北欧2国のNATO加盟で激変するパワーバランス

北欧2国のNATO加盟で激変するパワーバランス:プーチンを脅かすフィンランドの軍事インフラ
国際・海外 2022.08.19
能勢 伸之 【Profile】
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『2国のNATO接近に神経をとがらせたロシア

NATOは2022年6月29日、スペインで開かれた加盟国の首脳会議で合意した文書「マドリード首脳会議宣言」を発表し、フィンランドとスウェーデンの加盟に向けた手続きを正式に始めることを明らかにした。両国の加盟にはNATO全加盟国の承認が必要だが、クルド問題等で難色を示していたトルコが6月28日までに支持に転じたことで、両国の加盟に向けた動きは大きく前進した。

各国の承認と批准を経て両国が正式加盟する時期は、早ければ年内との声もある。この2国の加盟が実現すれば、ロシアとNATOの軍事バランスが激変する可能性がある。

ウクライナで戦火が拡大していた22年3月4日、米国のジョー・バイデン大統領がロシアのウクライナ侵攻後、初めてホワイトハウスに招き、直接、面会した外国の首脳は第二次大戦後、東西のはざまで中立を保ち続けてきたフィンランドのサウリ・ニーニスト大統領だった。

米フィンランド首脳会談では、両国の安全保障関係を強化し、NATOの門戸開放政策の重要性で一致したという。会談後、バイデン大統領は「ニーニスト大統領と欧州の安全保障について話をした。会談の最中、我々はスウェーデンのマグダレナ・アンデション首相に電話を掛けた」ことを自身のSNS上で明らかにし、フィンランドとスウェーデンは「米国とNATOにとって重要な防衛上のパートナー」と呼んだ。

このようなフィンランド、スウェーデンの米国(NATO)との急接近を警戒したのだろうか、3月2日、ロシア空軍のSu-27戦闘機2機とSu-24攻撃機2機がスウェーデンの領空侵犯を行った。Su-24攻撃機はその時、戦術核模擬爆弾を搭載していたと3月末にスウェーデンのテレビ局が報じた。ロシアにとって全長1340キロメートルにわたって国境を接するフィンランドがNATO加盟国になることは、NATOとの巨大な境界線が出現することを意味するため、大きな脅威と受け取られても不思議ではない。

プーチンが恐れる軍事インフラとは?

フィンランドとの国境からロシアの首都、モスクワまでは、800キロメートル足らず。プーチン大統領の出身地でロシア第二の都市、サンクトペテルブルクまでは、フィンランドの首都、ヘルシンキから約300キロメートルに過ぎない。

だが、NATOに正式加盟するまでは、両国はNATO全軍による防護対象にはならない。ではNATO加盟国になるまでの当面の安全保障の手段は確保できるのか。そこで注目されたのが英国の存在。両国がNATOに正式加盟するまでの間、英国がスウェーデン、フィンランドにそれぞれ、安全保障上の支援を行うことになった(共同声明、5月11日付)。フィンランドと英国の共同声明には「フィンランドと英国は共通の安全保障上の利益を共有し、英国は必要なあらゆる手段でフィンランドの努力を支援する準備ができている」と記述されている。

英国は戦術核兵器を保有していないが、戦略核兵器として、ヴァンガード級ミサイル原子力潜水艦に最大16発搭載できる射程1万2000キロメートルのトライデントⅡD5潜水艦発射弾道ミサイルを保有(運用)している。同ミサイルには、100キロトン級核弾頭が最大12個搭載可能。「英国の必要なあらゆる手段」に、英国の戦略核兵器が含まれているかどうかは、気になるところだ。

ではNATOに両国が加入したら、安全保障環境のパワーバランスはどうなるのだろうか。フィンランドとロシアとの国境は前述の通り、約1340キロメートル。フィンランドとロシアの国境からモスクワまでは、800キロメートルもない。さらに、2国が加盟すれば、バルチック艦隊の二大拠点、サンクトペテルブルクも飛び地のカリーニングラードも、NATO諸国に包囲される位置関係になる。

ロシアはこの2国のNATO加盟申請をどのように見ているのか。22年5月16日、プーチン大統領はロシアを中心とする旧ソ連の6共和国で構成される安全保障条約機構(CSTO)の首脳会合で、「全く問題ない。NATOのこれらの国(フィンランド、スウェーデン)への拡大に伴い、ロシアに直接の脅威はない。しかし、(NATOの)部隊を展開したり、軍事インフラをこれらの領土に拡大するなら、確実に我々の側の反応を呼び起こすだろう」と述べていた。

つまり、スウェーデン、フィンランドの加盟によってNATOが拡大しても、それだけではロシアへの脅威にはならない。しかし、両国にNATOの軍事インフラが作られるなら話は別だ、ということなのだろう。ではプーチン大統領が指摘するNATOの軍事インフラとは、具体的には何を指すのだろうか。一般的には軍事基地などを指すのだが、ことフィンランドに限っては、ロシアにとって気掛かりな影が漂う。

