ウクライナ軍、南部を攻撃 ロシアは航空機を本土に移動

ウクライナ軍、南部を攻撃 ロシアは航空機を本土に移動
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB183IX0Y2A810C2000000/

 ※ 今日は、こんなところで…。

『ウクライナはロシア軍に占領された南部の奪還を目指し、攻撃を続けている。占領地域でロシアへの併合を問う形式的な「住民投票」を阻止する狙いもある。一方、ロシア軍も18日、ウクライナ東部ハリコフを砲撃した。ウクライナ国防省は17日、爆発が相次いだ南部クリミア半島からロシア軍の航空機などがロシア本土に移動していると明らかにした。
【関連記事】国連、穀物輸出で協力継続 ウクライナで3者会談

ウクライナからの報道によると、ウクライナ軍は17日、同国南部のへルソン州でロシア軍の駐留拠点を攻撃した。10人以上を殺害した。南部ザポロジエ州メリトポリ市のフェドロフ市長はSNS(交流サイト)に「占領軍(ロシア軍)の司令部付近で爆発音が響いた」と投稿した。

ロシア軍はウクライナ東部を攻撃。ウクライナの国家緊急事態庁は18日、東部ハリコフでロシア軍の砲撃があり3人が死亡したと発表した。同市では17日にも住宅に向けた砲撃で7人が死亡した。ウクライナのゼレンスキー大統領はSNSで「私たちは必ず報復する」と主張した。

ウクライナ国防省情報総局は17日、ロシアが一方的に併合を宣言したクリミア半島のロシア軍施設で爆発が相次いだ後、少なくともロシア軍の航空機24機とヘリコプター14機がロシア本土などへ移動したと発表した。9日の航空基地での爆発では航空機が破壊されており、さらなる攻撃による被害拡大を防ぐ狙いがあるとみられる。

同半島での爆発を巡っては、ウクライナ側は攻撃を公式に認めていない。ただ、ウクライナ軍の特殊部隊などが関わっているとの見方が出ている。米CNNは17日、ウクライナ当局者から爆発に同国が関与していたとの内部報告書を入手したと報じた。

国営ロシア通信(クリミア)などは17日、関係者の話として、ウクライナ南部クリミア半島に司令部を置く黒海艦隊の司令官にビクトル・ソコロフ氏が就任したと伝えた。事実ならば、副司令官から昇格したことになる。だが、同通信によると、黒海艦隊は公式なコメントを発表していないとしている。

4月には黒海艦隊の旗艦「モスクワ」が沈没した。ウクライナ軍が対艦ミサイルで撃沈したと報じられ、ロシアの制海権が弱まるきっかけになった。ウクライナ国防省は沈没後、当時のイーゴリ・オシポフ司令官が解任、逮捕されたと明らかにしていた。

(テヘラン=福冨隼太郎、佐堀万梨映)

【関連記事】

・ロシア黒海艦隊に新司令官 「モスクワ」沈没で交代か 』

[FT]多国籍企業、台湾情勢緊迫で中国リスクを再検討

[FT]多国籍企業、台湾情勢緊迫で中国リスクを再検討
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB1827L0Y2A810C2000000/

『中国が今月、台湾周辺で異例の大規模軍事演習を実施したのを受け、多国籍企業が米中の軍事衝突に備えた危機管理計画を策定し始めた。

中国軍に対抗して、台湾軍も軍事演習を実施した。ペロシ米下院議長の台湾訪問を機に台湾海峡危機は急速に高まっている=ロイター

日米欧をはじめ各国の経営者が詳細な緊急対応策を練り直すのは、世界第2位の経済大国である中国による台湾侵攻をもはや実現確率の低い「想定外」のリスクと考えていないことを示している。

在中国欧州連合(EU)商工会議所のイエルク・ブトケ会頭は「様々なシナリオを想定している。戦争が始まったらどうすべきか、中国事業を閉鎖するのか、どう事業を継続し、経済封鎖を乗り切るのかといったことまで検討している」と打ち明けた。

「台湾は常に一触即発の状況に置かれてきたが、次のウクライナになるのではないかとの懸念が各社の本社内で急速に高まっている」

中国で事業展開する外国企業は台湾の緊張が高まる前から風評リスクにさらされ、米国やその同盟国の政府から中国本土市場からの撤退や多角化を求められてきた。

企業経営者からすれば、各社が大挙して撤退しないのは世界最大の消費市場かつ最重要製造拠点である中国に代わる国が他に見当たらないからだ。一方、一部事業の国外移転を検討している企業の中には米企業も含まれ、米中経済関係をさらに悪化させる可能性がある。
「中国プラス1またはプラス2」

米国商工会議所上海事務所のエリック・ツェン代表は、関税合戦に加えて台湾危機で米中関係悪化がますます「深刻さ」を増す中で、世界的なサプライチェーン(供給網)を支える多くの米企業が他国への工場移転を真剣に検討せざるを得なくなっていると指摘する。
「一般的なのは中国プラス1またはプラス2だ。つまり、引き続き中国を主要製造拠点としつつ、万一に備え、東南アジアに代替拠点を確保する戦略だ」

匿名を条件に取材に応じた別の米企業幹部は、緊急対応策を策定するのは「反中」姿勢を反映しているのではなく、実際に軍事衝突が起きた場合、甚大な影響が及ぶのに慎重に対応するのが狙いだと強調した。

ペロシ米下院議長の台湾訪問を受けて、習近平(シー・ジンピン)国家主席が大規模軍事演習を断行した結果、台湾海峡の現状は劇的に変わった。

今回の軍事演習の背景には、中国政府がロシアのウクライナ侵攻への非難を拒み、新疆ウイグル自治区や香港を弾圧していることへの欧米諸国の批判もある。バイデン米大統領は中国が台湾に侵攻すれば米国は台湾を防衛すると明言し、中国の台湾への強硬姿勢に対抗するよう同盟国に呼びかけている。

14億人の消費市場に大きな期待

とはいえ、ウォルト・ディズニーやイーロン・マスク氏率いるテスラなど多くの米大手企業は「中国で中国のために」長期的に資すると約束し、14億人の消費市場に依然大きな期待を寄せているとチェン氏は指摘する。

台湾をめぐる約20年ぶりの深刻な米中対立によって、対中輸出に依存する企業への政治的圧力も強まった。

1985年から北京で投資助言会社を経営するデービッド・マホン氏は、ニュージーランドの乳業最大手フォンテラのように最重要市場への輸出を多角化するのが難しい企業もあると述べた。

「多角化するよう助言を受けても、問題はどこへ行くかだ。今後5年間利益が出ないようなところには行けない」

フォンテラは地政学的リスクを注視していると述べる一方、「中国は引き続き、前途有望で収益性の高い市場だ」と主張する。

住友商事の諸岡礼二最高財務責任者(CFO)は決算会見で、ペロシ氏訪台の影響を見極めつつ「次のステップを検討する」と語った。

諸岡氏は「地政学的な緊張が高まる中で、世界的なデカップリング(分断)のリスクにどう対処するかは当社にとって大きな課題だ」と述べ、中国での事業戦略に当面変更はないと付け加えた。

川崎汽船の山鹿徳昌常務はペロシ氏の訪台などで事業に一時的な支障が出るとしても、米中の経済・貿易関係がこれ以上悪化する可能性には疑念を呈し、「世界経済において米中関係の分断が現実として可能なのか」と問いかけた。

今秋の第20回共産党大会次第

米法律事務所パーキンス・コイエで中国問題を担当するジェームズ・ジマーマン弁護士は外国企業が中国から流出するペースについて、習氏が中国共産党総書記および中央軍事委員会主席に再任されるとみられる今秋の第20回共産党大会次第だろうと見ている。

「大幅な政策変更はないと私は予想しているが、たいした変更がなければ、生産の国内回帰や近隣国への業務移転、友好国への業務委託など外国企業の戦略的な動きが加速するかもしれない」

このほか中国経済に大打撃を与えた習氏のゼロコロナ政策や「中国の対ロ関係、香港への対応、ペロシ氏訪台に対する軍の過剰反応」なども企業の動きに影響を及ぼす可能性があるとジマーマン氏は話した。

米投資銀行のアジア部門トップはロシアのウクライナ侵攻以降、投資家から台湾リスクを回避する戦略について多くの問い合わせを受けていると語った。

「投資家は悪影響があるかどうかよりも、むしろ事態がいつエスカレートするかを知りたがっている」と述べ、投資家の二大関心事は紛争に発展した際の為替変動リスクと、米国による対中制裁の影響をどう回避するかだと指摘した。

アナリストらは米中がともに現状に対する相手側からの攻撃と脅威に対応しているだけだと考えており、「紛争拡大に向けた力学」が生じていると警鐘を鳴らす。

英コンサルティング会社コントロール・リスクスの中国分析部門トップ、アンドリュー・ギローム氏は、台湾をめぐる過去の危機に関しては大抵、台北での出来事をきっかけに発生したが、これまで米国が圧倒的に軍事的優位にあったため紛争に発展するリスクは小さかったと指摘する。

「中国は米国の対中政策を状況の変化に応じた抑止的な動きだとは考えない。むしろ現状を脅かす挑発的な動きだととらえており、中国側こそ抑止的な行動を取る必要があると感じている」

米商工会議所上海事務所のツェン氏は、習氏とバイデン氏が直接会談しない限り緊張は緩和しないと述べ、それが実現するのは共産党大会以降だろうと予想した。

「米中分断や中国の孤立は望まないし、両国が完全にたもとを分かつのも見たくない」とツェン氏は語った。「要するに、米中の首脳は互いの相違に折り合いを付ける必要があるということだ」

By Edward White, Tom Mitchell, Kana Inagaki and Hudson Lockett

(2022年8月17日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

(c) The Financial Times Limited 2022. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.』

中国と加盟交渉開始 デジタル貿易協定DEPA参加3カ国

中国と加盟交渉開始 デジタル貿易協定DEPA参加3カ国
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM187DW0Y2A810C2000000/

『【シンガポール=中野貴司】デジタル貿易に関する協定「デジタル経済パートナーシップ協定(DEPA)」に参加するシンガポール、チリ、ニュージーランドの3カ国は18日、中国と加盟に向けた交渉を始めると発表した。DEPAは人工知能(AI)やビッグデータなど先端分野の標準的なルール形成を目指しており、加盟が承認されれば中国のデジタル貿易分野での影響力が強まることになる。

中国は2021年11月にDEPAへの加盟を申請しており、3カ国は18日、中国と交渉にあたる作業部会の設置を発表した。作業部会の議長国を務めるチリを中心に3カ国は今後、中国の国内法や規制がDEPAのルールと整合的かどうかを審査する。

個人データ保護や国境を越えるデータの扱いなどの分野で、中国がDEPAの基準を満たせるかが焦点となる。シンガポールのガン・キムヨン貿易産業相は18日の声明で「シンガポールは中国の加盟申請を歓迎しており、作業部会の設置は喜ばしいことだ」と述べた。

DEPAの参加3カ国は、ブルネイと共に環太平洋経済連携協定(TPP)の原型をつくった実績があり、DEPAはアジア太平洋地域のデジタル貿易の標準ルールに育つ可能性がある。電子商取引などデジタル経済の市場規模は拡大し続けており、中国は加盟によって域内貿易での存在感を一段と高めたい考えだ。中国はTPPにも加盟申請している。

20年6月に3カ国が署名したDEPAには韓国も加盟申請しており、既に3カ国と参加に向けた交渉に入っている。』

中国、対アフリカ巨額融資を見直し 一帯一路が曲がり角

中国、対アフリカ巨額融資を見直し 一帯一路が曲がり角
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR114BE0R10C22A8000000/

『【カイロ=久門武史、北京=川手伊織】中国が、アフリカのインフラ整備に向けた巨額融資が軸の経済協力の見直しに着手した。官民協力で高速道路を建設し、債務再編の交渉に応じる。成長鈍化で「大盤振る舞い」が難しくなり、融資先の「焦げ付きリスク」も警戒する。返済能力を超える貸し付けを巡る国際社会の批判をかわす狙いもある。中国が主導する広域経済圏構想「一帯一路」は曲がり角を迎えた。

ケニアの首都ナイロビで7月末、中心部と空港を結ぶ27キロメートルのナイロビ高速道路が中国の支援で開業した。総工費700億シリング(約790億円)といわれる大型投資で「高速道路ができる前は空港まで渋滞で2時間かかったが、いまは20分。待ち時間が短くなり、稼ぎはよくなった」とタクシー運転手のダンソンさん(53)は歓迎する。

建設資金は中国国有の道路建設大手、中国路橋工程(CRBC)が提供した。以前のように建設費を貸し付けるのでなく、CRBC側が道路運営会社を通じて27年間、通行料を徴収してからケニア政府に引き渡す、広い意味での官民パートナーシップ(PPP)方式で整備した。

