中国、米並み「科技強国」へ ヒト・カネ戦略投資で3冠

中国、米並み「科技強国」へ ヒト・カネ戦略投資で3冠
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC051NM0V00C22A8000000/

『中国が米国に匹敵する科学技術大国の地位を固めつつある。文部科学省の研究所が9日に公表した科学技術指標では、これまで米国しか達成していなかった科学技術論文の量と質に関する3指標で3冠を達成した。ヒトやカネを戦略的に投じ、2050年までに目指す米国並みの「科技強国」実現へ着々と歩みを進めている。

「科学技術の命脈をしっかりと自らの手中に握り、我が国の成長の独立性と自主性、安全性を絶え間なく高めていく」。習近平(シー・ジンピン)国家主席は6月28日、湖北省武漢市の半導体関連企業を視察した際、科学技術の競争力向上の重要性を強調した。台湾問題も絡み米中対立が先鋭化する中、習指導部は米国の制裁に影響を受けない独自の経済構造の確立を目指す。その基盤となるのが科学技術力だ。

今回、科学技術論文の量と質の3指標で世界首位に立ったことで、自国の宇宙ステーション建設などの大型の科学技術プロジェクトにとどまらず、基礎的な科学研究でも独自の成果を生み出す体制を構築しつつあることが浮き彫りとなった。

脱炭素に向けた重要な基礎技術などでも成果をあげている。例えば安価な新型のペロブスカイト太陽電池では、エネルギー変換効率などの性能で韓国などと世界首位を競う。各国の科学技術力の分析を手掛ける鈴鹿医療科学大学の豊田長康学長は「トップ論文を連続して出している研究者も増えているので、中国のノーベル賞受賞者はいずれ増えるだろう」と予測する。

中国が科学技術分野で急速な成長を遂げたのは、政府主導で戦略的に資金を出し、人材育成を進めてきたためだ。中国共産党中央と国務院(政府)は16年に発表した科学技術の長期戦略で「50年までに世界の科技強国になる」ことをめざした。

習指導部はこれまで売上高の拡大を最重視していた中国の国内企業に対して研究開発強化を急ぐように指導。日米中の科学技術政策に詳しい東京大学の合田圭介教授は「スピード競争の科学技術研究では、トップダウンで予算投入や政策を迅速に決められる中国の政治体制が有利に働く面がある」とみる。

資源の集中投下は際立つ。中国の20年の研究開発費は前年比7.5%増の59兆円と10年で約2.5倍に増えた。米国の研究開発費は72兆円で世界首位だが、伸び率の大きい中国が迫りつつある。研究者数では中国が228万人(20年)と2位の米国の159万人(19年)、3位の日本の69万人(21年)を大きく引き離している。

中国は次に何をめざすのか。中国政府は21年3月に定めた25年までの5カ年計画では、欧米に比べて劣勢とみられる人工知能(AI)、量子情報、半導体、脳科学、遺伝子・バイオテクノロジーなどの強化を掲げた。「中国は科学より技術を重視しており、ノーベル賞級の大きな発見につながる基礎研究は米国の方が優位」(東大の合田教授)とされてきたが、研究開発費に占める基礎研究費の比率を21年の6.1%から8%以上に引き上げ、加速させる。
課題もある。米中対立や中国の「ゼロコロナ」政策を受け、中国から米国への留学者数は減少している。中国でも「研究者のテーマ設定で制限を受けるなど自由な発想を妨げる要素が増えてきた」(外国人研究者)との指摘もあり、習指導部の統制が今後の研究を阻害する恐れもある。

存在感の低下が止まらないのが日本だ。研究開発費や研究者数をみると、米中に次ぐ3位だが近年の伸びは鈍い。特に人材育成には課題が多い。博士号の取得者は、米国や韓国では00年度、中国は05年度に比べて2倍以上に増えているのに対し、日本は06年度をピークに減少傾向が続く。合田教授は「内外を問わず優秀な研究者が日本で活躍しやすい研究環境を提供すべきだ」と話す。

日本政府は21年度から5カ年の「科学技術・イノベーション基本計画」で若手研究者の処遇改善や運用益で大学の研究活動を支える10兆円の大学ファンドなどを進めるが、その結果がどう実るかは不透明だ。

