8月の米国のCPIの結果は? : 机上空間

8月の米国のCPIの結果は? : 机上空間
http://blog.livedoor.jp/goldentail/archives/29397324.html

『前年同月比で、8.5%でした。相変わらずの高インフレでしたが、前月が9.1%で、今月の予想も8.7%だったので、無理矢理解釈すると「アメリカのインフレは鈍化している」と言う事もできるので、昨日はアメリカのニューヨーク・ダウが500ドル以上上昇し、ドル円は2円ほど円高に動きました。NASDAQも3%上昇したので、なんとなくアメリカの経済の底堅さを感じる結果です。

ただし、予想より0.2%程度、前年同月のインフレ率が低かったからと言って、相変わらず高レベルのインフレなのは変わりません。8月の市場というのは、このブログでも何回か書きましたが、枯れ相場で、市場参加者が減るので、外部要因に影響されて、大きく変動します。これで、アメリカの経済は底を打ったとは、到底言えない話ですね。

インフレというのは、慣性のついた巨大な鉄球のようなもので、止めようとしても、簡単には止まりません。過去の例を上げると、FRBの議長であったポール・ボルカー氏は、景気を犠牲にしてインフレを退治しました。14.8%のインフレを20%の政策金利で抑え込んだのです。今回のインフレは、前年同月比で、二桁には乗っていませんが、2.25%という現在の政策金利が、今のインフレを抑え込むのに十分だとは、到底思えません。つまり、今年一杯くらいは、政策金利の引き上げは、断続的に起きるという事です。

そして、今回のインフレの厄介なところは、主な原因が、武漢肺炎による世界的なサプライ・チェーンの混乱による、原料不足による材料費の高騰、ロシアのウクライナ侵攻で起きたエネルギー不足なので、いくら政策金利でインフレを抑制しようしても、効果が限定的な事です。政策的に何をしても、量や数が足りなくて値段が高騰している商品の値段を下げる事はできません。そして、米ドルの政策金利の引き上げは、アメリカ一国の問題では済みません。米ドルが基軸通貨なので、国家の借金というのは、ドル建てで行います。つまり、外債を抱える国の借金が、自動的に金利上昇分の額が増えます。国単位の借金ですから、元の額がでかいので、0.1%の上昇でも額で換算すれば、すごい金額です。

つまり、発展途上国の経済を悪化させるわけです。また、金利の高い米ドルに資金の還流が起きる事で、発展途上国の資金調達が難しくなります。世界の経済にとっても、米ドルの金利が大きく上昇する事は、マイナスなんですね。

長い間、デフレの日本では、なかなかインフレの怖さというのは、実感しにくいのですが、身近な生活に落とし込むと、その恐ろしさが判ります。今、アメリカでは、日本の100円ショップに当たる1ドル・ショップで売っている、最安値の缶詰で食事を済ます人が増えています。生鮮食料品を買う事などは、とっくに諦めて、夜は照明を点ける時間を短縮する為に蓄光機能のある器具を選ぶようになっています。

まぁ、こういう事を書くと、「私の知り合いは、アメリカで暮らしているけど、そんな事は言っていない」という反論がきそうですが、貴方の知り合いは、アメリカの極一部を代表しているに過ぎません。日本人がアメリカを語る時、沿岸部の経済やインフラの整った大都会という、アメリカ全体から見れば、一部の地域をイメージするのと同じです。内陸部の事は、殆ど知らないでしょう。

実際、一度に一週間分の買い物をするのでお馴染みのアメリカの消費行動ですが、その大手スーパーへ行く交通費の捻出が難しくなっている人が増えています。多くは自家用車で向かうわけですが、ガソリンが、週単位で値上がりしているので、必要なだけ補給するのが難しくなっています。なので、自分で運搬費用を負担する必要が無い、周囲の世帯と共同でまとまった量を買う、まとめ買いが人気です。これだと、配達は業者がしてくれるので、ガソリン代が浮くんですね。日本の生協みたいなシステムです。

世論調査によると、多くのアメリカ人が、生活の質の低下を感じていて、健康を犠牲にして、倹約し、生活を支えていると感じている人も増加しています。また、兼業で複数の仕事を抱える人も増えていて、労働時間にすると、14時間/日の労働者も増えています。以前の収入だと物価の上昇に対応できないからです。特に、便利な地域の家賃の上昇は凄まじく、何十年も賃貸で暮らしていた住人が、ホームレスになり、車上生活をしながら通勤する姿も珍しくなくなりました。

で、低いアメリカの失業率なんですが、実態を正確に反映できていないとする説もあるんですよね。例えば、兼業で複数箇所から給料が発生している場合、その事業所単位でカウントされるので、1人の人が3箇所で働くと、就業者が3人と勘定されます。なので、低い失業率って、実態を現していないのではないかという議論があります。それは、雇用統計の非農業分野就業者数についても同じで、この前の数字は、予想の2倍近い良い結果だったわけですが、「この数字って正しいの?」という疑問が、最近では出ています。

それと、良く言われる「アメリカは、インフレだけど、給料も上がっているから、経済は問題無い」説なのですが、ここまでの話で、まったく給料の上昇がインフレに追いついていない事もお解りでしょうし、実は給料がインフレに追随して上がると、インフレは収まらないのです。

インフレで、政府が政策金利を上げるのは、資金調達や借金をしづらくして、景気を冷やし、それによって、需要を抑えて、物価を抑制するというテクニカルな方法でインフレ抑制するのが狙いです。そこで、インフレ連動で賃金が上がると、「需要を抑えて」という部分が発動しなくなるので、少なくても政策金利の利上げでは、インフレ抑制が利かなくなります。金融政策というテクニカルで、経済がコントロールできないという事は、物価の制御ができないという事です。

経済はあらゆる要素を内包するので、その中には矛盾する概念が、いくつもあります。例えば、FRBが強気で政策金利を上げるのは、低い失業率や、順調な雇用、賃金の上昇率が根拠になっています。しかし、それによって、需要が抑制されないのであれば、政策金利を上げる事で、物価の抑制ができない事を意味するのです。とどのつまり、経済は匙加減の問題であり、万能な解決策は無いという事で、根拠と結果が互いに対立する事も、珍しくありません。

そして、アメリカのインフレ問題は、今年に入って始まったばかりであり、過去の例を見るならば、落ち着くまで、数年単位で時間がかかっても、別に珍しい事じゃないし、今よりも政策金利が何倍も上がった例など、探せばいくらでも出てくるという事です。つまり、「始まり」に過ぎない可能性も高いという事です。来年ぐらいには、落ち着くというのは、「希望的観測」に過ぎません。』