中南米 「第2のピンクタイド」 コロンビアも左派政権へ 各国政権で多様性も 低下する米の影響力

中南米 「第2のピンクタイド」 コロンビアも左派政権へ 各国政権で多様性も 低下する米の影響力 – 孤帆の遠影碧空に尽き
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『【「第2のピンクタイド」 2000年代初頭の「ピンクタイド」で右派・親米政権を維持していたコロンビアも左派政権へ】
南米コロンビアで6月19日に行われた大統領選決選投票で、左翼ゲリラ出身で元ボゴタ市長のグスタボ・ペトロ上院議員(62)が中道の独立系候補を退けて当選し、8月7日、正式に大統領に就任しました。

****コロンビアで初の左派大統領就任 格差解決と左翼ゲリラ和平訴え****
コロンビアの大統領に7日、グスタボ・ペトロ元首都ボゴタ市長(62)が就任した。同国では左翼ゲリラと政府軍の内戦が長年続いた歴史があり、左派大統領は初めて。

上院議員も務めたペトロ氏もかつては一部の左翼ゲリラに参加。ボゴタでの就任式演説では分断された国の統合を約束し、貧困と格差の問題や気候変動の問題のほか、根深い左翼ゲリラ問題の解決や残る和平交渉再開を進める意向を改めて示した。

米国が主導した長年の麻薬戦争については、この失敗を認めることが肝要だとし、麻薬取引撲滅の国際的な取り組みを新たに進めることを呼びかけた。【8月8日 ロイター】
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このコロンビアにおける左派政権誕生が象徴しているのは、ラテンアメリカの揺れ動く政治体制です。

かつてラテンアメリカでは、1999年のベネズエラでのチャベス政権の成立後、2000年にチリのラゴス政権、02年にブラジルのルーラ政権、05年にボリビアのモラレス政権、06年にエクアドルのコレア政権と続々と左派系政権が成立し、「ピンク・タイド」と呼ばれていました。

多くの国では「共産化」するほど過激ではないことからレッドではなくピンクという表現が用いられています。
外交面では、概ね左派政権はアメリカに対しては批判的、距離を置く姿勢でした。

****ピンクタイドの特徴****

「ピンクタイド」とは、このように2000年前後に中南米地域の多くの国において次々に右派政権から左派政権に変わった現象のことを示している。

左派政権における政府は、各国で程度の違いはあったもののアメリカやIMF、世界銀行による介入を批判し反ネオリベラリズムや反帝国主義を掲げた。

そして、政策としては格差を減少させ、貧困問題の改善に取り組むことを目指した。また、複数の国の経済では西欧諸国の社会民主主義を掲げ、自由市場経済と福祉国家の両立を目指した。【2020年2月13日 GNV Saki Takeuchi氏「中南米:揺れ動く政治体制」】

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その「ピンクタイド」の潮流のなかで、コロンビアは保守・親米政権を維持した例外的な存在でした。

やがて「ピンクタイド」の流れは衰退し、チリ、ブラジル、ボリビア、エクアドルでは右派政権が成立し、振り子は右に揺れ戻すことに。

****ピンクタイド衰退の原因****

このように左派政権下において様々な改革が行われ、社会保障や貧困の改善など社会状況に大きな変化をもたらした。しかし、2009年にホンジュラスで左派のマヌエル・セラヤ氏に代わり右派の大統領が政権を握り始めた。それ以降、中南米の複数の国で次々に右派政権が誕生した。なぜこのように「ピンクタイド」の動きが弱まるようになったのか。詳しくみていこう。

まず、中南米諸国における経済の後退が挙げられる。2008年のリーマンショック以降、世界的に石油や鉱物資源への需要が減少し市場価格が下がっていった。中南米諸国はこの石油や鉱物資源の収入により好景気を作り上げていたため大きな打撃となった。

経済成長が止まり、各国の経済状況が悪化した。一方で政府は公的な支出を制限するようになった。経済悪化に伴う影響で人々の生活状況が厳しい状況に置かれるようになり、日々の生活への不満からデモが発生する国も現れた。

経済危機の最も極端な例ではあるが、ベネズエラではハイパーインフレションによる経済危機から深刻な人道危機に陥っている。このような状況下で中南米諸国の左派は政権を維持することが難しくなった。【同上】

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しかし、右派政権においても各国の貧困は改善せず、大きな格差が国内に存在し、そして政治の腐敗は相変わらず・・・という状況で、コロナ禍の経済的打撃と、ロシアのウクライナ侵攻が引き起こした猛烈なインフレという経済情勢もあって、再び右派政権から左派政権に転換する「第2のピンクタイド」と言うべき政治現象が起きています。

