台湾が迫る欧州の覚悟

台湾が迫る欧州の覚悟
風見鶏
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR1017Z0Q2A810C2000000/

『ドイツ空軍が異例の訓練を始める。その名は「ラピッド・パシフィック2022」。遠く離れた太平洋に航空部隊を送る。

主力戦闘機ユーロファイターと空中給油機、戦術輸送機がインドなどを経てシンガポールへ。オーストラリアや韓国、そして9月末には日本に立ち寄り、ドイツ空軍がアジアでも活動できることを証明する。

戦闘能力のある航空機を戦後初めてインド太平洋に展開する狙いはなにか。

「多様性や国際秩序を守る、という価値観を安全保障上のパートナーとともに示したい」と独国防省報道官は取材に答えた。中国へのけん制にほかならない。2021年にフリゲート艦を極東に派遣したのに続く政治メッセージとなる。

中国偏重とされたドイツは変わった。戦後ドイツで平和主義を唱え、共産圏融和策(東方政策)を掲げてきた与党・社会民主党(SPD)が方針を転換した。

強権国家と深く付き合い過ぎるとどうなるか。1970年代から半世紀にわたってエネルギーをロシアに頼ってきたドイツは、いま脱ロシアで四苦八苦する。SPD重鎮のミュラー連邦議会議員(前ベルリン州首相)は取材に力説した。「(ドイツは)中国に依存してはいけない。それが今回のロシア・ウクライナ危機からの教訓だ」

ドイツですら中国離れが進むなか、ほかの欧州諸国は推して知るべし。「目先の心配はロシアだが、長期的には中国の脅威のほうが大きい」(フランスのガトレン上院議員)という見方は欧州政界に広がる。

だからこそ模様眺めをしていた欧州が台湾問題でも米国に寄り添った。

ペロシ米下院議長が台湾を訪問し、中国が実弾を使った軍事演習で応じると欧州連合(EU)のボレル外交安全保障上級代表が批判した。「正当化できない」。フランス外務省も「秩序の尊重」を中国に求めた。

ロシアの脅威に直面する欧州は「大西洋同盟」と称する米国との絆の大切さを再認識した。対ロシアで後ろ盾になってもらう米国。そこが中国と対峙するなら支えざるを得ない――。そう覚悟しつつある。

連携を深める米欧にくさびを打ち込もうと中国は欧州各国に2国間協議を持ちかけているようだ。民主主義陣営の分断を誘うのが強権国家の常とう手段。欧州はのらりくらりとかわす。

台湾は好機とみる。5月、経済部(経済省)の陳正祺・政務次官がリトアニアを訪れ、「産業協力ラウンドテーブル」を開いた。企業の連携を後押ししたい、と同次官は日本経済新聞に意欲を示した。

もっとも欧州経済にとって脱中国は脱ロシアよりはるかに難しい。今秋の共産党大会後に中国が柔軟になるとの淡い期待を抱き、ひとまず中国大陸と台湾が一つの国に属するという「一つの中国」政策は堅持する。

英国の次期首相に名乗りを上げたトラス外相は自他共に認める対中強硬派。それでも「首相として台湾を訪問するつもりはない」と英テレビで宣言した。

ドイツでは親台湾の国会議員が超党派で訪台を計画中だ。この議員団は「ベルリン台北 議員の友達グループ」という妙な名称で活動する。「ドイツ台湾議員連盟」という公的色彩の濃いものに改称しようとしたが独議会に却下されたという。グループ代表のウィルシュ議員が取材に明かした。

極東は欧州にとっては伝統的な関心領域ではない。蓄積が浅いから迷い、試行錯誤しながら対中政策を探る。日本を含めアジアの民主主義陣営にはチャンスといえる。将来の有事に備え、いまこそ欧州との絆を深めるべきだ。

(欧州総局長 赤川省吾)

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