ウクライナがロシアと離れたい経済的な理由

ウクライナがロシアと離れたい経済的な理由
2022年8月13日
原田 泰 (名古屋商科大学ビジネススクール教授)
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/27582

『戦争が終わらなければウクライナの戦後の経済発展はない。プーチン大統領の「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性」という論文を字義通りに解釈すれば、ロシアが戦争をしたのは、ウクライナとロシアは一体でなければならないからだ。しかし、ウクライナはロシアと一体になりたいなどと少しも思っていない。
(Michele Ursi/gettyimages)

 ヘンな思想に凝り固まって暴力的なロシアなんかとはさっさと分かれて、自由になりたいと思っているだけだ。ソ連崩壊前、自分たちと同様に貧しかった東欧諸国は豊かになった。2021年、ポーランド、ハンガリー、ルーマニアの一人当たり実質購買力平価国内総生産(GDP)は3万ドルを超えている。ウクライナは1.3万ドルにすぎない(国際通貨基金(IMF)、 World Economic Outlook Database、17年国際ドル。参考までに日本は4.1万ドル、米国は6.3万ドル)。
民主主義と腐敗と経済発展

 ウクライナがこれまで発展できなかったのは、ロシアを向くか欧米を向くか、国策が定まらなかったからではなく、腐敗が酷いからだという説もある。確かに、ウクライナの腐敗は酷い。

 ウクライナは、民主主義指数で世界167カ国中の86位、腐敗認識指数で世界188カ国中の122位、後述する東欧、ヨーロッパの旧ソ連構成国の中で、それぞれ下から5位と2位である。民主主義の程度が高ければ、報道の自由と野党の活動によって、通常は、腐敗はかなり抑えられる。

 民主主義と腐敗と経済発展の関係を考えるが、その前に、ここで用いる民主主義指数、腐敗認識指数の説明をしておく。民主主義指数は、エコノミスト誌の傘下のエコノミスト・インテリジェンス・ユニットが、各国の政治の民主主義のレベルを5つの部門――選挙過程と多元性、政府機能、政治参加、政治文化、人権擁護――で評価し、かつ統合した民主主義の指数を作っている。数が大きいのが、民主主義の評価が高い。

 トランスペアレンシー・インターナショナルは、世界各地の公務員と政治家が、どの程度汚職していると認識できるかという指数を作っている。この腐敗認識指数(Corruption Perceptions Index)は、毎年ほぼ10の機関が調査したアンケート調査から作成している。10の機関とは、アジア開発銀行、アフリカ開発銀行、ベルテルスマン基金、世界銀行、エコノミストインテリジェンスユニットなどである。

 調査対象は、世界中のビジネスマンと政府の分析専門家などである。調査対象に「一般市民」ではなく、ビジネスマンや専門家を選んでいるのは、彼らが、いわゆる小口の汚職・腐敗よりも、政治資金、談合など大口の腐敗を、より熟知しているからである。数が大きいほど腐敗が少ない。

 両指数とも北欧の国々とニュージーランドが最上位層を占めている。腐敗指数については、シンガポールが世界4位の評価を得ている。ちなみに、日本は民主主義で17位、腐敗で18位である。』

『民主主義指数、腐敗認識指数と一人当たり実質購買力平価GDPの関係を、旧ソ連の欧州地域と東欧の国々で見ると、図1、図2のようになる。これらの指数と1人当たり実質購買力平価GDPの両方のデータが得られる国を選んでいる。民主主義の程度が高いほど、腐敗の程度が低いほど、1人当たりGDPが高くなる。
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 ここでロシアとベラルーシが、民主主義の程度が低いにもかかわらず、1人当たりGDPが大きい例外的な国であると分かる。ロシアについては、石油、天然ガスなどの資源によるものである。

 ベラルーシが高い理由は、おそらく、原油、天然ガス、岩塩などの産出がある程度経済を支えていること(原油、天然ガスは国内消費の数割を賄える程度である)、ロシアから援助を得られていることにあるのだろう。ベラルーシの人口は940万で、ロシアが支えることは可能だろうが、ウクライナの人口は4500万で、ロシアとしては、搾取はしても援助できる規模ではない。

 図1と図2から、当然、民主主義と腐敗の低さとの相関が高いと予想される。それを確認したのが図3である。確かに、民主主義指数が高いほど、腐敗の程度が低くなり、ベラルーシとロシアは、民主主義指数が低い割に腐敗の程度が高くないということになる。

 もちろん、民主主義指数が高いから腐敗の程度が低いのか、腐敗の程度が低いから民主主義指数が高くなるのか、この図だけからでは分からないが、民主主義が報道の自由や野党の活動によって腐敗の程度を低めると解釈した方が自然だろう。
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腐敗が経済発展を阻害する

 民主主義のレベルが高いほど豊かなのか、豊かだから民主主義を実践できる余裕があるのかは分からないが、腐敗の程度が低ければ経済がより発展できるのは自明だろう。賄賂を取らなければ、インフラの建設はそれだけ順調に進む。開発途上国では、事業費の一定割合を賄賂として受け取るマダム/ミスター10%、あるいは100%という権力者がいることもあるが、予算が抜かれなければ、それだけきちんとインフラが建設できる。

 また、国営企業が多ければ、売上はそれだけ政府の意向で変化して、人々のニーズにマッチするものではなくなる。国営企業を民営化すれば、自然と汚職は減少する。また、前述のように、民主主義は当然、言論の自由を含むので、スキャンダルは当然に書き立てられる。『週刊文春』と『週刊新潮』などの週刊誌は、日本の民主主義の増進と腐敗削減に、ひいては経済発展にも貢献している。』

『自由な経済の中に自由でない経済を持ち込めば、それだけ腐敗の余地は高まる。オリンピックとは、オリンピック委員会が、その活動において独占企業を指定して、協賛金を得るという仕組みである。

 東京地検特捜部が、大会組織委の高橋治之元理事、電通元専務が、スポンサー選考の際にAOKIホールディングスからスポンサー選定の見返りに賄賂を受け取ったとして捜査している。AOKI はスポンサー料として約5億円を支払ったが、別途、高橋理事とコンサルタント契約を結び、4500万円を支払った。さらに、高橋元理事が経営するコンサルタント会社に2億3000万円を支払った。

 うち、数千万円は日本セーリング連盟と馬術競技の団体に提供されたが、残りの約1億5000万円は元理事側の手元に残ったという(「組織委元理事に直接要望か AOKI側、五輪事業絡みで」日本経済新聞2022年8月2日朝刊、など)。売上が賄賂で決まるなら、健全な企業活動は低迷し、経済は停滞する。
ウクライナの腐敗は改善される

 ロシアの体制をウクライナ国民が憎んでいるのだから、国営企業は民営化される。言論は自由で野党もあるのだから汚職や賄賂は報道され、批判される。ウクライナの腐敗指数も民主主義指数も大きく改善されるだろう。

欧州先進国の基準では、ポーランドの民主主義も腐敗度も高く評価はされている訳ではない。ポーランドは民主主義で51位、腐敗で42位である。しかし、それでも1人当たりGDPが3万ドルを超えている。ウクライナがポーランド並みになるのは確実である。

 ウクライナも問題を認識し、汚職撲滅のために、オルガルヒ(財閥)の政治献金を禁止し、メディアへの影響力を縮小させる「反オルガルヒ法」を施行し、空席だった特別汚職対策検察庁を指名し、政治に動かされない若い世代の裁判官の登用を進めるという(「ウクライナ副首相、EU加盟「10年以内に」」日本経済新聞2022年8月2日)。』

https://note.com/wedge_op/m/mf04861eb2d69