米民主党に夏の追い風 「嫌トランプ」結集に潜むリスク

米民主党に夏の追い風 「嫌トランプ」結集に潜むリスク
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『米国で11月の中間選挙が近づき、悲願の気候変動対策や企業増税を盛った歳出・歳入法を実現した民主党に夏の追い風が吹いた。足元で民主党の支持率は共和党をわずかに上回る。ただ民主党の選挙戦術の基本はトランプ前大統領への嫌悪を呼び起こすことにある。「嫌トランプ」結集への賭けは、かえって敵の戦意をあおるリスクをはらむ。

「ドナルド・トランプが二度と大統領執務室に近づかないよう、何でもする」。16日の全米ニュースの主役は、共和党予備選で敗れたリズ・チェイニー下院議員だった。

最前線でトランプ氏を批判してきた同氏はトランプ氏が支援する候補に大敗した。同じ日にバイデン大統領が署名して成立した歳出・歳入法の成果はかすみ、米国の政治状況が「トランプ氏は是か非か」の争点を軸に回っていることを改めて印象づけた。

米世論調査サイト「ファイブサーティーエイト」が集計した議会選挙での政党支持率によると、17日時点で民主党(43.9%)は共和党(43.4%)を0.5ポイント上回った。約2カ月前までは共和党の支持率が2.5ポイント以上、民主党より高かった。中絶問題への危機感や一服したガソリン高。民主党への追い風となる要素が夏に集中した。

だがバイデン大統領の支持率はやや上向いたとはいえ40%ほど。しかも米国人の8割超は米国が間違った方向に進んでいると感じている。有権者は中間選挙で政権与党に不満をぶつけがちだ。民主党が連邦議会下院で多数派の地位を失う可能性は高く、上院で少数派転落を回避できるかどうかが問われる構図は変わらない。

いかに議席減少を食い止めるか。民主党は戦術の基本に「嫌トランプ」の結集を据える。「保守すぎる!」。民主党が広告主となるテレビCMの常とう句だ。

民主党のJ・B・プリツカー氏が現職知事を務めるイリノイ州。民主党は共和党予備選をめぐり、トランプ氏が支持する知事選候補ダレン・ベイリー氏を「銃保有者と胎児のために戦う」と宣伝。同時に、共和党内で有力視されていた同州オーロラ市長のリチャード・アービン氏を「犯罪に強いふりをするな」と攻撃するCMを投入した。

狙いは11月の本選で強敵とぶつかる可能性を潰すこと。プリツカー氏にとって黒人で法律家出身のアービン氏のほうが手ごわい。一方、ベイリー氏はトランプ主義者の固い支持が期待できる半面、本選となれば「嫌トランプ」の穏健な保守層や無党派層が離れる可能性がある。民主党の思惑通り、ベイリー氏は予備選を勝ち残った。

米紙報道によると、イリノイ、メリーランドなど5州だけで民主党と関連団体はトランプ派候補を推す宣伝戦に4400万ドル(約60億円)を投じた。民主党はミシガン州でも下院第3選挙区の共和党予備選でトランプ派候補を宣伝。その結果、現職でトランプ氏の弾劾に賛成した10人の共和党議員の一人、ピーター・マイヤー氏は敗退した。

「嫌トランプ」の結集は奏功するのか。民主党がトランプ主義者を後押しする偽善への批判はくすぶる。さらに影を落とすのはトランプ氏の存在そのものだ。

トランプ氏が米連邦捜査局(FBI)による自邸への家宅捜索を公表すると、保守層は一斉に「政権による政敵に対する連邦機関の武器化」(フロリダ州のロン・デサンティス知事)と非難した。FBIの捜索によって共和党支持層の8割超が11月の中間選挙で投票に行く意欲が高まったと答えた調査もある。

2016年2月、同年の大統領選でトランプ氏をくみしやすい敵とみたリベラル派の評論家は「共和党によるトランプ氏の候補指名を支持すべきだ」との論陣を張った。結果はトランプ大統領の誕生。11月の風向きはまだ見通せない。

(ワシントン支局長 大越匡洋)

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菅野幹雄
日本経済新聞社 上級論説委員/編集委員
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分析・考察

米民主党には追い風と逆風が同時に吹き始めた感があります。民主党支持者のトランプ氏に対する怨念と、トランプ・共和党支持者の民主党に対する怨念。前者は2020年の米大統領選挙でバイデン大統領が勝利する原動力でした。様々な路線転換を掲げたバイデン氏ですが、支持率低迷の末に結局は「トランプ憎し」の力に頼らざるを得ないということでしょうか。
とはいえ、中間選挙はトランプ氏の信任投票でなく、現職のバイデン氏に対する審判です。「バイデン氏は頼りないが、トランプ氏もちょっと……」と考える層は少なからずいると思いますが、それが共和党の支持票を減らす力とはなりにくい。民主党の苦戦の構図は変わらないと思います。
2022年8月18日 7:39 (2022年8月18日 7:55更新) 』