この方式にしたのは数年前だとみられるが、中国とケニアの両国に利点があると、道路運営会社のサンディ・フェン氏は強調する。「ケニア側は高速道路と運営ノウハウを手に入れ、中国は通行料で建設資金を回収できる」というわけだ。

アフリカは「一帯一路」の途上にある。中国は、高い経済成長に必要なエネルギーや鉱物資源の供給地としてアフリカを重視し、国有の銀行や企業を通じた巨額融資で道路、鉄道、港の建設を助けた。主に先進国が資金を拠出する国際金融機関は融資の条件として環境保全、人権尊重を厳しく求めるが、中国の2国間融資が求める要件は比較的緩い。工期は短く、アフリカの指導者は中国を歓迎した。

中国は多くのアフリカ諸国に対して最大の債権国になったが、2016年をピークに融資は減少傾向をたどる。米ボストン大のグローバル開発政策センターによると、中国の対アフリカ融資は20年が計19億ドル(約2600億円)で、前年より77%減った。

中国が「焦げ付きリスク」を警戒し、アフリカ側の返済能力を慎重に見極め始めたというのが同センターの見立てだ。

アフリカ諸国の財政は新型コロナウイルスの感染拡大で悪化している。国際通貨基金(IMF)によると、サハラ砂漠以南の国の約6割が債務危機の状態にあるか、そのリスクが高い。中国は21年に開いたアフリカ側との国際会議、第8回中国アフリカ協力フォーラムで「融資の革新的な手法」の模索を打ち出し、支援の見直しを示唆した。

中国は国内総生産(GDP)で米国に次ぐ世界第2の経済大国になったが、成長率は次第に鈍化。19年までは資金流出も続いた。無計画に「チャイナマネー」の力を見せつける余裕はなくなった。

中国は7月末、ザンビアに対しフランスなどほかの債権国とともに債務再編の交渉開始で合意した。中国はこれまで融資先と「一対一」の交渉を好むとされていたが、外国と足並みをそろえた債務減免が実現する可能性がある。

ザンビアの対外債務残高は21年末時点で約170億ドルで、このうち対中債務は60億ドルとの報道がある。中国共産党の関係者は「外交関係が良好な債務国に対しては債務再編の交渉に応じる余地はある」と語る。

中国の対アフリカ融資には汚職の疑惑がつきまとう。アフリカ諸国の中で対中債務残高が最も多いアンゴラは、ドスサントス前政権が中国企業を優遇したとされる。

中国が、返済に窮した融資先から建設した港や道路の運営権を奪う「債務のわな」を仕掛けているとの非難も根強い。中国はこれを米欧の「冷戦思考に基づく偏見だ」と否定してみせる。だが、一定の配慮を示している可能性はある。

中国の経済支援の修正が「本物」ならば、なお若年人口が多く、生産拠点や市場として成長が見込めるアフリカを巡る各国の競争にも影響を与えそうだ。

アフリカ諸国に対しては旧宗主国の英国が東側、フランスが西側に大きな影響力を維持してきた。旧英領のインドは東アフリカに商業ネットワークを広げる。最近ではトルコが建設業を中心に浸透し、ロシアも原子力協力や兵器輸出で影響力を強める。

50カ国を超えるアフリカ諸国は国連でも大きな勢力だ。米国のバイデン政権は8日、サハラ砂漠以南を対象に、食料やインフラに関わる支援を打ち出した。日本は世界銀行などとともに8月下旬、アフリカ各国の首脳を招く第8回アフリカ開発会議(TICAD8)をチュニジアで開く予定だ。』

世界銀行副総裁「債務膨張、東アジア最大のリスクに」

世界銀行副総裁「債務膨張、東アジア最大のリスクに」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB16CBH0W2A810C2000000/

 ※ 『――中国では不動産市場を巡る混迷が深まっています。政府は銀行への資本増強を通じて金融危機の発生を未然に防ごうとしていますが、ソフトランディングは可能でしょうか。

「この問題は非常にデリケートだ。私たちの情報も完全と呼ぶにはほど遠いし、実際のところ、誰も完全な情報を持ち合わせていないだろう。中国だけでなく東アジア・太平洋地域全体ではコロナ禍で緩和的な金融環境を続けてきた。バランスシートの膨張が進めば銀行などの金融部門に打撃を与えうる。将来的に経済にとって重荷となるだけでなく、(リーマン・ショックのような)新たな危機の火種となる可能性がある。どのような未来が待ち受けているか、来年か数年のうちに明らかになるだろう」』…。

 ※ そういう中で、みんな「おっかなびっくり」「手探りで」進んで行くわけだ…。

 ※ 中国経済だけでなく、米国経済だって、「インフレ対策の金融引き締め」が、うまいことソフトランディングするのか、確信持ってる人なんか、いるわけが無い…。

『新型コロナウイルス禍による経済収縮や歴史的なインフレ、それに伴う米利上げが世界を揺るがしている。人口増加を追い風にアジアでは高い経済成長が続いたが、中国など成長に陰りが出る国も顕在化してきた。世界銀行副総裁で東アジア・太平洋地域を統括するマヌエラ・フェッロ氏にアジア経済の展望を聞いた。(聞き手は三島大地)

――世界銀行は東アジア・太平洋地域の経済成長率が当面5%前後を維持するとの見通しを示しています。コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻など逆風が吹いていますが、この地域の経済環境をどのように見通しますか。

「中国の成長鈍化を起因として経済成長は大幅に減速するだろう。ロシアやウクライナとの貿易上のつながりは直接的には限られているが、資源や食料、エネルギー価格の上昇の影響は等しく及んでいる。東アジア・太平洋地域が世界の成長のエンジンであることに変わりはないが、インフレやそれに伴う中央銀行の対応が先行きへの不確実性やダウンサイドリスクをもたらしている」

――ウクライナ危機に端を発した資源価格の上昇で、世界はインフレ圧力にさらされています。経済の失速が明らかになれば、東アジア・太平洋地域でも物価上昇と景気後退が同時に進むスタグフレーションのリスクが顕在化するのではないですか。

「収入源を観光業に依存し、産業の多様性に乏しい国では経済が大きな打撃を受けている。供給制約の問題も生じており、この地域で強い逆風が吹いているのは事実だ。しかし長期的な目線に立てば、商品の生産や輸出を担う東アジアの国々では経済が回復基調にある。経済のショックに見舞われることなく、ウクライナ危機が長期化を免れることができれば、東アジア・太平洋地域の成長率は5%に戻るとみる。現時点ではこの地域がスタグフレーションに陥るという確証は持ち合わせていない」

――ウクライナ危機を契機に主要7カ国(G7)が民主主義の旗の下で結束を深める一方、東アジア諸国は経済的合理性を踏まえ、中国などの専制主義国家と近い距離を保つ国も少なくありません。国際的なデカップリング(分断)が進む中で、東アジア・太平洋諸国はどのように振る舞うべきだと考えますか。

「まず、現時点でデカップリングが生じているとは考えていない。我々は過去数十年にわたり、効率的な経済と国際貿易によって利益を得てきた。特に新興国では貧困の削減や経済的な繁栄に大きく貢献したという明確な事実がある」

「世界が分断に進んだ場合、経済的な観点に立つと、おそらく誰にとっても利益をもたらすことにはならないだろう。原材料やエネルギーの供給源を多様化させるなど、何らかの形で経済的なヘッジを行うことは否定しないが、もし完全な分断に至れば、世界経済が非効率的な状況に陥るのは明白だ。ロビンソン・クルーソーのような経済に移行することは誰も望んでいないだろう」

――米連邦準備理事会(FRB)は利上げと量的引き締めに着手しています。引き締めのペースは従来予想されたものよりもずっと速くなっています。FRBの金融引き締めは東アジア経済にどのような影響を与えると考えますか。

「東アジア・太平洋地域は従来、財政・金融政策について保守的な地域だったといえる。だが、こうした国もコロナ禍では前例にとらわれず、政策手段を総動員してきた。すべての国が経済を下支えし、失業者を守ろうと努めてきた。米国の利上げそのものは予想されていたことで、大きなサプライズはない。重要なのはコロナ禍以降の危機対応からいかに正常化を進めていくかということだ」

マヌエラ・フェッロ世界銀行副総裁はインフレや、中央銀行の利上げが経済を冷やすリスクを指摘する

――米利上げに伴い、新興国から資本が流出するリスクがあります。既にスリランカでは、主力の観光業がコロナ禍で打撃を受けたさなかに米利上げ観測が高まり、1948年の独立以来のデフォルト(債務不履行)状態に陥りました。

「最大のリスクは過去数年でこの地域の債務が増加したことだ。債務が膨らんだ国の中には、太平洋の島しょ国のように債務の返済能力が高くない国も含まれる。こうした国は観光産業が中心で、コロナ禍に加え、自然災害など他の危機に見舞われるリスクもくすぶる。スリランカの他にも、ラオスなど東南アジアのなかでも大きな負債を抱えている国がある」

「世界銀行としては、契約や条件など債務の透明性を高めることに積極的に取り組んできた。債務残高を見ることは大きな絵の一部を見ることでしかない。貸し付けの条件や返済期限の長さによって、支払い能力や返済までの期間にどれだけの重荷を解消しないといけないのかを見極められる。我々が全ての問題に対処できると言うつもりはないが、常に最善を尽くしている」

――中国では不動産市場を巡る混迷が深まっています。政府は銀行への資本増強を通じて金融危機の発生を未然に防ごうとしていますが、ソフトランディングは可能でしょうか。
「この問題は非常にデリケートだ。私たちの情報も完全と呼ぶにはほど遠いし、実際のところ、誰も完全な情報を持ち合わせていないだろう。中国だけでなく東アジア・太平洋地域全体ではコロナ禍で緩和的な金融環境を続けてきた。バランスシートの膨張が進めば銀行などの金融部門に打撃を与えうる。将来的に経済にとって重荷となるだけでなく、(リーマン・ショックのような)新たな危機の火種となる可能性がある。どのような未来が待ち受けているか、来年か数年のうちに明らかになるだろう」

――ウクライナ危機や緊張感が高まる台湾情勢など、専制主義国家による脅威が増すなかで、多国間主義の重要性が増しています。世界銀行は第2次世界大戦後、国際通貨基金(IMF)などとブレトンウッズ体制を築き、世界経済の発展に寄与してきました。

「各国が協力しなければ、世界は非常に近視眼的な状況に陥るだろう。世界の国々が協調している時代には自然と協調関係が築かれるから、(世界銀行やIMFのような)多国間主義に立脚した組織の重要性が認識されることはそれほどない。だが現状は、こうした組織の重要性がかつてないほどに高まっていると感じる。より多くの国々が国際協調の手段を維持することに価値を見いだしてくれると望んでいる」

Manuela V. Ferro 米スタンフォード大で博士号(応用経済学)取得後、1994年世界銀行入行。ラテンアメリカ・カリブ海地域担当戦略・業務局長や業務政策・被援助国サービス(企画担当)副総裁を経て、21年9月から現職。ポルトガル出身。

多様な観点からニュースを考える

※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

白井さゆりのアバター
白井さゆり
慶應義塾大学総合政策学部 教授
コメントメニュー

ひとこと解説

中国では、長く不動産業界を支えてきた住宅価格上昇とレバレッジの拡大、地方政府の税収増加という連関を一変させており、住宅建設が未完成のままになる物件も増えており住宅所有者が住むことができない事態に陥っている。住宅バブルとレバレッジの抑制を目指して2020年に導入にした金融規制だったが、住宅問題で消費者の不満も高まっており、今年後半にあまり景気が持ち直さない可能性がある。中国経済の減速が世界のコモディティ価格の最近の下落傾向に影響しているようにみえる。ディカップリングについてはまだ起きていないが、西側による半導体製造を自国・地域で拡大する動きがようやく始まったところで影響がでるには時間がかかる。
2022年8月18日 20:18 』

中国計画停電、日本企業に影 トヨタなどの工場休止

中国計画停電、日本企業に影 トヨタなどの工場休止
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC1822L0Y2A810C2000000/

『猛暑による電力需要の急増で中国の現地政府が計画停電を実施し、進出する日本企業が相次ぎ工場の稼働を停止している。内陸部の四川省成都市でトヨタ自動車が完成車生産を止めたほか、重慶市ではパナソニックやデンソーも工場の稼働を休止した。小売業も時短営業や照明を落とすなど節電対応に追われた。

重慶市は15~24日まで、成都市は15~20日までの稼働停止を企業に命じた。工場が立地する場所や取引先によって計画停電の内容は異なるが、中国に進出する日系企業が対応に追われている。トヨタ自動車は成都にある中国企業との合弁工場で主力セダンなどを生産しているが、地元当局の要請を受けて15日から稼働を止めた。

