ウクライナ南部、戦線中心に 占領地結ぶ要衝 併合懸念

ウクライナ南部、戦線中心に 占領地結ぶ要衝 併合懸念
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR08BZG0Y2A800C2000000/

『ウクライナにおける戦線の中心はザポロジエ原発がある南部に移っている。ウクライナは米国が供与した高機動ロケット砲システム「ハイマース」で、占領地域にあるロシア軍の補給網を攻撃し奪還を急ぐ。主要河川が流れる南部はロシアが実効支配するクリミア半島につながる要衝で、ロシアが併合を目的として形式的な「住民投票」を強行する懸念も強まっている。

ウクライナが南部の奪還を急ぐ背景には、ロシアへの併合を問う「住民投票」を阻止したい考えがある。ロシアは2014年に侵攻したクリミア半島でも住民投票で支持を得たと主張し、一方的に併合を宣言した。住民投票はロシアで統一地方選がある9月半ばの実施が有力視され、ロシアには南部の実効支配を固め、クリミア半島の水源や電力源を確保する思惑もある。

ウクライナの作戦を支えるのがハイマースだ。標的まで誤差2~3メートルで着弾可能とされ、米国が16基の供与を表明した。ウクライナは6月下旬から占領地域にあるロシア軍の弾薬庫や橋に攻撃を重ねた。火力で圧倒する同軍の補給を乱す狙いで、米国防総省高官はウクライナがハイマースで100以上の目標を破壊したと説明した。

ロシアは反発を強めている。国防省はウクライナが米国と調整して標的を定めているとして「米国が紛争に直接関与している」と非難した。9日にはハイマースの弾薬庫を破壊したと主張した。

ウクライナの本格的な反攻には、ハイマース以外の兵器の確保が課題となる。米紙ワシントン・ポストは12日、奪還作戦の失速を報じた。ロシアもヘルソン州で部隊を増強している。ウクライナ軍総司令官は13日、米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長と電話協議し、砲撃能力の支援強化を訴えた。

米国防総省は対空レーダーを標的にする兵器の供与も8日に明かした。防衛研究所の高橋杉雄防衛政策研究室長はハイマースが「切り札ではない」とした上で、ウクライナがロシアの対空レーダーを壊し、航空優勢を確保すれば地上戦を有利に進められるとみる。米欧製の戦車をいつどれだけ投入できるかが次の焦点になるとの見方を示した。

(パリ=白石透冴、小川知世)

ハイマース効果は限定、戦車供与焦点に

防衛省防衛研究所の高橋杉雄・防衛政策研究室長

ウクライナは米国が提供した高機動ロケット砲システム「ハイマース」で、ロシア軍の弾薬庫や橋のような交通の要衝を攻撃している。火力で圧倒するロシア軍の前線に送られる砲弾を減らす狙いで、一定の効果が出ている。ウクライナ軍が南部で反攻を本格化したため、ロシア軍は7月下旬ごろから東部ドネツク州への前進が難しくなっているとみられる。

米国が供与した「HARM(ハーム)」と呼ばれる対レーダーミサイルも反攻を後押しする可能性がある。対空レーダーシステムを標的にする兵器で、ウクライナ軍が使い始めたとの情報がある。ウクライナが航空優勢を確保し、航空機で対地攻撃をできるようになれば、南部の奪還にむけた地上戦を有利に進められる。

もっともハイマースの効果はある分野に限られ、全ての状況を変える切り札ではない。移動する目標や広範囲の攻撃はできないからだ。前線のロシア兵を追い払うには戦車が必要になる。ポーランドがいち早く供与を始めた旧ソ連製の戦車は在庫が尽きつつあるとみられ、次の焦点はドイツや米国製の戦車の供与に移る。

ウクライナが戦闘停止にむけたロシアとの協議を打ち切った理由は首都キーウ(キエフ)近郊ブチャで起きた虐殺にある。占領地域での人道的な扱いが期待できない以上、占領を前提とした協議は始められない。ロシア側が協議を通じてウクライナ政権を降伏させられる見込みを失ったことも、協議が止まった要因だ。ロシアが方針を変えて侵攻を断念するか、朝鮮戦争(1950~53年)のように双方が消耗し尽くすまで協議が進む理由はない。』