防衛費2%、抑止力向上が急務 台湾有事で継戦能力など

防衛費2%、抑止力向上が急務 台湾有事で継戦能力など
岸田改造内閣の課題④
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODE12AMO0S2A810C2000000/

『岸田文雄首相は防衛力の強化を「年末に向けた最重要課題のひとつ」と位置付ける。防衛費を国内総生産(GDP)比2%の水準に増やすことが軸となる。台湾有事の懸念が強まり、本質的に重要なのは実際に機能する抑止力の向上だ。米国との協力や財源などの具体論を巡り、自民党との調整も欠かせない。

ロシアによるウクライナ侵攻は半年近くに及び、なお続く。内閣改造前には中国が台湾周辺の演習で日本の排他的経済水域(EEZ)内に弾道ミサイルを撃ち込んだ。台湾有事が日本に直結することを想起させた。

日本が仮に防衛費をGDP比2%にあたる11兆円ほどに増やしても、中国の2022年度の国防予算の半分に満たない。現実に抑止力を高めるには従来の延長線で積み増すだけでは不十分だ。

「何から何を守るのか」という基本の徹底がまず必要になる。首相は防衛相に任命した浜田靖一氏に防衛力強化を巡る方針を伝達し、そのひとつに「弾薬の確保など継戦能力」を挙げた。

冷戦時は米軍が日本防衛の態勢を整えるまでの数週間を耐えることを基本的な考え方にした。戦闘継続の想定は曖昧で、弾薬は南西諸島の防衛に必要な2カ月分しか貯蔵していない。

しかも弾薬の7割は北海道にあり、南西方面に即応できる配置とは言い難い。

安倍晋三元首相のもとで弾薬の追加などに踏み切ったものの、沖縄や九州などへの備えは途上だ。地元の理解を得ながら必要な保管場所を増やす努力は引き続き求められる。

台湾を巡る緊張の高まりも継戦能力への懸念を浮き彫りにした。中国の軍事演習は日本が輸入する原油の9割が通る台湾南方のバシー海峡に及んだ。日本の石油の国家備蓄は半年分に満たない。

中国のハイテク装備への対処も急務だ。

中国は軍事演習にあわせ沖縄県周辺などで偵察型無人機を飛ばした。民生技術を活用した無人機で日本は後れをとる。「防衛省の予算」にとどまってきた縦割りの防衛予算の弊害などもあり、防衛に役立つ科学技術研究が広がってこなかった。

4兆円規模の科学技術研究費のうち防衛費における研究開発費は3%ほどで、同盟国の米国の15%に見劣りする。

米国は国防総省の下に「国防高等研究計画局(DARPA)」を置き、軍事利用を見据えた先端技術の研究・開発を担ってきた。全地球測位システム(GPS)衛星やインターネットの基盤技術を生み出した。

拓殖大の佐藤丙午教授は「個別の装備品の取得や能力向上の話はでているが日本がどういう防衛戦略を採るかが見えていない」と話す。「どう戦争を抑止するかなどを明確にする構想力が問われている」と指摘する。

足元の政府・与党の増額論は防衛費がGDP比で2%になるかどうかに関心が集中してきた。

自民党最大派閥の安倍派に所属する萩生田光一政調会長は就任直後から「GDP比2%以上を念頭に置く」と強調した。GDP比2%は安倍氏らが唱えてきた経緯があり、安倍派などが重視する。

首相は10日の記者会見で防衛費増を巡り「安倍氏の意見を念頭に置きながら議論を深める」と語った。

一方で浜田氏は「必要な事業をしっかりと積み上げ、防衛力を5年以内に抜本的に強化していく」との見解を示す。「積み上げ」は「GDP比2%ありきではない」との姿勢だと捉えられる。

抑止力を高めるうえでの財源論は積極財政派と財政再建派の主張の違いが絡む。安倍氏らは財源について増税でなく国債の発行で賄うべきだとの立場をとってきた。財務省などには増税論がある。
防衛力強化へ8本柱 防衛省、概算要求最大5.5兆円に

政府・与党は国家安全保障戦略などを改定する年末にかけ、防衛力強化の具体策を協議する。防衛省は8月末までの2023年度予算の概算要求へ柱となる8項目をまとめた。過去最大の5兆5000億円台を計上したうえで、金額を示さない「事項要求」として掲げる方向だ。

相手の攻撃圏外から撃ち込む長射程の「スタンド・オフ・ミサイル」の早期装備を示した。島しょ部などに部隊を迅速に展開する輸送力の整備も重視した。

技術の進展や戦い方の変化を映し、無人機や宇宙・サイバー・電磁波など新領域の分野も重点に置いた。軍事的手段と非軍事的手段を組み合わせる「ハイブリッド戦」に対応するために情報収集力を高める。

弾薬・燃料の確保や部品不足の解消、自衛隊施設の強靱(きょうじん)化といった継戦能力の維持を盛った。国内で装備品の開発や生産、修理などを手掛けられるよう防衛産業の支援も挙げた。

概算要求で示す5兆5000億円台は「これまでの延長線上にある防衛力整備事業」との位置付けだ。人件費や維持費などが軸になる。「防衛力の5年以内の抜本的強化」に資する項目は別建てで事項要求にあげる。

【「岸田改造内閣の課題」記事一覧】

・旧統一教会問題の不信増幅、政策遂行に影 改造内閣発足
・根拠薄れた感染対策、見直し急務 ウィズコロナへ岐路
・揺れるエネルギー安全保障 原発活用、議論は不可避

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小黒一正
法政大学経済学部 教授
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別の視点

戦前の財政基盤は脆弱でした。例えば、『昭和財政史 第四巻-臨時軍事費-』(大蔵省昭和財政史編集室編)によると、日本の過去の戦争(日清戦争以降)において、戦費に占める国債および借入金の割合は、日清戦争が51%、日露戦争が82%、第1次世界大戦が61%であり、太平洋戦争では86.4%にも達しています。国債発行にも限界があり、安全保障上の脅威に対する日本の対応力を増すためにも、平時では、防衛費の増強に関する議論のみでなく、過剰な政府債務を適切な水準まで引き下げることにより、有事に陥っても大規模な国債発行が可能な余力を高める議論も重要と思います。
2022年8月16日 8:59 (2022年8月16日 8:59更新)

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鈴木一人
東京大学 公共政策大学院 教授
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分析・考察

2%枠の話が独り歩きしているのはその通りだと思うが、増えた分を何に使うのかというといきなり弾薬とかスタンドオフミサイルといったお買い物リストが出てくる。大事なのは、どういう防衛戦略に基づいてそれらの装備を必要とするのか、ということ。買い物に行って、目立つ材料を手あたり次第買ったところでちゃんとした料理を作れるわけではない。メニューを決め、レシピがあって、初めて仕入することが出来る。「良いミサイルが手に入ったから、こういう防衛戦略にしよう」という「シェフの気まぐれ防衛戦略」というのがあれば別だが。
2022年8月16日 0:59 』