自動車やパソコンなどの工場が集積する重慶でも同様の動きが相次いでいる。パナソニックは17日から部材工場の稼働を休止した。再開時期などについては「今後も当局の指示に従っていく」(同社)とする。デンソーは15日から、一部の部品工場で生産を休止した。顧客への供給は続ける。「供給先の稼働状況などを踏まえて再開時期を検討したい」(同社)という。

汎用エンジンなどを生産する工場を持つホンダは21日まで夏季休暇で稼働休止を予定するが、同日以降は「政府指示や電力状況を踏まえて判断する」と停止継続も視野に入れる。

メーカー以外にも影響が広がる。セブン&アイ・ホールディングス傘下のイトーヨーカ堂は、節電要請を受け成都の店舗で店内照明を通常の3分の1にしたり、エアコンの設定温度を26度から28度に変更したりするなどの対応に追われた。市中心部に近い店には一段の節電要請が出ており追加対応も検討中だ。
成都市内のイトーヨーカドーは照明を落とすなど節電をして営業している

三越伊勢丹ホールディングス出資の台湾合弁会社などが運営する商業施設「新光天地」は18日から、重慶店と成都店で通常は午前10時の開店時間を1時間遅らせ、閉店時間も通常の午後10時から30分~1時間早める時短営業に踏み切った。

四川省と重慶に約700店あるローソンは、冷房を夏期は通常25度設定を推奨しているのを、節電要請を受け26度以上に変更した。

中国では最高気温がセ氏40度を超える日も目立つなど猛暑が続く。エアコンの利用などが増え電力不足に陥るリスクも高まっている。四川省などの現地当局は家庭用電力を確保するため管轄内の工場に生産の一時休止を要請した。

現状では8月下旬には製造業の生産活動が再開する見込みだ。米コンサルティング大手、アリックスパートナーズの鈴木智之マネージングディレクターは「都市封鎖(ロックダウン)と異なり、1週間程度の生産停止であれば大きな影響は出ないだろう」とみる。自動車産業を中心にした供給網の混乱を受け、各社が在庫の積み増しなどで備えているためだ。

一方で、「長期化すればリスクは高まる」とも指摘し、頻繁に起こる中国での電力制限への懸念も示す。

(四川省成都=多部田俊輔、湯前宗太郎、吉田啓悟)

【関連記事】

・中国・重慶でも工場停止 猛暑の計画停電で影響拡大
・中国内陸部、猛暑で計画停電 トヨタやApple受託工場
・中国の景気減速、世界に影 「流動性の罠」にはまったか

ニューズレター
多様な観点からニュースを考える

※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

青山瑠妙のアバター
青山瑠妙
早稲田大学大学院アジア太平洋研究科 教授
コメントメニュー

ひとこと解説

今年の猛暑で四川省と重慶の電力不足が日系企業を含め社会経済活動に大きな支障をもたらしている。こうした中で高まっているのは内陸部での原発建設の議論。四川省は地震の発生しやすい地域とも言われている。電力需給逼迫で原子力発電所の建設が加速されるのか。中国に近い日本としても関心を持って注視していくべき問題だ。
2022年8月19日 7:26
柯 隆のアバター
柯 隆
東京財団政策研究所 主席研究員
コメントメニュー

ひとこと解説

中国では、もともと気温が37度に達すると、工場が生産停止になる決まりがあった。気象台は気温が37度に達しても、37度と発表したがらない。しかし、今年は40度を超える日があって、正しい気温を発表するしかない。一方、電源構成はベースロードの発電所が多い。高温になると、ピークロードの電力供給が足りなくなる。産業用電力を停止することは正しい選択。生活用電力を停電すると、命を落とす人が出てくる。電力供給のベストミックスを再認識する必要がある。日本にとって対岸の火事ではないはずである
2022年8月19日 7:57 』

親ロのハンガリーも物価高、インフレ対策に抗議広がる

親ロのハンガリーも物価高、インフレ対策に抗議広がる
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR17CUO0X10C22A8000000/

『【ウィーン=細川倫太郎】中欧ハンガリーでオルバン政権が導入した森林保護の規制緩和に抗議するデモが断続的に起きている。燃料のまきを確保するために導入した措置だが、環境問題に敏感な国民からの反発がとまらない。親密な関係のロシアから天然ガスの供給を受け続けてはいるが、エネルギー価格の上昇に悩まされている。

ハンガリーメディアによると、17日に首都ブダペストなど複数の都市でデモがあった。12日に続いて2回目で、ブダペストでは数百人以上が参加し「環境破壊を引き起こす」などと声をあげた。世界自然保護基金(WWF)は同国の規制緩和が野生生物など「取り返しのつかない喪失につながる恐れがある」と非難している。

ハンガリー政府は8月上旬、暖房用の需要が高まる冬に備えてまきの供給を増やすため、森林伐採の制限を緩和する措置を承認した。同国のオルバン首相は強権的な政治手法をとるリーダーとして知られる。ロイター通信によると、1回目のデモの後に政府は内容を一部変更して火消しに動いたが、環境活動家らの怒りは収まっていない。

4月の議会選でオルバン氏が率いる与党は圧勝したものの、物価高に直面する国民の不満は高まる一方だ。同国の7月のインフレ率は13.7%と24年ぶりの高水準を記録した。通貨フォリント安の影響などから輸入コストが押し上げられ、ガスや電気、食料品価格の上昇を招いている。政府は光熱費補助などの対応をしてきたが、予算の限度もあって補助を縮小せざるを得ない状況だ。

ハンガリーは欧州連合(EU)に加盟しているが、オルバン氏はロシアのプーチン大統領とは親密な関係で、ウクライナ侵攻に伴うEUの対ロシア制裁には反対の立場だ。ロシア国営ガスプロムがEU加盟国へのガス供給の削減や停止に踏み切るなか、ハンガリーには輸送を続けている。ハンガリーは天然ガスの8割超をロシア産に依存する。

ただ、EUとロシアの対立が深まるなかで、ロシアからエネルギーを継続的に安定確保できるかは不透明だ。ハンガリーは7月に非常事態宣言を発令し、燃料の輸出禁止や、国内でのガス生産量の拡大を決めた。』

[FT・Lex]干ばつの中国、石炭火力発電に回帰

[FT・Lex]干ばつの中国、石炭火力発電に回帰
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB18D140Y2A810C2000000/

 ※ 中国でも、「渇水」で水力発電がダウンか…。

 ※ 「再生可能発電」は、気候変動に全く脆弱だな…。

 ※ あと、残るは「地熱発電」か…。

 ※ それですら、「国立公園」内で開発に制限とか、「景勝地」で観光資源なのにそれが棄損しないかとか、問題山積だ…。

 ※ 建設費とか、補償の問題とか、巨額の資金の捻出という問題もある…。

 ※ そもそもが、「気候変動対策」なのに、その「気候変動」に見舞われて「石炭火力に回帰」とか、大矛盾だ…。

 ※ しかし、この世の全てのことは、そういうものだ…。

『中国の大河、長江(揚子江)の水位は今週、過去最低の水準に下がった。中国南部は7月から長江周辺の気温が40度を超え、干ばつに見舞われている。これは中国の水力発電にとって問題だ。石炭火力発電に回帰すれば、炭素排出を増やすことになる。
水位の下がった長江で遊ぶ住民ら(16日、中国南西部)=AP

世界の大河は、数千年にわたり商業と文化の大動脈だった。この夏、そのうちのいくつかで問題が生じた。ライン川、ドナウ川、ポー川、コロラド川の水位が異例の低さになっているのだ。

その影響は、物流ルートの混乱から農作物の不作まで多岐にわたる。中国の一部では水力発電所が十分な水量を確保できず、エネルギー供給が不安定になている。主要な三峡ダムから流れ出る川の水位は平年の半分の低さになっている。

トヨタ自動車、台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業傘下の富士康科技集団(フォックスコン)、中国の車載電池メーカーの寧徳時代新能源科技(CATL)などが今週、電力危機の影響で工場を閉鎖した。

四川省をはじめとする中国の重要な省は7年以上前、主要な電源を水力発電に切り替えた。当時、中国政府は再生可能エネルギーの利用を積極的に推進していた。

友好的な政策と寛大な補助金によって、中国長江電力などの電力会社は市場シェアを急速に伸ばしてきた。営業利益率は10年以上にわたり、50%を超える。中国三峡新能源は中国長江三峡集団を親会社に持つ、同水準の利益率を誇る。

利益は垂涎の的だが、三峡新能源の株価は今年に入ってから15%下落した。予想PER(株価収益率)は20倍で、1年前の半分の水準に下がった。石炭使用の削減と再生可能エネルギーの発電容量を増やすことを義務づける厳しい政策は、中国の成長の失速に伴い、緩和されてきた。

中国では深刻な干ばつが頻繁に起こるようになった。昨年の夏、水力発電の中心の雲南省は極端な水不足に襲われ、相次ぐ停電で何カ月も工場の操業が混乱した。

今回の中国南部の熱波は、さらに2週間続くと予想される。記録をとり始めてから最長になりそうだ。この地域の降雨量は8月の平均の3分の1程度だ。

中国政府は、再生可能エネルギーの推進よりも成長の維持を優先するようになった。石炭火力発電所の1日の平均(石炭)消費量は8月の最初の2週間で8160万トンとなり、前年同期より15%増えた。

干ばつが続くと、信頼できるエネルギー源としての水力発電の地位が低下する。皮肉なことに、すでに気候変動の大きな要因になっている中国の炭素排出が一段と増えることになる。

(2022年8月17日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

(c) The Financial Times Limited 2022. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.』

米民主党に夏の追い風 「嫌トランプ」結集に潜むリスク

米民主党に夏の追い風 「嫌トランプ」結集に潜むリスク
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN17DD80X10C22A8000000/

『米国で11月の中間選挙が近づき、悲願の気候変動対策や企業増税を盛った歳出・歳入法を実現した民主党に夏の追い風が吹いた。足元で民主党の支持率は共和党をわずかに上回る。ただ民主党の選挙戦術の基本はトランプ前大統領への嫌悪を呼び起こすことにある。「嫌トランプ」結集への賭けは、かえって敵の戦意をあおるリスクをはらむ。

「ドナルド・トランプが二度と大統領執務室に近づかないよう、何でもする」。16日の全米ニュースの主役は、共和党予備選で敗れたリズ・チェイニー下院議員だった。

最前線でトランプ氏を批判してきた同氏はトランプ氏が支援する候補に大敗した。同じ日にバイデン大統領が署名して成立した歳出・歳入法の成果はかすみ、米国の政治状況が「トランプ氏は是か非か」の争点を軸に回っていることを改めて印象づけた。

米世論調査サイト「ファイブサーティーエイト」が集計した議会選挙での政党支持率によると、17日時点で民主党(43.9%)は共和党(43.4%)を0.5ポイント上回った。約2カ月前までは共和党の支持率が2.5ポイント以上、民主党より高かった。中絶問題への危機感や一服したガソリン高。民主党への追い風となる要素が夏に集中した。

だがバイデン大統領の支持率はやや上向いたとはいえ40%ほど。しかも米国人の8割超は米国が間違った方向に進んでいると感じている。有権者は中間選挙で政権与党に不満をぶつけがちだ。民主党が連邦議会下院で多数派の地位を失う可能性は高く、上院で少数派転落を回避できるかどうかが問われる構図は変わらない。

いかに議席減少を食い止めるか。民主党は戦術の基本に「嫌トランプ」の結集を据える。「保守すぎる!」。民主党が広告主となるテレビCMの常とう句だ。

民主党のJ・B・プリツカー氏が現職知事を務めるイリノイ州。民主党は共和党予備選をめぐり、トランプ氏が支持する知事選候補ダレン・ベイリー氏を「銃保有者と胎児のために戦う」と宣伝。同時に、共和党内で有力視されていた同州オーロラ市長のリチャード・アービン氏を「犯罪に強いふりをするな」と攻撃するCMを投入した。

狙いは11月の本選で強敵とぶつかる可能性を潰すこと。プリツカー氏にとって黒人で法律家出身のアービン氏のほうが手ごわい。一方、ベイリー氏はトランプ主義者の固い支持が期待できる半面、本選となれば「嫌トランプ」の穏健な保守層や無党派層が離れる可能性がある。民主党の思惑通り、ベイリー氏は予備選を勝ち残った。

米紙報道によると、イリノイ、メリーランドなど5州だけで民主党と関連団体はトランプ派候補を推す宣伝戦に4400万ドル(約60億円)を投じた。民主党はミシガン州でも下院第3選挙区の共和党予備選でトランプ派候補を宣伝。その結果、現職でトランプ氏の弾劾に賛成した10人の共和党議員の一人、ピーター・マイヤー氏は敗退した。