その流れのなかで、2000年代初頭の「ピンクタイド」で右派・親米政権を維持していたコロンビアも冒頭記事にあるように、ついに左派政権へ転じることになりました。

****中南米に左派政権次々、コロナとインフレ契機****

中南米はコロンビアで初の左派大統領が誕生し、ブラジルも10月の大統領選に向け左派候補が有利に選挙戦を進めるなど、「ピンクの潮流」と呼ばれた2000年代初頭の左傾化を思わせる動きが強まっている。

中南米では、新型コロナウイルスのパンデミックによる経済的打撃と、ロシアのウクライナ侵攻が引き起こした猛烈なインフレに怒った有権者が主流派政党に見切りをつけ、「大きな政府」と財政出動の公約に引き寄せられている。

「左派政権は希望そのものだ」と話すのはコロンビアの首都ボゴタの小学校教師で、19日の大統領選決選投票を制した左派のペトロ氏を支持するグロリア・サンチェスさん(50)。「国民を、貧しい人々を人間と見なす政府は初めてだ」と賞賛を惜しまない。

中南米では、既にメキシコ、アルゼンチン、チリ、ペルーなどで左派が政権を握っており、これにコロンビアが加わった。さらにブラジルでは左派でルラ元大統領が世論調査で極右の現職、ボルソナロ氏をリードしている。

チリやコロンビアなどで保守派の牙城が覆され、政治的断層が動いたことで、穀物や金属から経済政策、さらには米国や中国といった主要パートナーとの関係まで幅広い分野に影響が及びかねない。

ブラジルの左派・労働党のウンベルト・コスタ上院議員は「政府ごとに微妙な違いはあるが、中南米では実に重要ではっきりした動きが起きている」と言う。

チリでは今年3月に急進派のボリッチ氏(36)が大統領に就任。ペルーでは昨年、社会主義者で元教師のカスティジョ氏が大統領に就いた。ボリビアは保守派が短期間、暫定的に政権の座にあったが、2020年の総選挙で社会党が勝利した。

元祖「ピンクの潮流」の象徴的存在だったボリビアのモラレス元大統領は、コロンビアでのペトロ氏勝利について「中南米左派の旗を掲げる社会的良心と連帯の高まり」を表すものだとツイートした。

<注目の的・ブラジル>
注目の的となっているのがブラジルだ。10月に大統領選が実施されるが、ポピュリストで極右の現職・ボルソナロ氏への不満が高まっており、左派政権が誕生する可能性がある。

左派のアレクサンドレ・パディーリャ議員は「ボルソナロ氏との戦いで左派は息を吹き返した」と述べた。反ボルソナロ氏の動きが若い有権者を引き付け、政治的・経済的現状に抗議する人々を結び付けているという。

同議員は「世界中で経済や政治に携わる人々が、不平等を深める結果となった一連の新自由主義的な政策を見直す必要がある、と気づきつつあるのだと思う」と指摘した。

だが、今回のピンクの潮流は、ベネズエラのチャベス氏やボリビアのモラレス氏など過激な左派が台頭した前回と大きく異なっている。

ペルーのカスティジョ氏は昨年半ばの大統領就任以来、中道に振れ、自身の与党との関係がぎくしゃくしている。チリのボリッチ氏は穏健な経済政策を模索し、左派の権威主義的な体制を批判している。

流れが変わる可能性もある。アルゼンチンでは中道左派のフェルナンデス大統領が2023年の選挙に向けて圧力にさらされている。ペルーのカスティジョ大統領はたび重なる弾劾提案と戦っており、チリのボリッチ氏の支持率は就任以来、低下している。

エコノミスト・インテリジェンス・ユニットのアナリスト、ニコラス・サルディアス氏は「もし、今選挙が行われたら、こうした『ピンク』政権の多くは消滅するだろう」と話した。「支持基盤は盤石ではない」という。

コロンビアの一般有権者の多くは単に、自分とその子どもたちのために、より良い生活を求めていた。望んでいるのは勉強や仕事の機会だ。

ボゴタで商店を経営するペドロ・ペドラザさん(60)は「左派とか右派とかはよく分からない。私たちは労働者で、そういうことはどうでもいい。働きたい、そして子どもたちには自分たちよりもいい生活をしてほしい」と言う。「タダで何かが欲しいわけではない。働いて成功し、貧困から抜け出せるような環境が欲しい」と述べた。【6月25日 ロイター】

