世界銀行副総裁「債務膨張、東アジア最大のリスクに」

世界銀行副総裁「債務膨張、東アジア最大のリスクに」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB16CBH0W2A810C2000000/

 ※ 『――中国では不動産市場を巡る混迷が深まっています。政府は銀行への資本増強を通じて金融危機の発生を未然に防ごうとしていますが、ソフトランディングは可能でしょうか。

「この問題は非常にデリケートだ。私たちの情報も完全と呼ぶにはほど遠いし、実際のところ、誰も完全な情報を持ち合わせていないだろう。中国だけでなく東アジア・太平洋地域全体ではコロナ禍で緩和的な金融環境を続けてきた。バランスシートの膨張が進めば銀行などの金融部門に打撃を与えうる。将来的に経済にとって重荷となるだけでなく、(リーマン・ショックのような)新たな危機の火種となる可能性がある。どのような未来が待ち受けているか、来年か数年のうちに明らかになるだろう」』…。

 ※ そういう中で、みんな「おっかなびっくり」「手探りで」進んで行くわけだ…。

 ※ 中国経済だけでなく、米国経済だって、「インフレ対策の金融引き締め」が、うまいことソフトランディングするのか、確信持ってる人なんか、いるわけが無い…。

『新型コロナウイルス禍による経済収縮や歴史的なインフレ、それに伴う米利上げが世界を揺るがしている。人口増加を追い風にアジアでは高い経済成長が続いたが、中国など成長に陰りが出る国も顕在化してきた。世界銀行副総裁で東アジア・太平洋地域を統括するマヌエラ・フェッロ氏にアジア経済の展望を聞いた。(聞き手は三島大地)

――世界銀行は東アジア・太平洋地域の経済成長率が当面5%前後を維持するとの見通しを示しています。コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻など逆風が吹いていますが、この地域の経済環境をどのように見通しますか。

「中国の成長鈍化を起因として経済成長は大幅に減速するだろう。ロシアやウクライナとの貿易上のつながりは直接的には限られているが、資源や食料、エネルギー価格の上昇の影響は等しく及んでいる。東アジア・太平洋地域が世界の成長のエンジンであることに変わりはないが、インフレやそれに伴う中央銀行の対応が先行きへの不確実性やダウンサイドリスクをもたらしている」

――ウクライナ危機に端を発した資源価格の上昇で、世界はインフレ圧力にさらされています。経済の失速が明らかになれば、東アジア・太平洋地域でも物価上昇と景気後退が同時に進むスタグフレーションのリスクが顕在化するのではないですか。

「収入源を観光業に依存し、産業の多様性に乏しい国では経済が大きな打撃を受けている。供給制約の問題も生じており、この地域で強い逆風が吹いているのは事実だ。しかし長期的な目線に立てば、商品の生産や輸出を担う東アジアの国々では経済が回復基調にある。経済のショックに見舞われることなく、ウクライナ危機が長期化を免れることができれば、東アジア・太平洋地域の成長率は5%に戻るとみる。現時点ではこの地域がスタグフレーションに陥るという確証は持ち合わせていない」

――ウクライナ危機を契機に主要7カ国(G7)が民主主義の旗の下で結束を深める一方、東アジア諸国は経済的合理性を踏まえ、中国などの専制主義国家と近い距離を保つ国も少なくありません。国際的なデカップリング(分断)が進む中で、東アジア・太平洋諸国はどのように振る舞うべきだと考えますか。

「まず、現時点でデカップリングが生じているとは考えていない。我々は過去数十年にわたり、効率的な経済と国際貿易によって利益を得てきた。特に新興国では貧困の削減や経済的な繁栄に大きく貢献したという明確な事実がある」

「世界が分断に進んだ場合、経済的な観点に立つと、おそらく誰にとっても利益をもたらすことにはならないだろう。原材料やエネルギーの供給源を多様化させるなど、何らかの形で経済的なヘッジを行うことは否定しないが、もし完全な分断に至れば、世界経済が非効率的な状況に陥るのは明白だ。ロビンソン・クルーソーのような経済に移行することは誰も望んでいないだろう」

――米連邦準備理事会(FRB)は利上げと量的引き締めに着手しています。引き締めのペースは従来予想されたものよりもずっと速くなっています。FRBの金融引き締めは東アジア経済にどのような影響を与えると考えますか。