「嫌トランプ」の結集は奏功するのか。民主党がトランプ主義者を後押しする偽善への批判はくすぶる。さらに影を落とすのはトランプ氏の存在そのものだ。

トランプ氏が米連邦捜査局(FBI)による自邸への家宅捜索を公表すると、保守層は一斉に「政権による政敵に対する連邦機関の武器化」(フロリダ州のロン・デサンティス知事)と非難した。FBIの捜索によって共和党支持層の8割超が11月の中間選挙で投票に行く意欲が高まったと答えた調査もある。

2016年2月、同年の大統領選でトランプ氏をくみしやすい敵とみたリベラル派の評論家は「共和党によるトランプ氏の候補指名を支持すべきだ」との論陣を張った。結果はトランプ大統領の誕生。11月の風向きはまだ見通せない。

(ワシントン支局長 大越匡洋)

【関連記事】

・米共和党チェイニー氏、2024年大統領選出馬を検討
・米共和チェイニー氏、予備選大敗 反トランプ派苦境鮮明
・[FT]トランプ氏起訴、課題山積 法か分断回避 難しい判断

米中Round Trip https://regist.nikkei.com/ds/setup/briefing.do?me=B001&n_cid=DSREA_roundtrip

多様な観点からニュースを考える

※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

菅野幹雄のアバター
菅野幹雄
日本経済新聞社 上級論説委員/編集委員
コメントメニュー

分析・考察

米民主党には追い風と逆風が同時に吹き始めた感があります。民主党支持者のトランプ氏に対する怨念と、トランプ・共和党支持者の民主党に対する怨念。前者は2020年の米大統領選挙でバイデン大統領が勝利する原動力でした。様々な路線転換を掲げたバイデン氏ですが、支持率低迷の末に結局は「トランプ憎し」の力に頼らざるを得ないということでしょうか。
とはいえ、中間選挙はトランプ氏の信任投票でなく、現職のバイデン氏に対する審判です。「バイデン氏は頼りないが、トランプ氏もちょっと……」と考える層は少なからずいると思いますが、それが共和党の支持票を減らす力とはなりにくい。民主党の苦戦の構図は変わらないと思います。
2022年8月18日 7:39 (2022年8月18日 7:55更新) 』

沖縄 宜野湾で保育園児に車衝突 園児7人 病院に搬送

沖縄 宜野湾で保育園児に車衝突 園児7人 病院に搬送
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220819/k10013778371000.html

『19日午前、沖縄県宜野湾市の横断歩道で、保育園児が乗った手押しのカートに軽乗用車が突っ込み、園児7人が病院に搬送されました。
警察によりますと、現時点で重傷の園児はいないということです。警察は軽乗用車の運転手を逮捕し当時の状況を詳しく調べています。

19日午前9時20分ごろ、宜野湾市伊佐の横断歩道で保育園児を乗せた散歩用の手押しのカートが横断中、走ってきた軽乗用車に衝突され、園児7人が病院に搬送されました。

消防によりますと、搬送時、いずれも意識はあったということで、警察によりますと切り傷などを負った園児はいるものの、現時点で重傷者はいないということです。

警察は軽乗用車を運転していた中城村の池原優香容疑者(21)を過失運転傷害の疑いでその場で逮捕し、当時の状況を詳しく調べています。

現場は国道58号線のバイパスから入った場所で、住宅や店舗が建ち並ぶ地域です。

伊佐区の自治会長の安良城かつみさんはNHKの取材に対し「救急車の音が聞こえたあと、事故を見ていた方が公民館にAEDを取りに来て、事故のことを知って現場に駆けつけた。散歩中だった保育園児のグループに車が突っ込んできたと聞いた。現場には搬送されなかった園児が4人ほどいて呆然とした様子だった」と話していました。』

スマホ決済「d払い」一部端末で使いづらい状態 NTTドコモ

スマホ決済「d払い」一部端末で使いづらい状態 NTTドコモ
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220819/k10013778501000.html

『NTTドコモによりますと、スマホ決済のサービス、「d払い」で、19日午前10時すぎから一部の端末で利用しづらい状態になっているということです。

復旧の見込みはたっていないということで、現在、会社が影響の広がりや原因を調べています。

「d払い」の利用者は4500万人余りで、NTTドコモでは「お客様にご迷惑をおかけして申し訳ありません。復旧まで今しばらくお待ちいただきたい」とコメントしています。』

拠出総額約3兆6600億円: 対中国ODA 42年の歴史に幕

拠出総額約3兆6600億円: 対中国ODA 42年の歴史に幕
https://www.nippon.com/ja/in-depth/d00828/

『 1979年から始まった中国への政府開発援助(ODA)は2022年3月で終了した。42年の長きにわたって続けられたODAはどのように拠出され、どう活用されたのか。その歴史と意義について総括する。
他の言語で読む

English 日本語 简体字 繁體字 Français Español العربية Русский 

ODAは事実上の戦後賠償

日本が中国に対して行なっていたODAが2022年3月末、42年間の歴史に幕を下ろした。ODAは中国の経済発展を支えて日中の結びつきを強めた半面、援助を続ける必要性や中国政府が国民への周知を怠っていることなどを巡って批判も受けてきた。

外務省国際協力局と国際協力機構(JICA)によると、42年間で、日本が低金利で長期に資金を貸す「円借款」が約3兆3165億円、無償でお金を供与する「無償資金協力」は約1576億円。このほか日本語教師派遣などの「技術協力」約1858億円を合わせて拠出した総額は、約3兆6600億円にのぼる。円借款については、中国から予定通りに利子を含めて返済されており、最後の返済期限は2047年という。

対中ODAが始まったのは1979年。同年9月に訪日した谷牧副総理が日本政府に対し、8件のプロジェクトからなる総額 55.4億ドルの円借款を要請。日本は中国が78年に改革開放政策に踏み切ったことを踏まえ、79年12月に大平正芳首相が訪中し、「より豊かな中国の出現がよりよき世界につながる」と述べ、79年度から支援を開始。これが中国に対して西側から初めて供与されるODAとなった。

北京空港で出迎えの華国鋒・中国首相(右)と握手する大平正芳首相(中国・北京)1979年12月5日(時事)
北京空港で出迎えの華国鋒・中国首相(右)と握手する大平正芳首相(中国・北京)1979年12月5日(時事)

日本が踏み切った背景には、中国が戦後賠償を放棄した「見返り」との性質もあったとされる。大平元首相の孫で、一般社団法人日中健康産業振興協会副会長の森田光一氏によると、首相は当時、娘婿で元運輸大臣の森田一氏(光一氏の父)に「対中ODAには戦争の償いという意味合いがあり、中国が戦後賠償を放棄する代わりに日本が経済援助をするものである。ただし、いずれ中国は経済大国となり、日本を凌駕(りょうが)するだろう。そうなれば日中外交は相当難しくなる。日本はその覚悟を持って支援しなければならない」と話していたという。

日本政府が単なる途上国援助ではなく、事実上の戦後賠償と位置づけ、改革開放政策の後押しが、アジアひいては世界の安定につながると考えていたことがうかがえる。

大平元首相の予言どおり、中国は飛躍的な成長を遂げ、2010年には国内総生産(GDP)で日本を抜いて世界第2位の経済大国となった。さらにアフリカなどに戦略的な開発援助を始め、右肩上がりで軍拡を進めるなど、軍事大国の道も歩み続けている。日本政府が発展途上国を脱した中国に「(途上国支援の)一定の役割を終えた」として無償資金協力に終止符を打つのは06年。07年には円借款を打ち切った。

しかし、それ以降も技術協力は続けた。21世紀には日本への影響も懸念される大気汚染を中心とした越境公害や感染症、食品の安全など中国との協力の必要性が認められる事業や中国進出日本企業が円滑に活動するため中国の法律に関する事業などで支援が続けられた。
国際空港や総合病院建設にも貢献

援助の内容は、80年代初期は港湾や発電施設などインフラ支援が主で、90年代からは地下鉄建設や内陸部の貧困解消、環境対策など、時代が進むにつれて変わっていった。特に80年代には円借款による鉄道、空港、港湾、発電所、病院などの多くの大規模インフラが日本の支援で整備され、改革開放政策を支え、近代化に貢献。中国が経済成長し、世界第2の経済大国となる道筋をつけた。

84年、北京に建設された中日友好病院がその一つだ。81年から83年度まで無償資金協力として約165億円が投じられ、最新の医療器材が導入され、81年から92年、94年から95年まで医師、看護師、臨床技師らへ医療技術を移転し、医療サービスも日本式となる近代的総合病院を建設した。03年の重症急性呼吸器症候群(SARS)発生時には、重症患者受け入れ指定病院となり、08年の北京五輪では政府公認の指定病院となるなど中国を代表する総合病院となった。

医療サービスも日本式を導入した近代的総合病院として1984年、北京に建設された中日友好病院(左)。2003年、広東省を起源とする重症急性呼吸器症候群(SARS)の感染が流行した際、同病院内の集中治療室(ICU)での防護服の使用法を指導する日本人専門家(右端) 提供:JICA
医療サービスも日本式を導入した近代的総合病院として1984年、北京に建設された中日友好病院(左)。2003年、広東省を起源とする重症急性呼吸器症候群(SARS)の感染が流行した際、同病院内の集中治療室(ICU)での防護服の使用法を指導する日本人専門家(右端) 提供:JICA

90年代には、新たな開発課題として北京国際空港を整備した。93、95、96年に300億円の円借款を投じて国際線、国内線用の旅客ターミナルビル、貨物ターミナルビルを新設し、旅客処理能力が300万人から3600万人となり、世界有数の国際空港に生まれ変わった。

90年代に空の玄関として整備された北京国際空港 提供:JICA

また、感染症対策として世界保健機関(WHO)が定めた「西太平洋地域(日本や中国、フィリピンを含むアジア太平洋の37の国と地域)」におけるポリオ(急性灰白髄炎・小児麻痺)の撲滅にも日本のODAは寄与している。この西太平洋地域におけるポリオの患者総数の実に85%を中国が占めた時期があったが、90年から日本が技術協力を行ない、93年から無償資金協力など7億円が供与されたことで、中国はもちろん、西太平洋地域全域でポリオは撲滅された。

2000年代には、日本の技術による内陸部の社会開発支援として重慶のモノレール建設がある。93年に技術協力として山が多く起伏の激しい重慶市の公共交通機関としてモノレールを提案。01年に271億1千万円の円借款を供与して日立製作所が市中心部約13.5キロにモノレールを完成させ、交通渋滞と大気汚染が著しく改善された。

2001年に重慶市の公共交通機関として日本の技術で建設されたモノレール 提供:JICA

2001年に重慶市の公共交通機関として日本の技術で建設されたモノレール 提供:JICA
同上 提供:JICA

21世紀の技術協力に、国境を越えて飛来する微小粒子物質PM2.5の大気汚染問題がある。12年から16年に汚染排出源の中国の鉄鋼業3社に対して、日本企業が日本の計測器を使用した大気中の窒素酸化物を総量規制する改善法を指導、実現した。

また、86年から2015年度末までに中国全32州に医療・保健、農業などで約830人のボランティアを派遣、草の根レベルで技術協力事業などを進め、相互理解も進んだ。

しかしながら、支援で建設された施設のほとんどで日本側が働き掛けるまで中国政府は日本の支援について国民に周知していない。北京国際空港など一部では、日本の援助を示す銘板が掲示されているが、大部分で日本の表示がなく、「日本の貢献を知る中国の一般国民は少ない」。戦後賠償の代替と捉えた中国政府が「日本の支援は当然」と周知しなかったことが原因とされる。

北京国際空港に設置された日本の支援を示す銘板 提供:JICA

日本では、日本から援助を受けながら、その一方で他の途上国に戦略的な支援を行った中国に、「日本の支援が中国の市民に知られていない」との不満が高まった。日本のODAが改革開放政策を支え、中国の近代化に貢献したことを日中両国の国民が正しく理解しなければ、真の日中友好は生まれないとの懸念からだ。
安倍元首相の決断で歴史に幕

ズルズル続いた支援の終了を決断し、終止符を打ったのが安倍晋三元首相だった。2018年10月、公式訪中した安倍氏は、日中平和友好条約発効40周年行事で、「中国は世界第2位の経済大国に発展し、(ODAは)その歴史的使命を終えた」と述べ、18年度から始まる技術協力の新規案件を最後に終了する意向を伝えた。この18年度の案件が22年3月で終わり、対中ODAは完全に終了した。

安倍氏は、「新たな時代にふさわしい新たな次元の日中協力の在り方について大所高所から胸襟(きょうきん)を開いて議論したい」と未来志向を語り、日中関係安定化に意欲を示し、ODAに代わり、第三国での開発について中国と協議する「開発協力対話」の発足を目指すと述べた。第三国での開発協力は中国が提唱する経済圏構想「一帯一路」への協力にも映り、中国の李克強首相は、「日本の積極的な参加を歓迎する」と呼びかけた。