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【“ピンク”ではくくりきれない多様性も】

多くの左派政権は「支持基盤は盤石ではない」だけでなく、「左派政権」「ピンク」でくくりきれない多様性があるとの指摘も。

****ラテンアメリカの左派政権続出は不安要因か****

(中略)18年のメキシコでのロぺス・オブラドール(通称AMLO)政権の成立後、19年にアルゼンチンのフェルナンデス政権、20年にボリビアのアルセ政権、21年にペルーのカスティージョ政権、今年、ホンジュラスのカストロ政権、チリのボリッチ政権と再び左派政権が続々と成立し、更に、コロンビアでは5月、ブラジルでは10月の大統領選挙でそれぞれ左派候補のペトロ及びルーラの当選が有力視されており、一見、新たな「ピンク・タイド」が押し寄せているようにも見える。  

元メキシコ外務大臣のカスタニェーダは、Project Syndicateのサイトに4月8日付けで掲載された論説‘Latin America’s New Pink Tide?’において、現在の左派指導者を、

(1)キューバ、ニカラグア、ベネズエラの独裁的指導者

(2)アルゼンチンのフェルナンデス、チリのボリッチ、大統領復帰が有力視されるブラジルのルーラ等の社会民主主義指導者

(3)メキシコのロペス・オブラドール、コロンビアの有力大統領候補ペトロ、ペルーのカスティージョ等を国家主義や民族主義に基づくポピュリスト指導者

として、3つのカテゴリーに分類している。

そして、これら左派政権指導者の間には実質的な違いがあり、その違いは、その類似性よりも重要であるので最近の左傾化は「ピンク・タイド」ではなく、このような多様性はラテンアメリカにとって幸運なことだと結論付けている。  

論点は、左派政権の続出という状況を、地域や世界の政治バランスに影響を与える重要なパラダイムシフトと認識すべきか否かであろう。

かつての「ピンク・タイド」においては、チャベスが反米と社会主義の過激なレトリックでリーダーシップを発揮し、ブッシュ政権の全米自由貿易協定構想を粉砕し、当時のブラジルやアルゼンチンなども同調して、11年には米国から自立した地域統合を目指す、「ラテンアメリカ・カリブ共同体(CELAC)」が正式に発足するなど地域情勢に大きな影響を与えた。  

最近の左派政権の間には、正にカスタニェーダが指摘するように、多様性ともいえる大きな相違があり、また政策的に分裂しており、反米姿勢と言ってもその程度には大きな差があることから共通点とも言い難く、地域情勢に大きな影響を与えることが懸念されるものともならないであろう。  

例えば、国連緊急特別総会のウクライナ問題に関するロシア非難決議とロシアの人権理事会資格停止決議については、同じ左派政権の間でその投票行動は明確に分裂している。アルゼンチン、ペルー、ホンジュラスは全てに賛成しており、恐らくチリのボリッチ政権も同様の立場であろう。

メキシコは、後者の決議には棄権し、ブラジルのルーラ候補もBRICSの関係等から恐らく同じ立場(現政権と同様)を取るのではないかと推測される。

キューバ、ニカラグア、ボリビアは、ロシア非難決議に棄権、人権理事会資格停止決議には反対した(ベネズエラは分担金未払いで投票権停止中)。  

アルゼンチンやチリの左派はニカラグア政府の人権侵害を非難しており、その人権重視の姿勢は、独裁化への歯止めとなるものとして評価できると考える。

必要な選挙介入と強権化への注視

問題は、今後、政権維持のため選挙介入を行い、議会で絶対多数を取れば強権化していく可能性のある政権が無い訳ではなく、中国やロシアが影響力を強めている状況の下で、国によっては、地域の安定を損ねる動きや独裁のトロイカに取り込まれるような懸念があることであろう。

独善的な傾向を強めるAMLOのメキシコやペトロが大統領となった場合のコロンビアの外交政策は要注意と思われる。  

このような傾向への懸念は、エルサルバドルやブラジルのボルソナーロなど右派のポピュリスト政権にも存在する。したがって、ピンク・タイド現象が無いとしても、また、政治的多様性がラテンアメリカにとって幸運だとしても、この地域の情勢に安心できるわけではない。【5月6日 WEDGE】