「東アジア・太平洋地域は従来、財政・金融政策について保守的な地域だったといえる。だが、こうした国もコロナ禍では前例にとらわれず、政策手段を総動員してきた。すべての国が経済を下支えし、失業者を守ろうと努めてきた。米国の利上げそのものは予想されていたことで、大きなサプライズはない。重要なのはコロナ禍以降の危機対応からいかに正常化を進めていくかということだ」

マヌエラ・フェッロ世界銀行副総裁はインフレや、中央銀行の利上げが経済を冷やすリスクを指摘する

――米利上げに伴い、新興国から資本が流出するリスクがあります。既にスリランカでは、主力の観光業がコロナ禍で打撃を受けたさなかに米利上げ観測が高まり、1948年の独立以来のデフォルト(債務不履行)状態に陥りました。

「最大のリスクは過去数年でこの地域の債務が増加したことだ。債務が膨らんだ国の中には、太平洋の島しょ国のように債務の返済能力が高くない国も含まれる。こうした国は観光産業が中心で、コロナ禍に加え、自然災害など他の危機に見舞われるリスクもくすぶる。スリランカの他にも、ラオスなど東南アジアのなかでも大きな負債を抱えている国がある」

「世界銀行としては、契約や条件など債務の透明性を高めることに積極的に取り組んできた。債務残高を見ることは大きな絵の一部を見ることでしかない。貸し付けの条件や返済期限の長さによって、支払い能力や返済までの期間にどれだけの重荷を解消しないといけないのかを見極められる。我々が全ての問題に対処できると言うつもりはないが、常に最善を尽くしている」

――中国では不動産市場を巡る混迷が深まっています。政府は銀行への資本増強を通じて金融危機の発生を未然に防ごうとしていますが、ソフトランディングは可能でしょうか。
「この問題は非常にデリケートだ。私たちの情報も完全と呼ぶにはほど遠いし、実際のところ、誰も完全な情報を持ち合わせていないだろう。中国だけでなく東アジア・太平洋地域全体ではコロナ禍で緩和的な金融環境を続けてきた。バランスシートの膨張が進めば銀行などの金融部門に打撃を与えうる。将来的に経済にとって重荷となるだけでなく、(リーマン・ショックのような)新たな危機の火種となる可能性がある。どのような未来が待ち受けているか、来年か数年のうちに明らかになるだろう」

――ウクライナ危機や緊張感が高まる台湾情勢など、専制主義国家による脅威が増すなかで、多国間主義の重要性が増しています。世界銀行は第2次世界大戦後、国際通貨基金(IMF)などとブレトンウッズ体制を築き、世界経済の発展に寄与してきました。

「各国が協力しなければ、世界は非常に近視眼的な状況に陥るだろう。世界の国々が協調している時代には自然と協調関係が築かれるから、(世界銀行やIMFのような)多国間主義に立脚した組織の重要性が認識されることはそれほどない。だが現状は、こうした組織の重要性がかつてないほどに高まっていると感じる。より多くの国々が国際協調の手段を維持することに価値を見いだしてくれると望んでいる」

Manuela V. Ferro 米スタンフォード大で博士号(応用経済学)取得後、1994年世界銀行入行。ラテンアメリカ・カリブ海地域担当戦略・業務局長や業務政策・被援助国サービス(企画担当)副総裁を経て、21年9月から現職。ポルトガル出身。

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白井さゆり
慶應義塾大学総合政策学部 教授
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ひとこと解説

中国では、長く不動産業界を支えてきた住宅価格上昇とレバレッジの拡大、地方政府の税収増加という連関を一変させており、住宅建設が未完成のままになる物件も増えており住宅所有者が住むことができない事態に陥っている。住宅バブルとレバレッジの抑制を目指して2020年に導入にした金融規制だったが、住宅問題で消費者の不満も高まっており、今年後半にあまり景気が持ち直さない可能性がある。中国経済の減速が世界のコモディティ価格の最近の下落傾向に影響しているようにみえる。ディカップリングについてはまだ起きていないが、西側による半導体製造を自国・地域で拡大する動きがようやく始まったところで影響がでるには時間がかかる。
2022年8月18日 20:18 』