日本側は、「一帯一路ではなく、個々のプロジェクトで協力する」(外務省幹部)との立場を表明。安倍氏が掲げた「自由で開かれたインド太平洋戦略」と一帯一路は安全保障面で対抗する側面もあり、そのバランスを取る思惑から一帯一路への関与は否定した。

外務省国際協力局によると、習近平国家主席と首脳会談で次のようなやりとりがあった。

「安倍総理(当時)からは、対中ODAの新規供与終了を踏まえ、今後は開発分野における対話・人材交流や地球規模課題における協力を通じ、両国が肩を並べて地域・世界の安定と繁栄に貢献する時代を築いていきたい旨を述べました。これに対して、習主席からは、日本のODAによる貢献を高く評価する旨述べた上で、こうした協力について前向きな発言がありました」

習氏から日本のODAへの高い評価と前向きな発言を引き出したことは、安倍氏が対中外交で遺(のこ)した功績の一つと言っていい。だが、習氏の具体的文言はつまびらかにされていない。事実上の戦後賠償である日本のODAが中国の経済発展に貢献した事実を中国の国民が正しく理解しない限り、日中友好親善は実現できない。そのためにもいつか習氏の言葉も明らかにされることを願わずにはいられない。

バナー写真:日本の対中国ODAで整備された施設前で地元幹部(左)に感謝される丹羽宇一郎駐中国大使(当時)=2011年06月24日、中国新疆ウイグル自治区アトシュ市(時事)

この記事につけられたキーワード

中国 ODA 政府開発援助

岡部 伸OKABE Noburu 経歴・執筆一覧を見る

産経新聞論説委員。1981年立教大学社会学部卒業後、産経新聞社に入社。社会部記者として警視庁、国税庁など担当後、米デューク大学、コロンビア大学東アジア研究所に留学。外信部を経てモスクワ支局長、東京本社編集局編集委員、2015年12月から19年4月までロンドン支局長を務める。著書に『消えたヤルタ密約緊急電』(新潮選書/第22回山本七平賞)、『「諜報の神様」と呼ばれた男』(PHP研究所)、『イギリス解体、EU崩落、ロシア台頭』『新・日英同盟』(白秋社)『第二次大戦、諜報戦秘史』(PHP新書)など。』

G20「中ロ首脳参加」インドネシア大統領

G20「中ロ首脳参加」
インドネシア大統領
https://nordot.app/933190461906567168?c=302675738515047521

『【ジャカルタ共同】20カ国・地域(G20)議長国インドネシアのジョコ大統領は18日、インドネシア・バリ島で11月に開くG20首脳会議(サミット)に中国の習近平国家主席とロシアのプーチン大統領が対面で参加する予定だと語った。米ブルームバーグ通信とのインタビューで述べた。

 ウクライナ侵攻により、プーチン氏のサミット出席には欧米から反対論が出ている。ジョコ氏はインタビューで「大国間の対立は非常に心配だ。地域が平和で安定し、経済成長できることを望んでいる」と述べた。

 ブルームバーグによると、ジョコ氏は18日、プーチン氏と電話会談し、G20について協議した。』

横浜の山林で爆発音、送電設備トラブルか

横浜の山林で爆発音、送電設備トラブルか
https://nordot.app/933189925645287424?c=302675738515047521

『横浜市消防局によると19日午前10時5分ごろ、横浜市泉区の山林で「爆発音がした」と近隣住民から119番があった。神奈川県によると、送電設備のトラブルがあったとの情報があり、けが人は確認されていない。』

韓国の非核化提案は「愚か」北朝鮮、金与正氏が非難

韓国の非核化提案は「愚か」
北朝鮮、金与正氏が非難
https://nordot.app/933156515402285056?c=302675738515047521

『【北京共同】北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記の妹の金与正党副部長は18日に談話を発表し、北朝鮮が非核化交渉に応じれば初期段階から経済支援を提供する「大胆な構想」を韓国の尹錫悦大統領が提案したことについて「愚かさの極致だ」と非難し拒絶した。北朝鮮メディアが19日報じた。

 尹氏の提案は、北朝鮮が受け入れる可能性はないと当初からみられていた。談話は、北朝鮮が非核化措置を行うとの「誤った前提」による提案だと指摘し非核化を改めて拒否。核兵器は「われわれの国体」とも述べ、これを経済支援と交換できると考える尹氏は「幼稚だ」と罵倒した。』

北欧2国のNATO加盟で激変するパワーバランス

北欧2国のNATO加盟で激変するパワーバランス:プーチンを脅かすフィンランドの軍事インフラ
国際・海外 2022.08.19
能勢 伸之 【Profile】
https://www.nippon.com/ja/in-depth/d00834/

『2国のNATO接近に神経をとがらせたロシア

NATOは2022年6月29日、スペインで開かれた加盟国の首脳会議で合意した文書「マドリード首脳会議宣言」を発表し、フィンランドとスウェーデンの加盟に向けた手続きを正式に始めることを明らかにした。両国の加盟にはNATO全加盟国の承認が必要だが、クルド問題等で難色を示していたトルコが6月28日までに支持に転じたことで、両国の加盟に向けた動きは大きく前進した。

各国の承認と批准を経て両国が正式加盟する時期は、早ければ年内との声もある。この2国の加盟が実現すれば、ロシアとNATOの軍事バランスが激変する可能性がある。

ウクライナで戦火が拡大していた22年3月4日、米国のジョー・バイデン大統領がロシアのウクライナ侵攻後、初めてホワイトハウスに招き、直接、面会した外国の首脳は第二次大戦後、東西のはざまで中立を保ち続けてきたフィンランドのサウリ・ニーニスト大統領だった。

米フィンランド首脳会談では、両国の安全保障関係を強化し、NATOの門戸開放政策の重要性で一致したという。会談後、バイデン大統領は「ニーニスト大統領と欧州の安全保障について話をした。会談の最中、我々はスウェーデンのマグダレナ・アンデション首相に電話を掛けた」ことを自身のSNS上で明らかにし、フィンランドとスウェーデンは「米国とNATOにとって重要な防衛上のパートナー」と呼んだ。

このようなフィンランド、スウェーデンの米国(NATO)との急接近を警戒したのだろうか、3月2日、ロシア空軍のSu-27戦闘機2機とSu-24攻撃機2機がスウェーデンの領空侵犯を行った。Su-24攻撃機はその時、戦術核模擬爆弾を搭載していたと3月末にスウェーデンのテレビ局が報じた。ロシアにとって全長1340キロメートルにわたって国境を接するフィンランドがNATO加盟国になることは、NATOとの巨大な境界線が出現することを意味するため、大きな脅威と受け取られても不思議ではない。

プーチンが恐れる軍事インフラとは?

フィンランドとの国境からロシアの首都、モスクワまでは、800キロメートル足らず。プーチン大統領の出身地でロシア第二の都市、サンクトペテルブルクまでは、フィンランドの首都、ヘルシンキから約300キロメートルに過ぎない。

だが、NATOに正式加盟するまでは、両国はNATO全軍による防護対象にはならない。ではNATO加盟国になるまでの当面の安全保障の手段は確保できるのか。そこで注目されたのが英国の存在。両国がNATOに正式加盟するまでの間、英国がスウェーデン、フィンランドにそれぞれ、安全保障上の支援を行うことになった(共同声明、5月11日付)。フィンランドと英国の共同声明には「フィンランドと英国は共通の安全保障上の利益を共有し、英国は必要なあらゆる手段でフィンランドの努力を支援する準備ができている」と記述されている。

英国は戦術核兵器を保有していないが、戦略核兵器として、ヴァンガード級ミサイル原子力潜水艦に最大16発搭載できる射程1万2000キロメートルのトライデントⅡD5潜水艦発射弾道ミサイルを保有(運用)している。同ミサイルには、100キロトン級核弾頭が最大12個搭載可能。「英国の必要なあらゆる手段」に、英国の戦略核兵器が含まれているかどうかは、気になるところだ。

ではNATOに両国が加入したら、安全保障環境のパワーバランスはどうなるのだろうか。フィンランドとロシアとの国境は前述の通り、約1340キロメートル。フィンランドとロシアの国境からモスクワまでは、800キロメートルもない。さらに、2国が加盟すれば、バルチック艦隊の二大拠点、サンクトペテルブルクも飛び地のカリーニングラードも、NATO諸国に包囲される位置関係になる。

ロシアはこの2国のNATO加盟申請をどのように見ているのか。22年5月16日、プーチン大統領はロシアを中心とする旧ソ連の6共和国で構成される安全保障条約機構(CSTO)の首脳会合で、「全く問題ない。NATOのこれらの国(フィンランド、スウェーデン)への拡大に伴い、ロシアに直接の脅威はない。しかし、(NATOの)部隊を展開したり、軍事インフラをこれらの領土に拡大するなら、確実に我々の側の反応を呼び起こすだろう」と述べていた。

つまり、スウェーデン、フィンランドの加盟によってNATOが拡大しても、それだけではロシアへの脅威にはならない。しかし、両国にNATOの軍事インフラが作られるなら話は別だ、ということなのだろう。ではプーチン大統領が指摘するNATOの軍事インフラとは、具体的には何を指すのだろうか。一般的には軍事基地などを指すのだが、ことフィンランドに限っては、ロシアにとって気掛かりな影が漂う。

戦闘機F-35A「ブロック4」の実力

フィンランドは現在保有する戦闘機、F-18ホーネットに代えて、米ロッキード・マーチン社が開発した第5世代戦闘機、「F-35AライトニングⅡステルス戦闘機」を64機導入する予定で、2026年から国内配備が始まる。また、このF-35Aと共に、JAASM-ER空対地ステルス巡航ミサイル200発を導入する見通しだが、このミサイルはAGM-158B2と呼ばれるタイプであり、射程は1000km以上。フィンランド国内から物理的にモスクワに届く可能性が高い。
また、このF-35Aは全機「ブロック4」というタイプであることをフィンランド国防省が明らかにしている。米議会調査局の報告書「F-35 Joint Strike Fighter (JSF) Program(2022年5月2日)」によれば、F-35Aブロック4は、「Adds nuclear weapons capability(核兵器能力を付与される)」と明記されている。具体的には、米軍最新の「B61-12核爆弾」を運用可能となる能力を持つという。

F-35A Refuels from KC-135 Tanker at Edwards AFB, Ca.

広島に投下された原子爆弾「リトルボーイ」の威力が約16キロトンと推定されるのに対し、B61-12 の爆発威力は、0.3、1.5、10、50キロトンの選択式。そして、B61-12核爆弾は従来の米軍の核爆弾と異なり、全地球測位システム(GPS)で標的に精密に誘導する装置を用いて命中精度を向上させている。地表まで約100秒で弾着するように航空機から投下すると、弾着精度を示す平均誤差半径(CEP)は、現行の米軍の核爆弾が100メートル以上だったのに対し、B61-12 では30メートル前後になるとされ、弾着精度の高い核爆弾となっている。F-35Aの航続距離は2200キロメートル、作戦行動半径は約1093キロメートルとされる。

F-35Aに搭載されたB61-12模擬核爆弾(左) Sandia National Laboratories

フィンランドには現状、核兵器を導入する計画はない。しかし、 NATO内ではドイツ、ベルギー、イタリアなどが米軍の管理下、米軍の核兵器を国内に配備し、いざという時には、自国の作戦機にその核兵器を搭載し運用するという、いわゆる核共有を行っている。

フィンランドの核共有の可能性

フィンランドはNATO加盟後の核共有について明言していないが、将来、フィンランド空軍のF-35Aブロック4戦闘機がモスクワまで行って何らかの作戦行動を行い、フィンランドへ帰投することが物理的に可能となる。つまり、F-35Aブロック4の導入は、はた目にはフィンランドが将来、政治的にも技術的にも条件がクリアされれば、核共有に踏み切る布石のようにも見える。

また、興味深いのは、フィンランドにGPS誘導爆弾であるJDAMのGBU-31(120発分)、GBU-38/54(150発分)のGPS誘導装置や訓練弾が引き渡されることになっていること。これらのGPS誘導JDAM弾は核爆弾ではないが、フィンランド空軍のパイロットや地上要員にとっては、これらの爆弾を通じて、航空機から投下されるGPS誘導爆弾の取り扱いを学ぶことにもなる。

繰り返しになるが、B61-12もまた、GPS誘導爆弾の一種である。フィンランドのサンナ・マリン首相はNATO加盟を申請した翌日の5月19日、インタビューに答えて「(NATO内では)フィンランドに核兵器や基地を置くことには関心さえない」と発言したという。

この発言はプーチン大統領の意向を勘案したものなのかどうか、それをロシアがどう受け止めているかは不明だが、マリン首相は22年1月19日にフィンランドが自らの首相任期中にNATO加盟を申請する可能性について「非常に低い」と述べていた人物。その当人がNATO加盟申請を果たした。微妙な表現の発言を駆使しながら用意周到に防衛装備の整備を進めるフィンランドが将来、自国内に米国の核兵器を置き、ロシアに匕首(あいくち)を突きつけることになるか否か、ロシアにとって大いに気掛かりなことだろう。

