パナマの抗議活動が独自の左翼化へ進む事情

パナマの抗議活動が独自の左翼化へ進む事情
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/27512

『パナマでは7月6日に地方の小都市で始まった教員の抗議活動に建設労働者、学生、先住民グループなどが加わり、国内全土に拡大し過去30年で最大規模の反政府抗議デモに発展した。契機となったのは、ウクライナ戦争の影響で倍増した燃料価格を始めとする高いインフレ率、新型コロナ感染による経済活動の停滞による失業率の増加である。

 しかし、その背景には、汚職や社会的不均衡に効果的に対処しない政権に対する鬱積していた国民大衆の不満があった。この種の話は中南米で最近は良く聞く話である。
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 パナマは、1989年の米国の軍事侵攻による独裁者ノリエガの排除後は、民主化が定着し、社会民主主義、リベラル系保守、民族主義保守の主要な3つの政党の間で選挙による民主的な政権交代が続いてきた。社会民主主義政党のコルティソ大統領は、この抗議運動に対し各抗議グループ代表との交渉に応じ、補助金による燃料費の値下げや72品目の食料品価格の統制、食品等の輸入関税の廃止やパンデミック時の社会給付の延長等の措置を提案した。ブロックされていたコスタリカとの間のパン・アメリカンハイウェーは、開通したとも伝えられる。

 しかし、抗議グループの要求のレベルはさらに上がり、燃料価格の更なる値下げに加え十分で安価な医薬品や医療の提供、教育分野の予算増額、電気料金引き下げ、社会保険基金についての検討、透明性の向上と政治的腐敗に対する対応、更にはこれらのフォローアップのためのメカニズムの設置等の政治改革に及んでいる。一部で継続している道路封鎖に対しトラック運転手や農民からの反発も出ている様であるが、7月末の段階でも政府と抗議活動グループの間での交渉は続いている。

 活動家に先導されているとはいえ、抗議活動で形成された多様なグループと政府が対話し譲歩せざるを得ないということ自体が、国民のさまざまな不満や要求を吸い上げる政府の制度や議会・政党のシステムが機能していないということを意味する。

 パナマのこれまでの順調な経済成長の陰で貧富の格差は拡大し、また、タックスヘイブンやマネーロンダリングに利用される企業寄りの政策に比較し低所得層への社会政策に手が抜かれていた点も同様であろう。元大統領らが、ブラジル企業から賄賂を受け取ったとの疑惑等もあり、既成の政治家に対する国民の失望感は、明らかにチリ、コロンビアと共通している。』

『チリやコロンビアと異なる4つの事情

 こうした状況につき、ウォールストリート・ジャーナル紙のオグラディによる7月24日付けの論説‘Is Panama Next for a Hard Left Turn?’は、パナマの抗議活動は過激な左派活動家に扇動されており、これを放置すればチリやコロンビアのような急進左派への政権交代になりかねない、との懸念を提起している。この論説が懸念するようにパナマもチリやコロンビアのような過激な左傾化現象が起こるのかについては、以下のようなパナマの特有の事情も念頭に置く必要があるであろう。

 第1に、チリやコロンビアで右派に代わって政権をとることになった極左政党や左派の有力政治家が現在パナマには見当たらない。

 第2に、1990年以降の堅実な経済成長に貢献したパナマ運河については、その運河の効率的運用のため憲法上自治的な運営が確保されており、今後とも安定した収入源となることが見込まれる。

 第3に、パナマは、チリやコロンビアに比べ国土も人口も小さく、何らかの改革もやりやすい面もあるのではなかろうか。

 そして第4に、現職大統領は、右派ではなく中道左派であり、次の選挙までには時間があり政権と抗議グループの対話により問題が収拾する可能性もある。

 しかし、今後とも従来のようななれ合いの政治が続くとすれば、過激な左派指導者や極右のポピュリストが台頭する可能性も排除できない。現政権としても単に補助金の増額や物価統制だけでなく、この機会をとらえて汚職防止や社会的給付の充実など、国民の声を政治システムに反映させるような仕組みや構造改革を考えるべきであろう。

 なお、パナマ経済は、経済活動の再開と運河からの増収で早期の回復が期待されていたが、今次騒擾に対する対応で増大する支出は、今後必要な年金制度の改革や当面の経済展望にもネガティブな影響を与えることが懸念される。』