(北京=多部田俊輔、福岡幸太郎、松添亮甫)

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山崎俊彦
東京大学 大学院情報理工学系研究科 准教授
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このような記事を拝見するたびに、「日本」を議論するとき、(1) 日本から世界に飛び出して活躍する日本人がどれだけいるか、 (2) 日本にきて活躍したいと思ってくれる国際人材がどれだけいるか、の2点が抜けていないかと気になります。例えば米国の国力を牽引するのは優秀な外国人たち。中国は日本と同じように比較的国際色が少ないだろうと思われるかもしれませんが、中国の大学は積極的に他国からの留学生を受け入れています。世界中に人材を送り出し、そしていつかその人達が中国に戻ってさらに活躍していることは言わずもがな。そうすると、この数字に出ていないところでも注意しなくては行けない可能性も。
2022年8月10日 8:27 (2022年8月10日 19:47更新)

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中空麻奈
BNPパリバ証券 グローバルマーケット統括本部 副会長
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別の視点

予算額だけが成功の鍵ではないが、予算額が大きく計上されることは成功のために必要なことの一つである。予算を投下する政府の意思がはっきりすれば、民間に迷いがなくなるのも確か。資金力が“モノをいう”面も否めない。米国も中国も、これからの成長や覇権のためには科学技術が欠かせないと判断しているわけだが、日本でも骨太にて量子、AI、バイオものづくり、再生・細胞医療・遺伝子治療等のバイオテクノロジー・医療分野は国益に直結すると宣言してもいる。総理官邸に科学技術顧問も設置することになっており、同じ分野で鎬を削ることになる。どう使うか、どこに使うか。日本は効率的資金投下を意識する必要がある。
2022年8月10日 8:42

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永浜利広
第一生命経済研究所 首席エコノミスト
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別の視点

欧米でも、「サプライチェーン強靭化」や「戦略的自律」を標榜して、産業政策を展開してます。
背景には、中国のハイテク分野で技術力向上が顕著となり、米中の技術覇権をめぐる争い等があります。
そして、戦略産業の育成やグローバル・サプライチェーンの見直し等、各国で経済安全保障に関する取り組みが強化されており、欧米でも競争力のある新産業育成と技術イノベーション政策を重視しています。
また、世界的なカーボンニュートラルの加速により、再・新エネ、スマートシティ、革新的エネ・環境技術開発が進展しており、結果として海外で新たな産業政策が台頭するのは当然の帰結といえるでしょう。
2022年8月10日 8:23

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柯 隆
東京財団政策研究所 主席研究員
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こうしたニュースを目にするたびに、違和感を覚える。自由が大幅に制限される国は科学技術強国になるのか、というのは第一の疑問。そして、予算を積み増すことで科学技術強国になれるのか。さらに、中国は人口大国なので、技術者の人数が多いのは事実だが、最先端の人材が何人いるか、それを生かせられるのかが疑問。中国人はやる気があって、頭脳として世界一流だが、行動制限がされているのは残念。なによりも、技術革新は政府主導で実現するのか。少なくとも中国のビッグテック企業のいずれも民営企業であるという事実を忘れてはならない。毛時代の大躍進のような技術革新は実現しないのでは
2022年8月10日 7:09

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川島真
東京大学大学院総合文化研究科 教授
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ひとこと解説

本文にある「2050年までに科学技術強国になる」という目標は、中華人民共和国成立100周年にあたる2049年に「社会主義現代化強国」となり、「中華民族の偉大なる復興の夢」を実現するという政策目標と連動しています。今や中国共産党は、革命、豊かさ、ナショナリズムに続く四番目の正当性の源として「科学技術」を加えているようです。科学技術の向上は、軍事安全保障、経済などを支えるだけでなく高齢化や人口減少圧力がかかる中国にとっては切り札になります。単純労働を自動化、無人化することなどがそこに含まれます。ただ、スタートアップなどの「自由な空間」を統制せずに維持できるのかということなど、まだまだ課題山積です。
2022年8月10日 7:00 』