日野自動車不正、販売不能の異常事態 信頼回復険しく

日野自動車不正、販売不能の異常事態 信頼回復険しく
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC2263K0S2A820C2000000/

『日野自動車の不正に終わりが見えない。小型トラックまで広がったことで、国内向けはほぼ全車が出荷停止となり、売る商品がなくなる異常事態に追い込まれた。すぐに経営基盤が揺らぐ状況にはないが、企業統治(ガバナンス)軽視による信頼失墜は大きい。日野自だけでなく親会社のトヨタ自動車を含めたグループとしての信頼回復が急務だ。

「顧客に信頼してもらう土俵に上がっていない」。小木曽聡社長は22日にオンラインで開いた会見でこう述べた。

生産や販売への影響は深刻だ。東南アジアなど海外向けや電気自動車(EV)トラックなど一部は生産を継続するが、2022年3月期の国内販売5万8千台のうち99%に当たるトラック・バスが出荷停止となった。

業績にも響く。市場予想の平均であるQUICKコンセンサス(16日時点)では、23年3月期の連結最終損益が496億円の赤字(前期は847億円の赤字)と3期連続の赤字予想で損失はさらに膨らみそうだ。外資系証券の一部では23年3月期に最終赤字が2000億円規模になるとの見方もある。

東海東京調査センターの杉浦誠司氏は「国内の収益源がなくなるほか、新たな不正で追加の補償費用など特別損失がさらに増える」とみる。同社株は22日、一時前営業日比6%安の611円と年初来安値をつけた。

出荷を停止した「日野デュトロ」=共同

日野自の22年3月期末の連結純資産は5160億円で自己資本比率は36%と高い。有利子負債額は1709億円といすゞ自動車など同業と比べても低く、一連の不正ですぐに資金繰りが立ちゆかなくなる状況ではない。小木曽氏も会見で「資金調達がすぐに必要な差し迫った状況ではない」としている。

日野自の不正拡大を受けて、50.1%を出資するトヨタの豊田章男社長は「ステークホルダーの期待や信頼を再度大きく損なう事態に至ったことは極めて残念だ」とのコメントを発表した。トヨタも日野自からOEM(相手先ブランドによる生産)供給を受ける車両の出荷を停止している。

トヨタの長田准執行役員は22日、オンラインで報道陣の取材に応じ「気持ちを新たにやってきたばかりで心から残念でならない」と語った。

トヨタは不正問題の発覚以降、技術者を日野自に派遣するなどの支援を始めた。検査時の工程などの分野でトヨタ式のチェック体制導入を促している。ただ乗用車とトラックなど商用車の違いは大きく、長田氏は「トヨタの知見だけでは再生は難しい」と課題は多いとの認識を示した。

トヨタは日野自を01年に子会社化した。同年以降、4代続けてトヨタ出身者が日野自の社長に就くなど、経営幹部を送り込んできた。トヨタグループの商用車部門の中心に位置付けてEV展開も加速する矢先の不正発覚だった。

「トヨタグループだから大丈夫というおごりの意識」――。日野自が2日公表した調査報告書には、物言えぬ企業風土や社内チェック体制の不備、トヨタに寄りかかった社内意識などが不正の背景にあると指摘した。ガバナンスの不備を長年放置してきたツケはメーカーとして「物を売れない」という最悪の事態になった。

顧客や市場などの視線はトヨタグループとしての日野自がどう信頼を回復していくかに注がれる。日野自とトヨタはエンジン不正を巡って損害賠償などを求める訴訟を米物流企業などから起こされた。米国では北米市場向けのエンジンで排ガス試験が適切だったか、米司法省の調査がまだ続いており新たな火種もくすぶる。

信頼回復は日野自だけでなくトヨタにとっても険しい道のりになる。

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中西孝樹
ナカニシ自動車産業リサーチ 代表アナリスト
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ひとこと解説

再建には長い時間が必要だと感じます。いみじくもトヨタの長田執行役員のコメントにあるよう「トヨタの知見だけでは再生は難しい」という状況は本音でしょう。もともと、商用車事業をマネージすることは困難であるという認識がトヨタ内に過去からありました。出資比率51%をとって以降、連結子会社化しながらも、ダイハツ工業のように100%子会社化し事業一体化を日野で目指さず中途半場が長期化したのはそういった背景があります。それにも関わらず、トヨタ社員の天下りの温床ともなり、経営は迷走しました。トヨタの責任は重く、「放置」したつけを今になって支払うことになります。
2022年8月23日 8:43 』