ドイツ、エネ大手への公的支援に矛盾

ドイツ、エネ大手への公的支援に矛盾 北欧と脱原発で溝
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR300GX0Q2A730C2000000/

『ロシアからの天然ガス供給削減に苦しむドイツ。エネルギー大手ユニパーは17日発表した2022年1~6月期の連結最終損益で120億ユーロ(約1兆6500億円)超という巨額の赤字を計上した。公的資本の注入が決まったが、原子力発電を推進する親会社のフィンランド企業と同国政府、「脱原発」を掲げるドイツ政府との間で溝が残り、支援の枠組みは矛盾をはらんでいる。

16年、欧州電力大手エーオンの火力発電事業などを分社化し、設立したユニパーは数百の企業や地域電力会社を通じて一般家庭にも天然ガスを供給するドイツの重要インフラ企業だ。

ロシアのウクライナ侵攻前、輸入するガスの半分をロシア産に依存していたが、供給削減で割高なスポット市場からの調達が急増。逆ざやの赤字は1日1億ユーロに達した。

ユニパーのクラウス・ディーター・モーバッハ最高経営責任者(CEO)は17日「この状況に終わりは見えず、我々は紛争に翻弄されている」と苦境を語った。

7月下旬にまとまった救済策協議では、ユニパー、親会社フォータム、フォータム株51%を保有するフィンランド政府と独政府との間で激しい綱引きが繰り広げられた。フィンランド側が、ユニパーが手がける独国内のガス事業だけを切り出した上で公的資金を注入するよう求めたからだ。

フォータムはすでに融資などで80億ユーロを支援しており、ドイツでの事業にこれ以上の支出は避けたいとの思惑があった。それだけではない。「脱原発」を掲げる独政府がユニパーの大株主になれば、ユニパーと共同運営するスウェーデンでの原発事業が頓挫しかねないとの懸念が大きかった。

北大西洋条約機構(NATO)への加盟申請に絡んでロシアからガス供給を止められ、「グリーンエネルギーの要」として原発を拡大するフィンランド政府も、ドイツ政府の経営介入リスクを排除しようとした。

会社分割案に独政府は「ユニパーの市場価値を毀損する」と拒否した。代わりに、フォータムが株式をいつでも買い戻せるオプションを付与。救済策はあくまで一時的な措置との位置づけを明確にし、「限られた時間の中では最善の妥協点」(フィンランドの担当閣僚トゥップライネン氏)との合意にこぎ着けた。

独政府による30%出資や政府系金融機関の融資枠拡大などを柱とする救済策を金融市場は好感。S&Pグローバルは7月末、ユニパーの格付けを投資適格ぎりぎりの「トリプルBマイナス」に据え置いた。

エネルギー事業を所管する独連邦経済・気候省の担当者は日本経済新聞の取材に「独政府は出資でユニパーの(執行を監督する)監査役会の代表になる。個別の事業には影響を与えず、注入した資金が合意通りに使われているかをチェックするにとどめる」と話した。

一方、独政府が進める脱原発など環境政策については「どのような局面でも引き続き変更なく適用される」(同担当者)とも強調した。

こうした対応には疑問の声も上がる。脱原発を推進する連立与党・緑の党のホフライター議員は「救済措置であっても独国民の税金が『悪用』されてはならない」と独紙でけん制した。政府はユニパーの「止血」のため10月からガス料金値上げも認めた。国民感情の面からも原発事業の切り離しを求める声が広がる可能性がある。

ドイツ国内ではガス消費を抑えるため、22年末で原発を全廃せず、数カ月限定で稼働を延長すべきだとの声も上がるが、あくまで緊急措置という位置づけだ。ハベック経済・気候相は21日「原発を稼働し続けるのは正しい議論ではない。我々には他の選択肢がある」と強調した。

ロシアは今後も経済安保カードとしてガスの供給を絞り続ける可能性が高い。今回のユニパー救済策は基本合意にすぎず、スケジュールや詳細については政府間の協議が続く。「一時的」な状態が長引けば、矛盾への批判が強まることになる。

(フランクフルト=林英樹)

【関連記事】

・独ユニパーの赤字1兆6千億円 1~6月、ロシアガス供給減
・ドイツ政府、ガスへの付加価値税を大幅軽減へ
・ドイツ、ガス高で負担増懸念 ロシアが8割供給減

多様な観点からニュースを考える

※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

竹内薫のアバター
竹内薫
サイエンスライター
コメントメニュー

別の視点

ドイツのエネルギー政策は、最初にイデオロギーがあり、それに現実を無理やり合わせている印象があります。連立与党の緑の党の影響力が大きいのだと思います。原子力発電をゼロにする方向性と天然ガスを大量に燃やし続ける方向性は、誰が考えても環境政策としての一貫性を欠いています。国家として、非常に脆弱なエネルギー安全保障政策を取っており、ロシアに足元を見られてしまっています。日本もサハリン2などでロシアから牽制を受けており、ドイツの窮状は他人事ではありません。ドイツの失敗から学ぶべきことは多いように思います。
2022年8月23日 7:59 』