米国「半導体法」成立の陰にインテル 復活は予断許さず

米国「半導体法」成立の陰にインテル 復活は予断許さず
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『米国で半導体産業に巨額の補助金を投じる新法が9日に成立した。政府の産業への介入に慎重だった米国で、大きな政策転換を陰に日なたに後押ししてきたのがインテルだ。1年半にわたる法案をめぐる攻防は一段落するが、同社が一翼を担い米国が半導体の生産で復権を遂げられるかは予断を許さない。

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9日午前、ホワイトハウスのローズガーデン。半導体の生産や研究開発に527億ドル(約7兆1000億円)を投じることを盛り込んだ「CHIPS・科学法」にバイデン大統領が署名した。式典の招待客のなかでもとりわけ感慨深かったのは、インテルのパット・ゲルシンガー最高経営責任者(CEO)のはずだ。

ゲルシンガー氏は2021年2月、約11年ぶりに古巣のインテルに復帰してCEOに就いた。同社は半導体の性能を左右する微細化で出遅れたことなどが響き、停滞感が強まっていた。半導体業界で生産を外部に委託する水平分業型が広がるなか、同氏は自社生産の拡大を巻き返し策の柱に据えた。

CEOに就任した翌月にはアリゾナ州で200億ドルを投じて工場を建設することを決め、さらに22年1月にはオハイオ州への工場進出も表明した。工場では自社製品に加えて、他社から受注した製品の生産を請け負う。大型投資に際して活用をもくろんだのが、20年半ばから米議会で検討が進んでいた補助金だった。

インテルが議会に提出した報告書によると、同社のロビー活動費は20年7~9月期まで5四半期連続で前の四半期を下回ったが、その後は増加基調をたどっている。22年4~6月期は過去最高となる175万ドルに達した。4~6月期の報告書には具体的な活動内容として「半導体生産を対象とした連邦補助金」と明記している。

トップによる議員や政府高官への働きかけも激しさを増した。米ウォール・ストリート・ジャーナルによると、インテルは21年7月にホワイトハウスの近くでゲルシンガーCEOらが出席するパーティーを開催。同氏は今年7月の米ワシントン・ポストのイベントでも「きょうも朝から3人の議員と話した」と説明している。

揺さぶりもかけた。22年6月、上下院による法案の調整が長引いて先行きに暗雲が垂れ込めると、オハイオ州の新工場の起工式を延期する考えを内々に地元に伝える。有力企業に巨額の補助金を支給することに慎重だった民主党のバーニー・サンダース上院議員が「恐喝だ」とかみつく場面もあったが、どうにか成立にこぎ着けた。

「重要な一歩だが、始まりにすぎない。中国が台頭するなか、米国の競争力を最優先する必要がある」。クリントン政権時代から米産業界の支援を手がけ、現在は情報技術・イノベーション財団の理事長を務めるロバート・アトキンソン氏は法案を歓迎する。中国への対抗に加え、大規模な政府支援による半導体不足の解消を期待する声も多い。

懐疑的な見方もある。500億ドル規模の補助金を投じても米国の半導体生産の世界シェアはほとんど変わらないとの業界推計があるほか、米スタンフォード大学のアラン・サイクス教授は「供給不足が法案を後押ししたが、現在の問題は間もなく解消される可能性が高く、一方で将来は予測が困難だ」と指摘する。

さらに、補助金の適切な分配が課題だ。サイクス教授は「勝者と敗者を選別するための政府の努力は資源の散逸を招き、十分な成果が得られない可能性が高い」との見方を示す。10年ほど前にはオバマ政権が中国に対抗するために太陽光パネル分野で補助金を投じたものの成果を上げられず、こうした事例と比較する向きも出てきた。

補助金の獲得にメドを付けたものの、インテルの経営は足元で厳しさを増している。7月末に発表した22年4~6月期決算はパソコン向けの販売減速や製品出荷の遅れが響いて13年ぶりの営業赤字になった。決算説明会でゲルシンガーCEOはこうつぶやいた。「再建に向けてやることがたくさんある。ワシントンで過ごす時間は減らすことになるだろう」

(シリコンバレー=奥平和行)

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