マドリードで覚書に署名後、写真撮影に臨むトルコのエルドアン大統領(左から4人目)、フィンランドのニーニスト大統領(同5人目)、スウェーデンのアンデション首相(同6人目)(トルコ大統領府提供)AFP=時事

この記事につけられたキーワード

ロシア スウェーデン フィンランド プーチン大統領 NATO ウクライナ侵攻

能勢 伸之NOSE Nobuyuki経歴・執筆一覧を見る

軍事ジャーナリスト。1958年京都市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。防衛問題担当が長く、1999年のコソボ紛争をベオグラードと北大西洋条約機構(NATO)本部の双方で取材。著書に『極超音速ミサイル入門』(イカロス出版)『極超音速ミサイルが揺さぶる恐怖の均衡』(扶桑社新書)『ミサイル防衛』(新潮新書)、『東アジアの軍事情勢はこれからどうなるのか』(PHP新書)など。』

アメリカ、ゼレンスキーに不信感

アメリカ、ゼレンスキーに不信感 習近平に救援を求めたのは大失点か
https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20220818-00310917

『そうでなくとも対ウ支援金の30%しか戦地には届かず汚職にまみれているとみなし始めたアメリカでは、ゼレンスキーの習近平に対する救援表明で、すっかり信頼が揺らいでいる。「笑う習近平」が現実味を帯びだした。

◆習近平に助けを求めたゼレンスキー

 8月4日付の香港のSouth China Morning Post(サウスチャイナ・モーニング・ポスト、南華早報)は、ウクライナのゼレンスキー大統領に単独インタビューをして<独占 ゼレンスキーは、ロシアのウクライナ侵略を終わらせるために中国の習近平との「直接会談」を求めている>というタイトルの英文情報を発表した。

 そこには概ね以下のようなことが書いてある。

 1.ゼレンスキーは、中国と他の国々がウクライナの復興を支援するために「団結」することを望んでいる。とりわけ、習近平はロシアのプーチンに紛争を終わらせるよう圧力をかけるだけの、途方もない政治的・経済的影響力を持っているとゼレンスキーは考えている。そのため、ゼレンスキーは習近平と「直接」話す機会を求めている。

 2.そもそもウクライナと中国は、ウクライナ紛争が始まる何年も前から、一貫して緊密な関係を保ってきたし、「1年前には習近平国家主席と直接会話をしたことがある」とゼレンスキーは言った。中ウ両国は30年にわたる正式な二国間関係があり、2021年になっても、中国はウクライナ最大の貿易相手国であり、在中国ウクライナ大使館の数字によると、貿易売上高は約190億米ドルに上った。

 3.ゼレンスキーは、「習近平はウクライナを少なくとも一度は訪問した数少ない世界の指導者の一人であり、昨年の中ウ国交締結30周年記念で両首脳は電話会談をし、ウクライナは東欧諸国へのかけがえのない橋渡しの役割をしてることを確認し合った。

 4.戦争で荒廃した国の再建に中国の支援を歓迎するか否かという質問に対して、」ゼレンスキーは「中国とのより強い絆に基づいて、戦争で荒廃した国の再建を中国に支援してほしいと考えている。中国企業と全世界が再建のプロセスに貢献することを強く望んでいる」と答えた。

 5.さらにゼレンスキーは「全世界がこのプロセスで団結することを強く望む」とした上で、「私はロシアの専制政治に対抗して全世界を一つに統一することに集中したい。ある国は助けているが、別の国はそうではないという、団結を弱体化させるようなことをせずに・・・」と語った。

 6.ゼレンスキーは、「ロシアのための中国市場がなければ、ロシアは完全な経済的孤立に陥っていただろう。中国は、ロシアとの貿易を制限すべきで、それは中国にできることだ」と言った。

 7.モスクワは、「キエフがウクライナ東部でロシア語話者を虐待しているので、侵略は正当である」と主張している。今週初めの南方早報の単独インタビューで、シンガポール駐在のロシア特使ニコライ・クダシェフは、「欧米の非難にもかかわらず、アジアにおけるモスクワの地位は揺るぎなく、ロシアを孤立させる努力は失敗した」と付け加えた。

 8.北京当局者は、欧米がウクライナのロシアに対する悪意を煽り、戦争を勃発させる上で大きな役割を果たしたと示唆している。

 記事の概要は以上だが、南華早報は北京寄りのメディアなので、7や8には、中国目線の内容も盛り込まれている。

◆中国外交部の反応

 中国の外交部は8月4日夕刻の定例記者会見の模様を以下のように公表している。

 ロシアの記者が「ゼレンスキーがサウスチャイナ・モーニング・ポスト(南方早報)の取材を受けて、習近平主席と直接対話をして、ウクライナ紛争に関して討論したいと言っているが、中国は何か、このことに関して決めているか」と質問した。

 すると華春瑩報道官は「中国はウクライナ危機に関して、ウクライナを含む関係者と緊密なコミュニケーションを維持している」とのみ答えて、記者の質問に対する直接の回答は避けた。

 拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』でも縷々(るる)述べたように、中国は旧ソ連崩壊の時点からウクライナとは非常に仲が良く、特に軍事技術の全てを吸収しようというほど、ウクライナの軍事関係の技術者を最優遇してきた。習近平政権になってからは、「一帯一路」のヨーロッパへの架け橋となる拠点として、ことのほかウクライナを大事にしてきたので、ゼレンスキーが言うのはもっともなことではある。

 特に戦争によって破壊された都市の再建に関しては、拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』を執筆していた3月時点で、すでに駐ウクライナの中国大使とは話し合いができていたことは拙著で書いた通りだ。

 したがって、これもまたゼレンスキーの言う通りではあるのだが、しかし、南華早報の概要の5や6に書いているように、何というか、「世界はウクライナのために、こうすべきだ!」というニュアンスのメッセージは、世界から「上から目線」として、「ゼレンスキー疲れ」現象を招いていることも否めない。

 アメリカでは又、まったく別の角度からの「ゼレンスキー疲れ」現象が表れ始めている。

◆ニューヨーク・タイムズが書いた「ホワイトハウスとゼレンスキーの間の不信感」

 まだ南方早報のゼレンスキーへの単独取材が報道される前の8月1日、アメリカのニューヨーク・タイムズが<ペロシの台湾訪問が全く無謀な理由>という見出しの評論を載せているのだが、そこにはチラッと There is deep mistrust between the White House and President Volodymyr Zelensky of Ukraine — considerably more than has been reported.(ホワイトハウスとウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領との間には、報道されているよりも遥かに多くの、深い不信感がある)と書いている。

 具体的には何か、に関しては書いてないのだが、8月6日、アメリカの民主党寄りのCBSニュースが<ウクライナに対するアメリカの軍事援助の30%だけしか最前線に届いてない>とツイートしながら、その後すぐにそのツイートを削除した。

 すると8月8日、アメリカの共和党寄りのFOXニュースが<CBSニュースは、「ウクライナに対するアメリカの軍事援助の約30%だけしか最前線に届いていない」というツイートを削除した>というタイトルでウクライナの腐敗問題を報道した。要は、ウクライナは腐敗にまみれていて、アメリカ国民の血税はウクライナの腐敗分子を肥え太らせているだけだという趣旨のことが書いてある。

◆ニューズウィークが大々的にゼレンスキー批判を展開

 それらが本格的なゼレンスキー批判へと発展していったのは、何と言ってもアメリカのニューズウィーク(英語版)が8月10日に報道した<ゼレンスキーの物語は変化しつつある>という記事だと言っていいだろう。

 「ウォロディミル・ゼレンスキーは、ますます彼の本性を明らかにしている」という書き出しからして衝撃的だ。

 結論は「プーチンは凶悪犯で、ゼレンスキーは腐敗した独裁者だ」ということなのだが、その証拠の一つとして、ゼレンスキーがプーチンと同じように、ウクライナのすべての野党メディアを閉鎖し、野党の政党結成を禁止したことを挙げている。またCBSが報道しておきながら削除したように、ウクライナは腐敗に満ち、ゼレンスキーはアメリカの納税者から巻き上げた何千億ドルもの金を戦場の最前線や国民の命を守るためには使わず、「世界はもっとウクライナを支援すべきだ」と大声で呼びかけ、結局は戦争をエスカレートさせていると非難している。

 最も許せないのは、ゼレンスキーが香港に本拠を置くサウスチャイナ・モーニング・ポスト(南華早報)とのインタビューで習近平に救いを求めたことだと、怒りが収まらない報道ぶりだ。「ゼレンスキーは公然とアメリカの最も危険な敵、中国共産党を勧誘している。専制的で虐待的な北京へのこの哀れなアピールで、ゼレンスキーは人権の模範のような振りをした信頼を完全に失っている」と手厳しい。

 そもそも習近平は、プーチンからの大規模な石油購入を通じて金儲けをしているのであり、その習近平にウクライナ戦争に対して直接資金を提供するよう乞い願うというのは、戦争の両陣営に通じているようなもので、正気の沙汰ではない。

 そうでなくとも、アメリカが国民の血税からウクライナに540億ドル以上を送る中、NATOの同盟国とされる連中は、ロシアのエネルギーを得るために、プーチンに一日に最大10億ドルを送っているのだ。ウクライナの戦いは重要なアメリカの国益を伴わない。バイデンの介入はアメリカに害を及ぼし、黒海寡頭支配者の戦いで駒となったウクライナ国民の窮状を悪化させるだけだ。

 ニューズウィークは概ねこのように論理展開し、「プーチンは凶悪犯で、ゼレンスキーは腐敗した独裁者だ」と結んでいる。

 筆者は『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』の帯で「狂気のプーチン、笑う習近平」と書いたが、どうやら、それが現実になりつつある雲行きだ。

遠藤誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。』

中国の銀行の怪しい動き

中国の銀行の怪しい動き
http://blog.livedoor.jp/goldentail/archives/29458798.html

 ※ みずほの話しは、たぶん、お上からの「指導」が入ったんだろう…。

 ※ マネロン対策なんだろう…。

 ※ そうやって、「頻繫に、本人確認してくれ。」ということなんだろう…。

 ※ この頃じゃ、「会社の役員は、されていませんか?(インサイダー取引対策)」「「政府系法人の役員は、されていませんか?」なんてことまで聞かれるぜ…。

 ※ 「自分の金」を送金したり、引き落としたりするのにだ…。

 ※ なんか、「確認書」みたいな書類を作っていた節(フシ)もあったな…。

『私は、銀行口座の一つを、みずほ銀行に持っているのですが、正確に何年前か確認できないのですが、突然口座の一回の送金の上限を、設定していた500万から50万に下げられました。口座を新規に作った場合は、仮の設定として50万が適用されるのですが、申請する事で上限を上げる事ができます。既に、一回申請を出していて、500万に設定していたわけです。

それが、メールで通知が来て、一度、一律で50万に戻すので、不都合がある人は、再申請してくれという内容の案内があり、実際に、こちらの都合に関係無く50万に下げられたのですね。この上限を上げる手続きというのは、申請者の居住確認を含む、そこそこ手間のかかる手続きが必要で、書類のやりとりも含めて、2週間程度かかります。みずほ銀行と言えば、システム・トラブルを何回も起こしているので、某かのトラブルが起きた時の被害を抑える為に、送金の上限を一律で抑えて、申請があった人だけ元に戻す事をしているのかなと疑いました。

銀行が個人の口座に対して、一律で何かをする場合、背後には何かしらの銀行の都合の問題があります。単にセキュリティー上の確認を改めてしたいという場合もありますが(いわゆる持ち主から忘れられている口座や、持ち主が死亡して放置されている口座は、多いのでリスクを最小にする為に上記の事を行う場合もある)、深刻な理由が隠れている場合もあります。

そして、中国の銀行で、法人口座を含む、大量の口座を凍結するという事件が置きました。全ての銀行ではなく、シンセンなどの一部の銀行です。個人口座でも問題ですが、取引や決済に使用している法人口座まで凍結されるとなると、これは大問題です。その理由は、公安部からの要求で、凍結したと銀行は説明しています。そして、公安部は、オレオレ詐欺のような犯罪を防止する為に、口座を凍結したと説明しています。つまり、一律に口座を凍結して、必要としている人から申請して、口座を再開する事で、犯罪のリスクを減らす為の処置だというわけです。

しかし、巷で噂されているのは、「銀行に資金が無くなったので、流動的な資金の流れを止める為に、一律の口座凍結をしたのではないか」と言われています。このブログでも、複数回記事にしましたが、中国の地方銀行で、8000億円の資金が消失して、口座が機能しなくなり、政府が立て替えるという対策が取られました。まぁ、預金者保護は、法律でうたっている義務なのですが、法律で決まっていても、実行されるか判らないのが中国社会です。恐らく、3000人の人々が立ち上がって、デモを起こし、話題にならなかったら、何もされなかったと思われます。

