[FT]劣勢のブラジル大統領、景気回復追い風に再選目指す

[FT]劣勢のブラジル大統領、景気回復追い風に再選目指す
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『ブラジルの最大都市サンパウロにあるレストランで支配人を務めるイザベル・ダ・コスタさんは、景気の状態を見極めかねている。一方では、新型コロナウイルス禍後の力強い回復が見られ、新しいバーや商店が市内の至る所でオープンしている。

10月の大統領選での再選を目指すブラジルのボルソナロ大統領=ロイター

だが同時に、インフレの進行で一般市民に生活向上の実感はないという。「人は戻ってきている。新しいバーやレストランが開店して、みんながお金をまた使い始めている。でも、インフレは大問題だ。何もかも高すぎる」

10月に大統領選を控えるブラジルで、経済が国内での論戦の中心を占めつつある。各種の世論調査で有権者は繰り返し、過去の選挙で大きな焦点となった犯罪や汚職よりも経済を最も重要な問題に位置付けている。右派のボルソナロ大統領は、最近の経済統計が追い風となることに期待をかけるはずだと政治アナリストは指摘する。

サービス業の力強い回復にけん引され、ブラジル経済は2022年に1.7%の成長となる見通しだ。1月の時点では大手銀行が景気後退を予測する状況だったが、大きく好転した。

コロナ規制解除後の全面再開の中で、政府統計によると失業率は16年1月以降で初めて1桁台に下がり、サービス業の活動は15年以来の高水準に達している。

だが、インフレは年率11.4%と高止まりしている。税率引き下げによる燃料価格の抑制はおおむね奏功したものの、食料価格の高騰が続き、食べ物に不自由する貧困層の国民数千万人に打撃を与えている。過去12カ月の間にニンジンとジャガイモは約70%、牛乳は30%超値上がりした。

雇用増もインフレ高進で所得減

コンサルティング会社MBアソシアドスのチーフエコノミスト、セルジオ・バーレ氏は「雇用は増えたが、給料がインフレで目減りして所得が減っている。それがいま起きている現象だ」と説明する。

ダ・コスタさんは「ガス、電気、家賃など、商売に必要なものを全部足し合わせると、とても厳しい状況になる」と話す。

ボルソナロ氏は国民への支援の重要性を心得ている。政権は7月、総額410億レアル(約1兆1000億円)の支出プログラムを成立させた。最貧困層への月々の現金給付を22年末まで5割増しの600レアルに拡充することや、トラック・タクシー運転手に対する燃料補助金の導入などを盛り込んだ。

だが、ボルソナロ氏の再選への闘いはなおも厳しい状況だ。調査会社ダタフォリャが行った世論調査によると、左派の対立候補であるルラ元大統領が支持率で18ポイントの差を付けている。ここ数週間の他の調査では、元陸軍大尉のボルソナロ氏が1桁台まで差を縮めている状況だ。

世論調査会社クアエストの創業者フェリペ・ヌネス氏は、「経済が好調な国の大統領は再選されやすいというのは事実だ。このところの経済指標はボルソナロ氏の助けになりうるが、彼に勝利をもたらすだけの人心の変化を引き起こすかどうかは何とも言えない」と語る。

ポピュリスト(大衆迎合主義者)のアウトサイダーとして18年の大統領選を制したボルソナロ氏の1期目は、とりわけコロナ対応の誤りなど物議を醸した問題が傷痕を残している。有権者の不支持率は53%だ。

サービス業が活況に

ブラジル経済研究所のエコノミスト、アルマンド・カステラル氏は、景気回復と政府の支出プログラムを受けて「世論調査が示す情勢よりも激しい争いの選挙」になるとみる。

「22年の景気は危ぶまれたよりも良くなっている。失業率は驚くべき速さで下がっていて、その大部分はコロナ禍後の立ち直りが一番遅れたサービス業の回復と関係している」と同氏は指摘する。

政府の公式統計によると、国内総生産(GDP)の60%超を占めるサービス業の活動は1~5月までの間に、交通や観光、レストランが回復するなかで9.4%拡大した。

その上でカステラル氏は、ブラジルにはウクライナ紛争に起因する商品価格の上昇も追い風となり、金融引き締めも予想されたほど成長を阻害していないと付け加えた。

全体的な物価上昇はピークを越えたもようだが、食料品の値上がりが続いていることは低所得の人々がなおも影響を被ることを意味するとバーレ氏は指摘する。

中南米最大の経済大国で見通しが好転することで、21年に国内銀行による景気後退予測を一蹴し、22年のブラジル経済に2.1%の成長を見込んでいたゲジス経済相の正しさを証明するものとなる。

大統領の経済手腕を評価する声も

ゲジス氏は21年11月にフィナンシャル・タイムズ(FT)に対し、「もちろん(銀行は)間違っている。彼らは見誤っているか、政治的に好戦的になっているかのどちらかだ。選挙に影響を及ぼそうとしている」と語っていた。

「(22年のブラジルは)低インフレでゼロ成長よりも、いくらかの成長と弾力的なインフレになる可能性が高い」との見方を示していた。

サンパウロの投資会社ベージャ・インベスティメントスのエコノミスト、カミラ・アブデルマラク氏は、新たな支出プログラムを成立させる前の時期にも、企業従業員への余剰人員に対する基金からの早期引き出しを容認するなど、政府は効果的な景気刺激策を講じていたと強調する。

「そうした施策が国民の所得を押し上げ、ある程度の経済成長を生み出すことにつながる」という。

大西洋に面するエスピリトサント州の内陸部で好業績のレンガ工場を経営する58歳の実業家、パウロ・アルベルト・セイベルさんは、ボルソナロ氏は景気を回復させた手腕を評価されるべきだと思っている。

「ブラジルは成長していないと言われているが、私たちは生産が追いつかない状態だ」

だが、筋金入りのボルソナロ支持派であっても、インフレの痛みを無視することはできない。「ディーゼル燃料がもう少し安ければ、もっといい状態になるのだが」

By Bryan Harris and Michael Pooler

(2022年8月7日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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