米中の緊張高止まり 「中立」台頭、危うい3極化

米中の緊張高止まり 「中立」台頭、危うい3極化
ウクライナ侵攻と世界(中)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD175N50X10C22A8000000/

『台湾をめぐる米中の緊張が高まっている。ペロシ下院議長の台湾訪問から2週間もたたない8月14~15日、超党派の米議員団が訪台し、支持を伝えた。

先に訪台した米有力議員は、日本政府関係者にこう告げた。「米国が助けるべき相手なのか判断するため、台湾に行った。その結果、台湾は支援すべき民主主義だと分かった。超党派で支援を強めていく」

米国は近く、米軍艦船を台湾海峡に送るほか、台湾との貿易拡大に向けた工程表も発表する。
中国にロシア、トルコやインドはいずれも米欧の言いなりにはならない

米国が台湾支援を急ぐのは、ロシアのウクライナ侵略によって対中警戒が一段と増していることが一因だ。これに対し、中国も米国の台湾接近に怒りを強めている。米中は長い対立のトンネルに入り込んだ。

その間隙を突き、台頭するのが「中立パワー」の国家群だ。米中のどちらにもくみせず、国益に応じて組む相手を変える。英誌エコノミストの調査部門EIUによると、ウクライナ侵略に中立を保つ国々は、世界人口の32%を占める。世界秩序は米欧日などの西側陣営、中ロ陣営、中立パワーの3極体制に移った。

自国の損得を優先

中立パワーの主な顔ぶれはトルコやインド、南アフリカ、サウジアラビア、ブラジルなどだ。近年、国力を伸ばしてきた新興国が多い。その行動基準は民主主義の価値よりも、自国にとって得か損かである。

特に動きが激しいのが、トルコのエルドアン大統領だ。北大西洋条約機構(NATO)のメンバーなのに対ロ制裁に加わらない。7月19日と8月5日に続けてプーチン・ロシア大統領と会い、経済協力で合意した。その裏では、ウクライナに軍用無人機を売る。

トルコは自分が1つの「極」であるかのようにも振る舞う。ロシアとウクライナの停戦仲介を試み、国連と協力し、黒海封鎖問題の解決に一役買った。

エルドアン氏が憧れを隠さないのが、トルコの前身で、1922年まで約600年間、世界に君臨したオスマン帝国だ。同国の外交ブレーンは「NATOの一角に甘んじるのでも、ロシアにこびるわけでもない。トルコは独自の路線を突き進む」と語る。

衰える米国の指導力

インドも米欧の言いなりにはならない。同国は「Quad(クアッド)」の枠組みで、米日豪と結束する。外交筋によると、インドは中国軍などの行動を強く批判し、米日豪に対中連携を呼びかけてきた。

だが、インドは対ロ制裁には応じず、ロシアとも良い関係を保つ。「国境で中国と紛争を抱えており、ロシアまで敵に回すわけにはいかないからだ」(元インド政府高官)。

「米国1強」の時代には中立パワーの裁量は限られたが、米国の指導力が衰えて構図は一変した。西側陣営と中ロを両てんびんにかけ、双方から実利を引き出しやすくなっている。

西側陣営はそんな中立パワーを引き寄せ、秩序維持への支持を得なければならない。各国の損得勘定を読み解き、互恵の協力を探ることが第一歩になる。

(本社コメンテーター 秋田浩之)

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川島真
東京大学大学院総合文化研究科 教授
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分析・考察

先進国から見ると、中露vs先進国、加えて第三勢力があるように見える。他方、中国は(中国の主導する)開発途上国+新興国vs(アメリカの主導する)先進国と見える。だからこそ上海協力機構やBRICSを重視する。そもそも先進国と中国とでは異なる対立像をイメージしている。次に、その第三勢力だが、これらの国々は必ずしもまとまっているわけではない。世界をフラットに見て、それぞれの国益に即して、中国であれ、先進国であれ、利用すべきは利用しようとする。本来日本は、先進国の中で最も、中国のことも、あるいはアジア諸国のことも理解できる存在のはずだ。果たしてそうなっているか、そう振る舞えるか。大きな試練だ。
2022年8月23日 5:53 (2022年8月23日 7:50更新)
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柯 隆
東京財団政策研究所 主席研究員
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ひとこと解説

政治のブロック化、経済のブロック化の先にあるのはただ一つ、新冷戦。中立の道を歩む国は国際社会で主役になれない国、いつも脇役で目の前の損得を勘定する。一流国家は目の前の損得ではなく、中長期的な国益を最大化する。結論、新冷戦はもう避けられない。
2022年8月23日 7:13
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青山瑠妙
早稲田大学大学院アジア太平洋研究科 教授
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ひとこと解説

この記事を読むと、アメリカのドラマ「マダム・セクレタリー」を思い出す。「中立パワー」の国家群はおそらく第3の「極」になることはないだろう。こうした国々に共通の理念や価値観はなく、そこで動いているのは個々の国の損得勘定だけ。民主主義陣営に協力させるために必要なのは、マダム・セクレタリーのエリザベス・マッコードのようにそうした国の損得勘定に働きかけていく敏腕な外交力だ。
2022年8月23日 7:04 (2022年8月23日 7:05更新)

秋田 浩之

長年、外交・安全保障を取材してきた。東京を拠点とし、北京とワシントンの駐在経験も。北京では鄧小平氏死去、ワシントンではイラク戦争などに遭遇した。著書に「暗流 米中日外交三国志」「乱流 米中日安全保障三国志」。

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