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【低下するアメリカの影響力】

上記のようなラテンアメリカの政治状況のなかで、アメリカの指導力は低下し、独裁政権の増加、欧米からの離反、中国の更なる影響力の拡大も懸念されています。

****米国の影響力低下が進むラテンアメリカでの悪循環****

最近のラテンアメリカでは、長期的には経済構造に起因し短期的にはパンデミックに原因する経済停滞や格差、治安悪化や汚職に対する国民の不満を背景に、既成政治家に対する反発、左右両極端のポピュリズムによる分断といった現象が見られている。

その結果、選挙では政権党が敗れ、左派又はポピュリスト政権が成立し、改善しない状況の中で政権の強権化が支持されるといった悪循環も見られている。

このような状況が続けば、ラテンアメリカにおける独裁政権の増加、欧米からの離反、中国の更なる影響力の拡大が懸念される。

6月上旬にロサンゼルスで行われた米州サミットでは、主催国米国は、ベネズエラ、ニカラグア及びキューバは、民主主義や人権に問題があるとして招待せず、これに抗議して、メキシコ、ボリビア、エルサルバドル、ホンジュラス、グアテマラの大統領がサミットを欠席した。

これらの国も外相等を代理で出席させたこと、アルゼンチン、チリ、ペルー等の左派系大統領や当初欠席が懸念されたカリブ海諸国首脳が出席したことで、一応格好をつけたが、直前までこれらの出席問題でもめたことや移民問題について地域の一体的取り組みがサミットの重要課題であっただけに、移民問題に関係深いメキシコ等の首脳の欠席はバイデンの顔を潰すものとなった。

バイデンとしては、ウクライナ危機の下で民主主義を守るとの外交方針の筋を通した点は評価できるが、バイデン政権発足当時より新たなラテンアメリカ政策を打ち出す舞台となることが期待されていた米州サミットが、結果的には、米国の影響力の低下を印象付けるものとなった。

また、このサミットで、当初出席が危ぶまれていたボルソナーロとバイデンの初めての会談が実現したが、どうせ会うのであれば、バイデンはもっと早く会うべきであったであろう。

ラテンアメリカ域内の多くの国に政権の強権化の動きや政治的混乱の傾向が見られる。メキシコ大統領は、最近選挙管理委員会に対するいわれのない非難を強めており、グアテマラやエルサルバドルの大統領も強権化の傾向を強めている。そして10月のブラジルのボルソナーロとルーラの対決は、イレギュラーな動きの可能性も含めて予断を許さない。

加えて、6月19日に行われたコロンビアの大統領選挙決選投票は、左右のポピュリストの間の不毛の選択となったが、極左候補のペトロが勝利し、米国は南米におけるもっとも信頼できる盟友を失い、今後、二国間関係の悪化やベネズエラを巡る情勢への影響等も懸念される。米国は、この地域への政策を改めて見直す必要があろう。

ラテンアメリカ諸国の民主主義を立て直すことが必要で望ましいのはもちろんであるが、結局のところそれぞれの国民の自覚と自助努力に待つしかない。

協力保つ努力も無駄ではない

バイデン政権は、左派政権の中でも、米州サミットに首脳が出席した、アルゼンチン、チリ及びペルーの政権、或いは、ホンジュラスのカストロ政権などとは、人権や反汚職、犯罪対策、気候変動対策といった面では波長が合うはずである。

コロンビアではFARCが武力闘争を止めた空白に麻薬組織が急速に力をつけて進出しており、ペトロは麻薬対策で米国と対立している暇はないのではないかとも思う。

従ってこれらの面で左派政権とも協力関係を保ち、民主的な傾向を助長することも1つの方策であろう。

また、米州サミットで、バイデン政権は、域内各国が移民問題に取り組むロサンゼルス宣言を採択し、公衆衛生に関するアクションプランの採択、投資動員・サプライチェーン強化・クリーンエネルギーによる雇用創出等経済面でのパートナーシップの強化、カリブ諸国への気候変動問題への協力などでのイニシアティブを発表し、特に中米を対象に投資誘致を通じた雇用機会の増大や職業訓練の拡充等の貢献案を提示した。

地味で具体性に不足しており、ラテンアメリカの現状にインパクトを与えるには十分とはとても言えないがそのような努力を続けていくことも無駄ではないであろう。【7月15日 WEDGE】

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なお、上記のいくつかの記事でも触れられているように、ブラジルの次期大統領選挙では左派のルラ元大統領が“変人”ボルソナロ大統領に圧勝するであろうと予測されていますが、その差が縮小しているとの報道も。

“ブラジル大統領選、ルラ氏のリードが1桁台に縮小=世論調査”【8月9日 ロイター】
そのあたりは、ブラジルを取り上げる機会があれば、そのときに。』