台湾を読み解く10の数字 米中対立で高まる存在感

台湾を読み解く10の数字 米中対立で高まる存在感
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『米国のペロシ下院議長による8月上旬の台湾訪問は中国の猛反発や大規模な軍事演習を招いた。「台湾有事は日本有事につながる」との認識も強まっている。台湾は名目の域内総生産(GDP)がリーマン・ショック以降の10年余りで約2倍に急増。世界の半導体産業のけん引役であり、日本経済との結びつきも強い。米中対立のはざまで存在感が高まる台湾を10の数字で読み解く。

7749億ドル 名目GDP

台湾の行政院(内閣)主計総処によると、名目GDPは2021年に7749億ドル(約103兆円)だった。人口1人当たりでも3万ドルを超え、東アジアでは香港、日本、韓国に次ぐ高水準だ。台湾経済は1960年代から90年代にかけて製造業を中心に高度成長を遂げ、韓国などとともに「アジア四小龍」と呼ばれた。2000年代以降は工場の中国大陸移転などで成長が減速したが、近年は好調な半導体輸出や新型コロナウイルス対策の成功に支えられ、成長が再加速している。

3万6191k㎡ 面積

日本台湾交流協会によると、台湾の面積は3万6191平方キロメートル。日本の九州本島とほぼ同じ広さの地域に約2300万人が暮らす。人口密度は世界有数で、日本の2倍弱ほどだ。首都に当たる機能を持つのは北部の台北市。主な都市には「台湾のシリコンバレー」と呼ばれる新竹市や最先端の半導体工場が集積する台南市、貿易港がある南部の高雄市がある。観光地では、山の斜面に伝統的建造物がそびえる九份(きゅうふん)などが有名だ。
66% 半導体受託生産の世界シェア

台湾調査会社のトレンドフォースによると、台湾企業は半導体の受託生産(ファウンドリー)で2022年に世界シェア66%を占める見通しだ。特に1987年に設立された台湾積体電路製造(TSMC)は、半導体の設計と製造を別の会社が分担する「水平分業モデル」の先駆けとなり、業界構造の転換を主導してきた。熊本県で建設中の新工場には誘致を進めた日本政府が最大4760億円を助成する。

3ナノメートル 半導体の回路線幅

TSMCは2022年中に回路線幅3ナノ(ナノは10億分の1)メートルの次世代半導体の量産を始める。米アップルのiPhoneなどが搭載する現行の5ナノ品に比べ演算性能は15%アップする。先端半導体の量産を手掛ける企業はすでに韓国サムスン電子、米インテルを含めた「半導体ビッグ3」に絞られており、TSMCは製品の歩留まり(良品率)を考慮した総合力で独走状態にある。

9兆6699億円 日台間の貿易総額

財務省の貿易統計によると、2021年の日台間の貿易総額(輸入と輸出の合計)は前年比27%増の9兆6699億円だった。国・地域別にみると、日本にとって中国、米国に次ぐ3番目の貿易相手で、韓国を上回った。日本からの輸出では高性能の半導体を量産するための製造装置や材料が目立つ。輸入はIC(集積回路)だけで1兆5000億円に達し、輸入額の4割超を占めた。

1310カ所 日系企業の拠点数

外務省の調査によると、台湾にある日系企業の拠点数(現地法人や合弁企業など)は2021年10月時点で1310カ所。近年は増加傾向が続き、直近10年で200カ所余り増えている。半導体が好調なTSMCなどとの取引も多い。在留邦人は2万4162人となっている。台湾の中央流行疫情指揮センター(CECC)は8月15日から、全ての旅客を対象に搭乗前2日以内のPCR検査の陰性報告書の提出を不要とした。新型コロナの感染減少につれ、ビジネス面での交流も活発になりそうだ。

489万人 訪日台湾人

日本政府観光局によると、台湾からの訪日客数は2019年に489万人だった。単純計算すると、台湾の人口のうち2割超が訪日したほどの多さだ。11年の約100万人から10年足らずで5倍近くに急増した。台湾には日本に親しみを持つ人が多く、リピーター率も高いとされる。新型コロナが流行した20年以降は訪日客数は激減しているが、感染が収束して往来が正常化すれば、台湾人旅行者の再訪も期待できる。

45.7% 蔡総統の支持率

台湾民意基金会が8月に実施した世論調査で、蔡英文(ツァイ・インウェン)総統の支持率は45.7%だった。台湾独立志向の蔡政権は2016年の発足後、中国との関係悪化を招き、一時は不支持が支持を上回った。19年以降、中国が香港への統制を強めると、対中警戒感から世論の風向きは逆転。蔡氏は20年の総統選で再選を決め、新型コロナ対策の成功も追い風に高めの支持率を維持している。

129億ドル 軍事費

ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、台湾の2021年の軍事費は129億ドル(約1兆7000億円)。統一圧力を強める中国(2933億ドル)と埋めがたい差がついている。台湾は相手とは異なる戦い方で優位に立つ「非対称戦」を念頭に、潜水艦やミサイルの自主開発を急いでいる。22年7月に訪台した米国のエスパー前国防長官は、18年末に終了した台湾軍の徴兵制の復活を提言した。

50年 日台断交の節目の年

2022年は日本と台湾が断交して50年の節目の年にあたる。日本が1972年に「中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府である」と承認し、中国と国交を結んだことを受けて日台は断交し、正式な外交関係は無くなった。ただ、1988年の親日的な李登輝総統の就任や、2011年の東日本大震災の発生後に台湾から寄せられた多額の義援金などを受け、日台の交流は民間レベルを中心にますます深まっている。

(東京=新田祐司、台北=龍元秀明、グラフィックス 荒川恵美子)

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高橋徹
日本経済新聞社 編集委員・論説委員
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ひとこと解説

台湾にまつわる10の数字で、私が最も印象に残ったのは、日台間の貿易総額(約10兆円)です。GDP総額で世界2位の中国に対し、同21位の台湾は24分の1の規模しかありません。しかし日台間の貿易額は4分の1強と差は大きく縮まります。これは日台間だけでなく、世界の貿易関係の中でも同じことがいえます。アジアの新興工業経済地域(NIES)の一角と称された1970年代以降、軽工業から現在のハイテクまで産業高度化を進めながら、国際的なサプライチェーンの中で生き抜いてきた台湾の凄みが凝縮された数字です。
2022年8月17日 10:11 』