「友を呼ぶ」米エリート層 固定化が招くトランプ現象

「友を呼ぶ」米エリート層 固定化が招くトランプ現象
本社コメンテーター 小竹洋之
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD2020P0Q2A820C2000000/

『8月1日、英科学誌ネイチャーの電子版に興味深い論文が掲載された。格差問題の実証研究で知られる米経済学者ラジ・チェティ氏らのグループが、エリートの生態に迫った力作である。

25~44歳の米国民7220万人を対象に、フェイスブック上の交友関係を調べた。所得などで上位10%に入る富裕層の友人をみると、34%が同じ上位10%、84%が上位50%の階層に含まれる。

下位10%の貧困層とは、友人の階層が明らかに違う。「類は友を呼ぶ」というが、11月8日投開票の中間選挙を控える米国の分断軸を浮き彫りにした格好だ。

誰もが能力と実績によって成功への階段を上れる「アメリカン・ドリーム」――。その形骸化が米国で叫ばれて久しい。

仏経済学者トマ・ピケティ氏らがまとめた2022年版の世界不平等報告書によると、米国では上位10%の富裕層が所得全体の46%、資産全体の71%を握る。下位50%の貧困層・中間層のシェアはそれぞれ13%、2%にすぎない。
偏在を助長する教育の格差

米経済学者のブランコ・ミラノビッチ氏は、所得も資産も上位の富裕層が増えるさまを「ホモプルーティア」と呼んだ。「同一の人間が保有する富」という意味のギリシャ語の造語である。

こうした富の偏在を助長するのが教育の格差だ。米ピーターソン国際経済研究所のリポートによると、10~18年に国内で博士号を取得した米国民の50%は、修士号以上の学位を持つ親が少なくとも1人はいる家庭の子だった。学士号以上の学位を持つ親がいない家庭の子は26%にとどまる。

豊かな者が最良の教育を受け、富や権力のチケットを手にする確率は、貧しい者よりはるかに高い。そんなエリートが似たような境遇の友人とつき合い、同じ高学歴・高収入の結婚相手を見つける。同質な支配層の固定化は、容易に止められそうにない。

エリート同士が同類婚などで結びつく「マッチング」が広がり、非エリートとは交わらない世界を創り出す――。そんな米国の行く末を案じたのは米経済学者のタイラー・コーエン氏だった。

エリートのマッチングは政治性もはらむ。米経営学者のビヤチェスラフ・フォス氏らが米主要企業の08~20年のデータを調べたところ、経営陣が同じ党派のチームを組みたがる傾向が強まり、リベラルと保守の違いを理由に退社する幹部も増えていた。同じ期間に経営陣のジェンダーの多様化が進んだのとは対照的だという。
「まじめな労働者に耳貸さず」

同質なエリートの固定化は、アメリカン・ドリームの実現を妨げるばかりではない。政界から官界、学界、実業界までの中枢を担う人々が富裕層の価値観や経験に縛られ、貧困層や中間層の思いをくみ取れない原因にもなる。

米国の庶民はそこにいら立つ。イプソスが21年に実施した世論調査では、「政治や経済のエリートがまじめな労働者の声に耳を貸さない」との回答が78%、「社会の主たる分断は、庶民と政治・経済のエリートとの間にある」との回答が68%にのぼった。

バイデン大統領はデラウェア大とシラキュース大で学んだ。ハーバード大やエール大を含む「アイビーリーグ(東部の名門私立大8校)」の学位を持たない大統領はレーガン氏以来だ。

ただしバイデン氏の外交・経済チームには、アイビーリーグの卒業生がきら星のごとく並ぶ。政権発足時はホワイトハウス高官の4割を占め、トランプ前政権の2割を超えたと報道された。

その「チーム・オブ・エリート」が、アフガニスタン戦争の終結やインフレ退治などで失態を演じた。今回の中間選挙で与党・民主党が劣勢に立たされているのは、バイデン氏が率いる賢者たちの不人気の結果でもある。

トランプ氏はアイビーリーグの一角を占めるペンシルベニア大のOBだ。それでもエリートの支配に風穴を開けられる指導者はほかにないと、多くの有権者がなお異端児の復権を渇望する。
左右ポピュリズムに危うさ

ポピュリズム(大衆迎合主義)の語源は、ラテン語の「ポプルス(民衆)」だといわれる。社会の現状に不満を抱く民衆の立場から、既存の政治に「NO」を突きつける運動と定義される。

グローバル化の痛みや格差の拡大といった経済的要因もあれば、人種構成の変化や伝統的な価値観の揺らぎといった文化的要因もあるだろう。そこにエリートへの根深い反感が絡み合う。

米国の「ベスト・アンド・ブライテスト(最も優秀で賢明な人々)」は、確かに数々の過ちを犯してきた。ケネディ、ジョンソン両政権を支えたエリート集団がベトナム戦争の深みにはまる姿は「賢者の愚行」と評された。アフガニスタン・イラクの2つの戦争やリーマン・ショックを招いたエリートたちの責任も大きい。

しかし貿易と移民をやり玉にあげる右派のポピュリズムや、富裕層と大企業を敵視する左派のポピュリズムに傾くのは危険だ。強権的で排斥的なトランプ氏の再登板が米国、ひいては世界の未来にとって最善の選択とは思えない。

新型コロナウイルス禍とウクライナ危機で加速したインフレのせいで、非エリートの困窮は深まった。エリートへの憤りがポピュリズムの火に油を注ぎつつあるのは欧州なども同じだ。成長・分配戦略や政治・教育改革の知恵を絞り、「ポプルス」の不満を和らげる努力を続けるほかはない。
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