「悪魔の詩」著者襲撃事件 米イラン間で緊張高まる

「悪魔の詩」著者襲撃事件 米イラン間で緊張高まる
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『【ニューヨーク=弓真名、テヘラン=福冨隼太郎】イラン外務省は15日、小説「悪魔の詩」の著者である作家サルマン・ラシュディ氏が米国で襲撃された事件について、イラン政府の関与を否定した。米国務省はイラン国家機関が同氏に対する暴力を扇動してきたとの非難声明を出しており、事件を巡って両国間の緊張が高まっている。

イラン外務省の報道官が15日、自国政府の事件への関与を否定した。「報道されていること以外に、事件を起こした人物については何も知らない」と説明した。イラン政府がラシュディ氏への襲撃事件について公式に言及したのは初めてとみられる。

事件は12日、ニューヨーク州西部シャトークアで、ラシュディ氏と非営利団体「シティ・オブ・アサイラム」の創設者が登壇したイベントで起きた。シティ・オブ・アサイラムは表現の自由と作者自身の身体的自由を保護することを目的として創設された団体だ。講演直前のラシュディ氏を暴漢が襲い、ナイフで首や腹、片目を約10回にわたって刺した。

米国務省は14日に声明を発表し「イラン国家機関は何世代にもわたってラシュディ氏に対する暴力を扇動してきた。(イランの)国営メディアは同氏の命が狙われたことを喜々として報道している」とイラン側を批判した。

イランの報道官は事件への政府関与を否定しつつも「ラシュディ氏はイスラム教徒の信仰を軽視したことで自ら敵をつくった」として、ラシュディ氏とその支持者は信仰を軽視した責任を負うべきだとの見方を示した。「怒りはイランだけにとどまらず、なお続いている」とし「言論の自由が主張されているが、それによって信仰が軽視されてはならない」と主張した。

米国内ではイランが関与するとされるテロに対して警戒感が高まっていた矢先だった。米司法省は10日、トランプ前大統領のもとで大統領補佐官(国家安全保障担当)を務めたジョン・ボルトン氏の暗殺を計画した疑いで、イラン革命防衛隊員を起訴したばかりだ。今回の襲撃事件をきっかけに、米国とイランの間の緊張がさらに高まる可能性がある。

ニューヨーク州警察は12日、ラシュディ氏殺害未遂の容疑で、ニュージャージー州在住のヘイディ・マタール容疑者を逮捕した。英メディアによると、マタール容疑者はレバノン移民の両親のもとに生まれ、父母は2004年に離婚した。レバノンに帰国した父親を訪ねた後、米国に帰国したが、帰国後は内向的な性格に変わっていたという。複数の海外メディアによると、マタール容疑者はSNS(交流サイト)でシーア派の過激派とイランの革命防衛隊に共感していたとされる。

襲撃を受けたラシュディ氏の容体はいまだ深刻だが、快方に向かっていると15日時点で米メディアは報じている。

ラシュディ氏は小説「悪魔の詩」を1988年に発表した。イスラム教を冒涜(ぼうとく)しているなどとしてイスラム世界からの糾弾を受け、89年にはイランの最高指導者だった故ホメイニ師が事実上のラシュディ氏殺害を命じていた。』