つまり、経営がうまくいっていない銀行は、実際に増えていて、預金者の払い戻しに応じる能力が疑われているという事ですね。これが、信用不安につながって、「取り敢えず、預金をおろして、手元に現金として措いておこう」となると、いわゆる取り付け騒ぎになります。銀行は、預かった資金を金利をつけて貸し出す事で、利益をあげてますから、実際、一斉に預金をおろされた場合、どんな銀行でも現金が足らなくなります。つまり、銀行の運営を信じて、常に預けられた金額が流動的な資金を上回っていないと、銀行は破産します。信用不安が一番怖いので、政府が上限付きの預金者保護などの保証を付けているわけです。取り付け騒ぎが拡大すると、金融システムが維持できなくなります。

詐欺犯罪対策で、法人口座まで凍結するのは、意味が判らないですし、個人でも銀行口座と紐づいた決済サービスを利用している場合、いきなり支払いができなくなるので、大問題です。特に、海外旅行などに出ていて、口座が凍結されたら、身動きが取れなくなります。どう考えても、公安部の言っている理由は、影響と天秤にかけた場合、対策として、おかしいですね。』

EV先進国の都合の悪い真実

EV先進国の都合の悪い真実 : 机上空間
http://blog.livedoor.jp/goldentail/archives/29452921.html

『このブログを読んで下さっている方なら、お解りかと思いますが、私はEV懐疑派です。今は、まるで熱病に取り憑かれた患者のように、EVに傾倒している欧州ですが、いずれ雪崩をうってガソリン機関へ戻ってくると考えています。比較の対象として強引である事は、重々承知していますが、経済効率や利便性を無視して、思想から生まれて、無理矢理現実に捩じ込んだ事は、共産思想など、必ず失敗すると思っています。

自動車の歴史から言うと、モーター駆動は、内燃機関より早く開発されています。今から1世紀以上前に、EVの最も原始的なモデルというのは実在していました。しかし、後からガソリンで駆動する内燃機関のエンジンが開発されると、製造の手間や難しさにもかかわらず、エンジン駆動が主流になりました。これは、単に偶然の仕業ではなく、エネルギー効率で一度変換が必要な電気より、直接爆発させてエネルギーにするガソリンのほうが優れていたからです。また、保存・移動という面でも、電気よりも優れています。

地球環境の為に全てEVにするという主張は、過激派のビーガンの方々が、精肉店にレンガを投げて破壊したり、肉料理を提供するレストランの中で、屠殺する豚の断末魔の悲鳴の録音を大音量で流したり、スーパーの中で、陳列してある牛乳のパッケージを勝手に開けて床にぶちまけたりして、「お前達は、悪だ。直ぐに肉食を止めろ」と叫んでいるヒステリックさを感じます。つまり、思想を背景にする事で、反論を封じ、優越的な立場を表明する事で愉悦を感じているとしか思えないのですね。

私なんぞは、根が捻くれているので、「ゲームのルールを変える事で、自動車産業で主導権を取りたいだけだろ?」と思っています。仮に、短い期間で、エンジンからモーターに切り替わると、エンジンを組み立てるのに必要な、膨大な裾野の部品メーカーの雇用が危機に晒されます。つまり、今、自動車業界で強いシステムを確立している企業程、甚大な被害を受けるわけで、政治が方向性を決める前から、準備をして、地球環境を理由にルールを変えれば、先行している分、絶対的に有利です。環境問題を理由にすれば、頭が狂っているレベルの環境保護グループが、テロとか起こして、話題性も十分ですから、「自動車はEVにするのが正義」みたいな論調は、すぐに創れるでしょうねぇ。ああ、まるで、十数年前の「移民問題」みたいですねぇ。

しかし、普通に考えて、ガソリンを燃焼させるより、一回電気という形へエネルギー変換をしないといけないEVのほうが効率が悪いのは判りますし、廃棄バッテリーなど新たな問題を生む事も判っています。強引にEV化を進めようとするのは、環境問題じゃなくて、政治なんじゃないのと思うのも無理は無いですね。確かに排気ガスを出している自動車は見なくてすむかも知れませんが、今後増えるEVが必要とする電力を、どう確保するんだという問題もあります。

さて、では、EV先進国と言われるノルウェーで、今、起きている事を見てみましょう。ごちゃごちゃ理屈を語るよりも、現場を検証したほうが、意味のある問題提起になります。
ノルウェーは、政府の積極的なEV転換支援策によって、物凄い勢いでEV化が進み、現在は脅威の新規購入の自家用車の84.7%がEVになっています。何しろ、EVに買い替えると、自動車にかかる税金が全額免除されるので、結構高いレベルのEVが格安で買えます。また、購入時だけではなく、フェリーで車ごと島へ移動する時に、料金がタダになったり、EV専用のレーンが道にあったり、つまり、EVだと得する社会制度になっています。

また、売りっぱなしではなく、急速充電用の電気スタンドも、積極的に設置して、充電渋滞が起こりにくいよう、インフラの充実も、おそらく世界有数です。テスラ社専用の給電規格であるスーパーチャージャーや、ヨーロッパ最大の給電ネットワークであるIONITYの最上位規格である350kWの急速充電スタンドも、設置されています。充電スタンドと呼ばれる場所には、10台近い充電器が並んでいて、日本の充電スタンドの環境とは、天と地の差です。

ここまでやれば、一般的に言われているEVの運用面での問題は起きないように思うじゃないですか。しかし、そうじゃないんですね。これだけ、充電スタンドのインフラが充実していても、いわゆる繁忙期と言われるバカンスシーズンや、人々が活動する時間帯には、とんでもない充電渋滞が起きています。急速充電とは言っても、それなりに時間がかかるのは必須なので、ある程度台数が設置されていても、やはり捌けないのですね。それでも、長くで30分待ちの渋滞で済むのは、やはりインフラ整備の賜でしょう。

それと、故障している充電スタンドが、とても目につく事です。恐らく、酷使される上に、急速充電自体が負荷の高い作業になるせいでしょうか、故障中の表示が出ている充電スタンドを見つけるのに、さほど苦労しません。どうも、頻繁に故障する問題というのが、あるようです。半時間も待って、充電しようとしたら、故障中のランプが点灯なんぞしたら、気の短い人ならキレますよね。充電時間の短さを、カタログ・スペックで競うEVが増えてますが、充電というのは、充電させる方の機器の耐久性の問題があるようです。

かといって、家庭用コンセントから充電しようとしたら、それこそ半日とかの単位になりますし、緊急時の使用に移動できる距離に制限がかかる事になります。それと、このブログで何回か記事にしていますが、ガレージなどで、コンセントから充電していると、今のリチウム・イオン電池だと、火災を起こす可能性がゼロじゃありません。実際に事故も起きてますし、EVより外部環境の影響を受けやすい電動スクーターなどの2輪車が充電中に燃えるのは、中国あたりでは日常茶飯事です。まぁ、中国共産党の補助金目当てで、本業が酒造屋とか、IT産業とかの素人も参入していて、品質管理が甘いという事もあるのですが、言われているところでは、年間で万単位の火災が起きています。下手すると、家が無くなります。

それと、現地に行ってみないと、混んでいる充電ステーションと空いている充電ステーションが判断できない点も問題です。渋滞というのは、少ないリソースに利用者が集中するから起きるのであって、利用者が効率的に分散すれば、ある程度回避する事ができますが、予め判断する情報がありません。

ちなみに、ノルウェーは、自然環境が厳しいので、国の人口密度は高く無く、効率的に人が居住する為に、点の形で点在する都市を、道路という線で結ぶ形になっていて、道路環境は、ゴチャゴチャと無計画に増殖した都市を狭い道路で結んでいる日本より、かなり良いので渋滞問題は、同じ環境で比較するなら、日本の方が遥かに深刻になると予想できます。

そして、ノルウェーの累積の自家用車の比率で見ると、未だに純粋なEV車の数は、16%程度であり、それでも、これだけの問題が噴出しているという事です。欧州は、将来的に全ての車をEVにするとか息巻いていますが、恐らく途中で挫折すると思います。今の問題を一掃するような画期的な技術が出てくれば別ですが、今のままでは無理ですね。「~ねばならない」と現実は、違うという事です。思想で政治をやると、これがあるから最終的には国が破滅して終わるのですね。EVも適切な使い分けを考えないと、同じ道をたどると思います。』

パナマ

パナマ
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%83%8A%E3%83%9E

『パナマ共和国(パナマきょうわこく、スペイン語: República de Panamá)、通称パナマは、北アメリカ大陸と南アメリカ大陸の境に位置する共和制国家である。北西にコスタリカ、南東にコロンビアに接し、北はカリブ海、南は太平洋に面する。首都はパナマ市。 』

『概要

パナマの存在する場所は南北アメリカと太平洋、大西洋の結節点に当たる。

この地理的重要性からスペイン人の到達以来、貿易の他に人の移動や国際政治において大きな役割を果たす場所となっており、その役割の重要性のため中米地峡を貫くパナマ運河が通っている。 』

『歴史

詳細は「パナマの歴史」を参照

先コロンブス期

ヨーロッパ人の来航以前の現在のパナマの地には、主にチブチャ族をはじめとする人々が居住していた。

紀元前2900年から同1300年に刻線文が特徴のモナグリーヨ (Monagrillo) 土器を用いた人々が、主としてパナマ中央部、アスエロ半島北方のパリタ湾岸に貝塚、内陸では岩陰や洞窟で生活を営んでいたことが知られている。紀元前1000年頃にモナグリーヨ土器を伴う集落がなくなり、紀元前6世紀になると、ムラ・サリグアなどをはじめとする掘立柱建物を住居とした集落が点々と営まれるようになる。ムラ・サリグアの最盛期には、推計で人口は600人から700人近くに達し、集落の面積は58haまで発達した。しかし、紀元前後になっても祭祀センターとまで言える遺跡は確認できていない。[要出典]

紀元3世紀から4世紀ごろの遺跡からは、木の実や穀物をすりつぶすマノ(すり石)とメタテ(すり皿)が発見されていることから、農耕が本格的に開始されていたと推測される。
A.D.500頃には、パリタ湾岸では金製品で知られるコクレ(Cocle)文化が興る。その起源についてはコロンビアからの影響か、独自の発展か決着をみていない。またコスタリカ東部に隣接する西部では、美術的にも評価の高い彩文土器や土偶で知られるチリキ(Chiriqui)文化が興る。

スペイン人が到来する直前にあたる16世紀初頭には、現在のパナマに相当する地域には20万人から200万人の人間が居住していたとされている[3]。

スペイン植民地時代

「スペインによるアメリカ大陸の植民地化」も参照
「南の海」(太平洋)を探索するバスコ・ヌーニェス・デ・バルボア。

1501年、ヨーロッパ人としてはじめてスペインの探検家ロドリーゴ・デ・バスティーダス(スペイン語版、英語版)がパナマを「発見」し、カリブ海側ダリエン湾のポルト・ベーロに上陸した。翌1502年には、クリストファー・コロンブスがモスキートス湾沿岸を探検している。これ以降、自らがインドに到達したと誤解したコロンブスによってパナマに居住していた人々はインディオ(インド人)と呼ばれるようになった。

1508年、カスティーリャ王フェルナンド5世が、パナマをスペインの探検家ディエゴ・デ・ニクエサ(スペイン語版、英語版)に与えた。その後、1513年にバスコ・ヌーニェス・デ・バルボアが太平洋側に到達した(ヨーロッパ人による太平洋の「発見」)。翌1514年には総督としてペドロ・アリアス・ダビラ(スペイン語版、英語版)が派遣され、1519年にはパナマ市が建設された。パナマにも他のアメリカ大陸の植民地と同様にアフリカから黒人奴隷が連行され、インディオは疫病と奴隷労働によって大打撃を受けたが、パナマ市はイスパノアメリカ植民地の交通の要衝、スペイン人の居住都市として1671年1月28日にイギリスの海賊ヘンリー・モーガンによる焼き討ちに遭うまで繁栄を極めた。

1530年代にバルボアの下で植民地経営の経験を積んだフランシスコ・ピサロは、パナマを拠点にインカを征服した。また、ペルー及び近隣植民地からスペイン本国への輸送ルートは、ほとんどがパナマを経由した。例えば、アルト・ペルー(現在のボリビア)のポトシ銀山の銀は海路で太平洋側のパナマ市まで輸送され、陸路でカリブ海側のポルトベロまで輸送、そこから再び海路でスペインまで輸送された。スペインが16世紀初頭にパナマ周辺地域の支配権を確立した後、パナマはペルー副王領の一部となり、1718年に新設されたヌエバ・グラナダ副王領に編入された。

