[FT]多国籍企業、台湾情勢緊迫で中国リスクを再検討

[FT]多国籍企業、台湾情勢緊迫で中国リスクを再検討
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『中国が今月、台湾周辺で異例の大規模軍事演習を実施したのを受け、多国籍企業が米中の軍事衝突に備えた危機管理計画を策定し始めた。

中国軍に対抗して、台湾軍も軍事演習を実施した。ペロシ米下院議長の台湾訪問を機に台湾海峡危機は急速に高まっている=ロイター

日米欧をはじめ各国の経営者が詳細な緊急対応策を練り直すのは、世界第2位の経済大国である中国による台湾侵攻をもはや実現確率の低い「想定外」のリスクと考えていないことを示している。

在中国欧州連合(EU)商工会議所のイエルク・ブトケ会頭は「様々なシナリオを想定している。戦争が始まったらどうすべきか、中国事業を閉鎖するのか、どう事業を継続し、経済封鎖を乗り切るのかといったことまで検討している」と打ち明けた。

「台湾は常に一触即発の状況に置かれてきたが、次のウクライナになるのではないかとの懸念が各社の本社内で急速に高まっている」

中国で事業展開する外国企業は台湾の緊張が高まる前から風評リスクにさらされ、米国やその同盟国の政府から中国本土市場からの撤退や多角化を求められてきた。

企業経営者からすれば、各社が大挙して撤退しないのは世界最大の消費市場かつ最重要製造拠点である中国に代わる国が他に見当たらないからだ。一方、一部事業の国外移転を検討している企業の中には米企業も含まれ、米中経済関係をさらに悪化させる可能性がある。
「中国プラス1またはプラス2」

米国商工会議所上海事務所のエリック・ツェン代表は、関税合戦に加えて台湾危機で米中関係悪化がますます「深刻さ」を増す中で、世界的なサプライチェーン(供給網)を支える多くの米企業が他国への工場移転を真剣に検討せざるを得なくなっていると指摘する。
「一般的なのは中国プラス1またはプラス2だ。つまり、引き続き中国を主要製造拠点としつつ、万一に備え、東南アジアに代替拠点を確保する戦略だ」

匿名を条件に取材に応じた別の米企業幹部は、緊急対応策を策定するのは「反中」姿勢を反映しているのではなく、実際に軍事衝突が起きた場合、甚大な影響が及ぶのに慎重に対応するのが狙いだと強調した。

ペロシ米下院議長の台湾訪問を受けて、習近平(シー・ジンピン)国家主席が大規模軍事演習を断行した結果、台湾海峡の現状は劇的に変わった。

今回の軍事演習の背景には、中国政府がロシアのウクライナ侵攻への非難を拒み、新疆ウイグル自治区や香港を弾圧していることへの欧米諸国の批判もある。バイデン米大統領は中国が台湾に侵攻すれば米国は台湾を防衛すると明言し、中国の台湾への強硬姿勢に対抗するよう同盟国に呼びかけている。

14億人の消費市場に大きな期待

とはいえ、ウォルト・ディズニーやイーロン・マスク氏率いるテスラなど多くの米大手企業は「中国で中国のために」長期的に資すると約束し、14億人の消費市場に依然大きな期待を寄せているとチェン氏は指摘する。

台湾をめぐる約20年ぶりの深刻な米中対立によって、対中輸出に依存する企業への政治的圧力も強まった。

1985年から北京で投資助言会社を経営するデービッド・マホン氏は、ニュージーランドの乳業最大手フォンテラのように最重要市場への輸出を多角化するのが難しい企業もあると述べた。

「多角化するよう助言を受けても、問題はどこへ行くかだ。今後5年間利益が出ないようなところには行けない」

フォンテラは地政学的リスクを注視していると述べる一方、「中国は引き続き、前途有望で収益性の高い市場だ」と主張する。

住友商事の諸岡礼二最高財務責任者(CFO)は決算会見で、ペロシ氏訪台の影響を見極めつつ「次のステップを検討する」と語った。

諸岡氏は「地政学的な緊張が高まる中で、世界的なデカップリング(分断)のリスクにどう対処するかは当社にとって大きな課題だ」と述べ、中国での事業戦略に当面変更はないと付け加えた。

川崎汽船の山鹿徳昌常務はペロシ氏の訪台などで事業に一時的な支障が出るとしても、米中の経済・貿易関係がこれ以上悪化する可能性には疑念を呈し、「世界経済において米中関係の分断が現実として可能なのか」と問いかけた。

今秋の第20回共産党大会次第

米法律事務所パーキンス・コイエで中国問題を担当するジェームズ・ジマーマン弁護士は外国企業が中国から流出するペースについて、習氏が中国共産党総書記および中央軍事委員会主席に再任されるとみられる今秋の第20回共産党大会次第だろうと見ている。

「大幅な政策変更はないと私は予想しているが、たいした変更がなければ、生産の国内回帰や近隣国への業務移転、友好国への業務委託など外国企業の戦略的な動きが加速するかもしれない」

このほか中国経済に大打撃を与えた習氏のゼロコロナ政策や「中国の対ロ関係、香港への対応、ペロシ氏訪台に対する軍の過剰反応」なども企業の動きに影響を及ぼす可能性があるとジマーマン氏は話した。

米投資銀行のアジア部門トップはロシアのウクライナ侵攻以降、投資家から台湾リスクを回避する戦略について多くの問い合わせを受けていると語った。

「投資家は悪影響があるかどうかよりも、むしろ事態がいつエスカレートするかを知りたがっている」と述べ、投資家の二大関心事は紛争に発展した際の為替変動リスクと、米国による対中制裁の影響をどう回避するかだと指摘した。

アナリストらは米中がともに現状に対する相手側からの攻撃と脅威に対応しているだけだと考えており、「紛争拡大に向けた力学」が生じていると警鐘を鳴らす。

英コンサルティング会社コントロール・リスクスの中国分析部門トップ、アンドリュー・ギローム氏は、台湾をめぐる過去の危機に関しては大抵、台北での出来事をきっかけに発生したが、これまで米国が圧倒的に軍事的優位にあったため紛争に発展するリスクは小さかったと指摘する。

「中国は米国の対中政策を状況の変化に応じた抑止的な動きだとは考えない。むしろ現状を脅かす挑発的な動きだととらえており、中国側こそ抑止的な行動を取る必要があると感じている」

米商工会議所上海事務所のツェン氏は、習氏とバイデン氏が直接会談しない限り緊張は緩和しないと述べ、それが実現するのは共産党大会以降だろうと予想した。

「米中分断や中国の孤立は望まないし、両国が完全にたもとを分かつのも見たくない」とツェン氏は語った。「要するに、米中の首脳は互いの相違に折り合いを付ける必要があるということだ」

By Edward White, Tom Mitchell, Kana Inagaki and Hudson Lockett

(2022年8月17日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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