を使用しない「消極的安全保障」では、締約国に非核保有国を保護する国際的な取り決めの議論を直ちに開始し「国際的な法的拘束力のある手段を除外しない」よう呼びかけている。

ロシアによる核使用の示唆も念頭に「核保有国はいかなる状況下でも非核保有国に核兵器を使用せず、使用するとの脅迫をしないよう約束する」との文言を盛り込んだ。ウクライナ侵攻前の1月に米国、ロシア、英国、フランス、中国が発表した共同声明に触れ「核戦争に勝者はおらず、決して戦ってはならない」との文言を再確認した。

当初の素案では核保有国に対し、核使用を原則として核攻撃への反撃に限定する「唯一の目的」構想の採用も求めていたが、修正案の段階で削除され、最終文書案にも盛り込まれなかった。米国は3月、核政策の指針に同構想を採り入れることを見送った。ロシアや中国、北朝鮮への抑止力低下への懸念が背景にある。

中国が反対していた核兵器向け核分裂性物質の生産の即時モラトリアム(一時停止)についても、締約国の宣言・維持を求める文言が最終文書案に残った。NPTが定める核保有国5カ国のうち、米国、ロシア、英国、フランスは核兵器用の核分裂性物質について生産の一時停止を宣言しているが、中国は表明していない。

核兵器の開発、使用、威嚇を禁じる核兵器禁止条約については、21年の発効と今年6月にウィーンで開いた締約国による初会合を「認識する」との文言にとどめた。オーストリアやメキシコなど条約を主導した締約国は「NPTとの補完関係」に触れるよう求めていた。核保有国や米国の核の傘に依存する日本や韓国などの国はNPTを重視する考えを示している。

米国と英国、オーストラリアの安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」を念頭に「IAEAが関係国と協議の上、海軍の核推進に関連する取り決めを検討する」との内容を盛り込んだ。オーカスでは米英が豪州向けに原子力潜水艦の配備を後押しする計画だ。「核拡散につながる」と訴えていた中国などの懸念にこたえた。

26日の閉幕までにめざす最終文書の採択は全会一致が原則だ。一部は修正されたものの、22日の文書案にはロシアや中国が委員会の議論で反対していた項目の多くが盛り込まれたままだ。合意に向けた交渉は難航が予想される。

15年の前回会議では中東に非核地帯を設ける構想をめぐり各国が対立し、採択できないまま閉幕した。再び不採択となればNPT体制が大きく揺らぎ、ウクライナ侵攻が冷や水を浴びせた核軍縮の機運をさらに後退させかねない。文言の再修正も含めて、交渉が大詰めを迎えそうだ。

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