16世紀から17世紀にかけて、フランシス・ドレークやヘンリー・モーガンをはじめとするイギリスの海賊がしばしば輸送拠点を襲撃し、搬送物を略奪した。

スペインからの最初の独立

「近代における世界の一体化#ラテンアメリカ諸国の独立」も参照

解放者シモン・ボリーバル。
フェルディナン・ド・レセップス。

1808年にフランス帝国のナポレオン・ボナパルトが兄のジョゼフをスペイン王ホセ1世に据えると、それに反発する民衆暴動が契機となり、スペイン独立戦争が勃発した。インディアス植民地は偽王への忠誠を拒否し、独立のための戦いが始まった。ベネズエラのカラカス出身の解放者シモン・ボリーバルは不屈の闘争の末に、1819年8月にボヤカの戦いに勝利してヌエバ・グラナダを解放すると、1821年にはカラボボの戦い (1821年)(英語版)に勝利し、ベネズエラの解放を不動のものにした。同年11月28日、パナマはスペインから独立し、自発的にボリーバルの主催するグラン・コロンビアの一部となった。1826年にはボリーバルの呼びかけで米州の相互防衛と将来的な統一を訴えるパナマ議会(スペイン語版、英語版)がパナマ市で開催されたが、この会議は失敗に終わり、ボリーバルの求心力も低下した。

1830年にボリーバルが失脚してベネズエラのホセ・アンオニオ・パエスがベネズエラ共和国のグラン・コロンビアからの独立を宣言すると、それまで「南部地区」と呼ばれていたキトとグアヤキルとクエンカもエクアドル共和国として独立を宣言したために、グラン・コロンビアは解体した。1831年に大コロンビア解体後に、ヌエバ・グラナダ共和国は建国され、パナマはその時にヌエバ・グラナダ共和国の一部として独立した。こうしてボリーバルの目指したラテンアメリカ統合の夢と共にグラン・コロンビアは崩壊した。

1846年にアメリカ合衆国は、パナマにおけるヌエバ・グラナダ共和国(ほぼ現在のコロンビア共和国に相当)の主権を承認することでパナマ地峡の通行権を獲得した。アメリカ合衆国が米墨戦争でメキシコから北半分の領土を手に入れ、1848年にカリフォルニアでゴールド・ラッシュが始まった1840年代以降、アメリカ合衆国東部の人々はオレゴン、カリフォルニア等のアメリカ合衆国西海岸への移住にパナマ地峡を利用し、交通の要衝としてのパナマの重要性は高まった。1848年にはアメリカの会社がパナマ・コロン地峡横断鉄道の敷設権を獲得した。1850年に着工したパナマ・コロン鉄道敷設工事は、1855年に完了した。

1855年にパナマはヌエバ・グラナダから自治権を獲得した。1863年、グラナダ連合でリオ・ネグロ憲法が制定され、八州が独自の外交権を持つ分権的な連邦国家コロンビア合衆国が成立すると、パナマも連邦の一州として実質的な独立を達成したが、1866年に再びコロンビアによる直接支配が復活した。パナマではコロンビアに対する反乱が頻発するがいずれも失敗に終わった。

スエズ運河建設に携わったフランス人実業家のレセップスがコロンビアから運河建設権を買い取り、1881年から1889年までパナマ運河建設を進めたが、様々な問題発生により建設は中止された。この過程で運河建設のために各国から労働者が導入された。

1885年の自由党の反乱を鎮圧した保守党のラファエル・ヌニェス(スペイン語版、英語版)によって1886年にリオ・ネグロ憲法の放棄と新憲法が制定され、中央集権色の強いコロンビア共和国が成立した。こうして一時的に不安定なコロンビアにも保守党による支配権が確立したが、1894年にヌニェスが死去すると、1899年に自由党のカウディーリョだったラファエル・ウリベ・ウリベ(スペイン語版、英語版)将軍が蜂起し、千日戦争が勃発した。この内戦は1902年まで続き、およそ10万人の死者を出した。

コロンビアからの第二の独立

詳細は「バナナ戦争」を参照

アメリカ海軍のアルフレッド・マハンの海軍戦略の影響や、1898年の米西戦争を契機に、アメリカ合衆国に太平洋と大西洋をつなぐ運河が中米に必要であるとの考えが浸透していた。1901年にマハンの教えを受けたセオドア・ルーズベルトがアメリカ合衆国大統領に就任すると、アメリカは中米地峡に太平洋と大西洋をつなぐ運河の建設に臨んだ。アメリカ合衆国では、中米における運河建設計画としてニカラグア案とパナマ案が提示され、1902年、レセップスが設立した新パナマ運河会社から運河建設等の権利を買い取るパナマ案が議会で採決された(スプーナー法)。

アメリカ合衆国はパナマ運河を建設することを千日戦争で疲弊したコロンビア共和国上院に拒否されたため、パナマの持ち得る経済効果、ならびにラテンアメリカ地域における軍事的重要性から分離・独立を画策した。その結果、1903年11月3日にパナマ地域はコロンビアから独立を果たした。初代大統領にはマヌエル・アマドールが就任したが、新たに制定された憲法ではパナマ運河地帯の幅16kmの主権を永遠にアメリカに認めるとの規定があり、以降パナマはアメリカによって事実上支配されることになった。運河地帯の主権を獲得したアメリカによって運河建設は進められ、1914年にパナマ運河が開通した。

このようにパナマは独立当初から主権が極めて制限されていたが、パナマのナショナリズムの高まりに応じて1930年代頃からアメリカ合衆国も譲歩せざるを得なくなった。1927年から1933年まで続いたニカラグアでのサンディーノ戦争により、フランクリン・ルーズベルト大統領が善隣政策を導入したことは、その政治的な表現の一つである。親米派のエリートから主導権を奪って就任したアルモディオ・アリアス大統領は1936年にハル・アルファロ条約を締結し、パナマ運河の将来的返還など、パナマの保護国としての地位からの脱出を図った。

1940年に就任したアルモディオの弟のアルヌルフォ・アリアス大統領はよりポプリスモ的であり、大統領権の強い1941年憲法を制定し、アメリカ合衆国との対立のために枢軸国との友好政策や、人種差別政策など親ファシズム的な政策を採ったが、この政策は合衆国の不興を買い、1941年にクーデターで失脚した。

後を継いだデ・ラ・グアルディア大統領は合衆国との友好関係を強化し、第二次世界大戦中には敵性外国人となった日本人、ドイツ人、イタリア人が追放され、土地は没収された。第二次世界大戦中にアントニオ・レモンの手によってそれまでの警察隊が国家警備隊に再編されて事実上の軍隊となり、以降のパナマの政治に大きな影響力を奮うようになった。

1952年に大統領に就任したレモンは対外的には親米政策を採る一方、国内では国家警備隊の暴力を背景にした力の政治を推進したが1955年に暗殺された。
農民と写るオマール・トリホス将軍(右)。運河返還交渉によってアメリカにパナマ運河の返還の承認を実現させた。

1960年には中間層の民衆の間でナショナリズムが高揚し、パナマ運河地帯返還要求を軸にした反米運動が盛んになった。1964年には運河地帯でのパナマ国旗の掲揚がアメリカ人に拒否されたことをきっかけに暴動を起こしたパナマ人学生が、アメリカ軍によって射殺された国旗事件が発生し、この事件によってパナマとアメリカは一時国交を断絶した。

パナマ侵攻時のアメリカ軍。

1968年に発生したクーデターによりアルヌルフォ・アリアス大統領が失脚し、国家警備隊の司令官だったオマール・トリホス将軍が大統領に就任した。ペルーのベラスコ将軍に影響を受けていた[4]トリホス将軍は反対派を徹底的に弾圧したが、その一方で国内の寡頭支配層や合衆国に対して一歩も妥協しないそのカリスマ性によってたちまち国民の心を掴んだ。国粋主義的な政策で合衆国との交渉に臨んだトリホス将軍は1977年にアメリカのジミー・カーター大統領と新運河条約を結び、1979年に運河地帯の主権を回復した。

1981年のトリホス将軍の死後、国家警備隊は拡張され、1983年にパナマ国防軍に再編された。その後、トリホス将軍の下で諜報任務に就いていたマヌエル・ノリエガが事実上の軍と政治のトップとなったが、1989年にノリエガはアメリカとキューバのカストロ政権やリビアのカダフィ政権など世界各国の反米政権の二重スパイかつ、コロンビアの麻薬組織メデジン・カルテルと深い関係があることを理由に、アメリカによるパナマ侵攻によって失脚した。

ノリエガの失脚後、政治への深い介入が問題になっていたパナマ国防軍は解体され、1990年に国家保安隊に再編された。

アメリカ合衆国からの第三の独立

1999年12月31日に旧運河地帯に残るアメリカ管理地区が返還され、建国以来パナマに大きく関わってきたアメリカ軍は完全撤退した。これをアメリカからの第三の独立と呼ぶ者もいる[5]。

2004年5月には民主革命党から故オマール・トリホスの息子マルティン・トリホスが大統領に就任した。2009年5月3日の大統領選挙では、民主変革党の党首リカルド・マルティネリが貧困対策や治安の改善、インフラ整備のための民間投資誘致などを掲げて支持を集め、得票43.68%で当選した。』

『国民

詳細は「パナマの人口統計」および「en:Demographics of Panama」を参照
「パナマにおけるコーヒー生産」も参照
先住民クナ人の女性。
パナマ市のサン・フェリペ・ネリ教会

住民はヨーロッパ人とインディオ(インディヘナ)との混血であるメスティーソが60%、アフリカ系パナマ人が14%、ヨーロッパ系パナマ人が10%、先住民(アジア系モンゴロイド)が10%、その他が1%である。

パナマにはインカ文明、アステカ文明、マヤ文明のような高度に発達した先コロンブス期の文明は存在しなかったが、それでもインディオが国民の内約10%を占めるのはメキシコの国民に占めるインディオ比と同水準であり、ラテンアメリカ域内では先住民系の人口の占める比率が大きい国となっている。

黒人(アフリカ系パナマ人)は植民地時代にアフリカからパナマに連行された人々の子孫であるアフロ・コロニアルと、19世紀から20世紀にかけてジャマイカ、トリニダード、マルティニーク、グアドループなどから鉄道や運河の建設のために移住した人々の子孫であるアフロ・アンティーリャスに分けて統計されている。

白人(ヨーロッパ系パナマ人)は植民地時代に移住したスペイン人の子孫の他、19世紀に鉄道や運河の建設、監督のためにイタリア人、イギリス人、アメリカ人などが移民した。
パナマの人口の10%を占めるインディオ(インディヘナ)にはクナ人、ネーベ人、エンベラー・オウナン人(英語版)(エンベラー人、オウナン人)、ブグレー人、テリベ人、ブリブリ人、ボゴタ人などの諸集団が存在し、1953年にクナ・ヤラー自治区が、1983年にエンベラー・オウナン自治区、1996年にマドゥンガンディ自治区、1997年にノーベ・ブグレー自治区が創設された。

その他にマイノリティとしてユダヤ人、中国人(華僑)、インド人(印僑)、トルコ人などが挙げられる。

言語

スペイン語が公用語であり、大多数の国民が母語としている。その他にもアフロ・アンティーリャスなどにはジャマイカ英語をはじめとする英語を母語とする人々が存在する他、クナ語など先住民の言語を母語とする人々も存在する。英語はまた、都市部の高学歴層や観光地で使用される。

宗教
詳細は「パナマの宗教」および「en:Religion in Panama」を参照

宗教はローマ・カトリックが85%、プロテスタントが13%、その他(仏教、ヒンドゥー教、ユダヤ教、バハイ教など)が2%である。
婚姻
[icon]
この節の加筆が望まれています。
教育
パナマ大学のキャンパス。
詳細は「パナマの教育」および「en:Education in Panama」を参照

6歳から11歳までの6年間の初等教育が無償の義務教育期間となり、その後の6年間の前期中等教育と後期中等教育を経て高等教育への道が開ける。国公立の教育機関は初等教育から高等教育までほぼ無償である。2000年のセンサスによれば、15歳以上の国民の識字率は91.9%である[11]。

代表的な高等教育機関としては、パナマ大学(1935年)、パナマ工科大学(1981年)などが挙げられる。歴史的にパナマのエリートは子弟をアメリカ合衆国や西ヨーロッパ諸国の学校で学ばせたため、パナマ国内の高等教育機関は中間層の子弟のための機関となり、それゆえにエリート層と対立するパナマの学生は1964年1月の国旗事件など、高揚するパナマ・ナショナリズムの担い手となった。大学進学率は中米諸国の中では最も高い。

保健
詳細は「パナマの保健(英語版)」を参照
[icon]
この節の加筆が望まれています。
医療
詳細は「パナマの医療(英語版)」を参照 』

 ※ その他は、省略。