戦闘機F-35A「ブロック4」の実力

フィンランドは現在保有する戦闘機、F-18ホーネットに代えて、米ロッキード・マーチン社が開発した第5世代戦闘機、「F-35AライトニングⅡステルス戦闘機」を64機導入する予定で、2026年から国内配備が始まる。また、このF-35Aと共に、JAASM-ER空対地ステルス巡航ミサイル200発を導入する見通しだが、このミサイルはAGM-158B2と呼ばれるタイプであり、射程は1000km以上。フィンランド国内から物理的にモスクワに届く可能性が高い。
また、このF-35Aは全機「ブロック4」というタイプであることをフィンランド国防省が明らかにしている。米議会調査局の報告書「F-35 Joint Strike Fighter (JSF) Program(2022年5月2日)」によれば、F-35Aブロック4は、「Adds nuclear weapons capability(核兵器能力を付与される)」と明記されている。具体的には、米軍最新の「B61-12核爆弾」を運用可能となる能力を持つという。

F-35A Refuels from KC-135 Tanker at Edwards AFB, Ca.

広島に投下された原子爆弾「リトルボーイ」の威力が約16キロトンと推定されるのに対し、B61-12 の爆発威力は、0.3、1.5、10、50キロトンの選択式。そして、B61-12核爆弾は従来の米軍の核爆弾と異なり、全地球測位システム(GPS)で標的に精密に誘導する装置を用いて命中精度を向上させている。地表まで約100秒で弾着するように航空機から投下すると、弾着精度を示す平均誤差半径(CEP)は、現行の米軍の核爆弾が100メートル以上だったのに対し、B61-12 では30メートル前後になるとされ、弾着精度の高い核爆弾となっている。F-35Aの航続距離は2200キロメートル、作戦行動半径は約1093キロメートルとされる。

F-35Aに搭載されたB61-12模擬核爆弾(左) Sandia National Laboratories

フィンランドには現状、核兵器を導入する計画はない。しかし、 NATO内ではドイツ、ベルギー、イタリアなどが米軍の管理下、米軍の核兵器を国内に配備し、いざという時には、自国の作戦機にその核兵器を搭載し運用するという、いわゆる核共有を行っている。

フィンランドの核共有の可能性

フィンランドはNATO加盟後の核共有について明言していないが、将来、フィンランド空軍のF-35Aブロック4戦闘機がモスクワまで行って何らかの作戦行動を行い、フィンランドへ帰投することが物理的に可能となる。つまり、F-35Aブロック4の導入は、はた目にはフィンランドが将来、政治的にも技術的にも条件がクリアされれば、核共有に踏み切る布石のようにも見える。

また、興味深いのは、フィンランドにGPS誘導爆弾であるJDAMのGBU-31(120発分)、GBU-38/54(150発分)のGPS誘導装置や訓練弾が引き渡されることになっていること。これらのGPS誘導JDAM弾は核爆弾ではないが、フィンランド空軍のパイロットや地上要員にとっては、これらの爆弾を通じて、航空機から投下されるGPS誘導爆弾の取り扱いを学ぶことにもなる。

繰り返しになるが、B61-12もまた、GPS誘導爆弾の一種である。フィンランドのサンナ・マリン首相はNATO加盟を申請した翌日の5月19日、インタビューに答えて「(NATO内では)フィンランドに核兵器や基地を置くことには関心さえない」と発言したという。

この発言はプーチン大統領の意向を勘案したものなのかどうか、それをロシアがどう受け止めているかは不明だが、マリン首相は22年1月19日にフィンランドが自らの首相任期中にNATO加盟を申請する可能性について「非常に低い」と述べていた人物。その当人がNATO加盟申請を果たした。微妙な表現の発言を駆使しながら用意周到に防衛装備の整備を進めるフィンランドが将来、自国内に米国の核兵器を置き、ロシアに匕首(あいくち)を突きつけることになるか否か、ロシアにとって大いに気掛かりなことだろう。

マドリードで覚書に署名後、写真撮影に臨むトルコのエルドアン大統領(左から4人目)、フィンランドのニーニスト大統領(同5人目)、スウェーデンのアンデション首相(同6人目)(トルコ大統領府提供)AFP=時事

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軍事ジャーナリスト。1958年京都市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。防衛問題担当が長く、1999年のコソボ紛争をベオグラードと北大西洋条約機構(NATO)本部の双方で取材。著書に『極超音速ミサイル入門』(イカロス出版)『極超音速ミサイルが揺さぶる恐怖の均衡』(扶桑社新書)『ミサイル防衛』(新潮新書)、『東アジアの軍事情勢はこれからどうなるのか』(PHP新書)など。』