[FT]移民への魅力が薄れた英国、人材獲得競争でも不利に

[FT]移民への魅力が薄れた英国、人材獲得競争でも不利に
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB0282S0S2A800C2000000/

『われわれは今起きていることは昔から変わっていない、といとも容易に思い込みやすい。英国各地で観測される30度以上の気温、選挙でおおむね左派政党に投票する高学歴の人たち、高齢化で人口危機に直面している日本やイタリアーー。
出生率が高い移民のおかげで英国は長い間、国としての活力を維持してきた=AP

だから英国が1985年時点ではイタリアや日本よりもかなり高齢化が進んでいたことは意外に思えるかもしれない。当時の英国は65歳以上が人口の15%を占め、高齢化率が欧州で2番目に高かった。これに対しイタリアは13%で、日本はわずか10%だった。

それから37年。英国は欧州で4番目に若い国だ。欧州連合(EU)の平均よりおよそ2%高かった高齢化率は逆に2%低くなった。

何が若返りの秘薬になったのか? 主として移民だ。筆者の試算では、もし英国がこの間ずっと国境を閉じていたら、人口に占める年金受給者の割合は現在の19%ではなく22%に上がっていたとみられる。既に減っている労働人口は今よりさらに25%ほど少なかっただろうし、医療・社会制度はもっとガタガタで、働き盛りの5人に1人が抜け落ちていただろう。

実際はそうはならず、生産年齢にあたる人たちが常に国外から入ってきた。移民の出生率は数世代にわたって英国人より高い傾向にあるので、他の欧州諸国は人口ピラミッドが逆三角形に近づいても英国は40年以上、極めて安定感のある形を維持できた。
移住先としての人気、2位から7位へ

だが、英国がこの点でいかに恵まれていたか、あるいはこの恩恵を享受し続けることがいかに難しそうなことか、気づいている人はほとんどいない。

15年前、米調査会社ギャラップが別の国に恒久的に移住したいかどうかを尋ねる国際調査を始めた。最初の3回の調査では、英国は移住先として米国に次ぐ人気があった。ところが4回目はEU離脱の是非を問う国民投票を控え、移民排斥の主張がかまびすしくなっていた時期だったこともあり、英国はカナダやドイツにも抜かれて4位に甘んじた。直近の調査では7位に落ち込んだ。

英国は若い世代の起業家や発明家、科学者、医者にとって魅力が薄れつつある。一方、そうした高度人材の獲得競争は一段と激化している。

主に先進国の課題だった出生率の低下は、社会・経済発展の広がりとともに世界的な問題となった。出生率の低下が起こっていないのはアフリカのチャドだけだ。より多くの先進国で移民に対するニーズがこれまで以上に高まっているが、移民はいつまでも増え続けるわけではない。

これを踏まえると、2人の英首相候補が移民排除を訴え、互いをけん制しようとしているのは自殺行為といえる。

今のところ、英国は移民の流入が比較的高水準で、傾きかけた船は彼らのおかげで何とか沈まずにいる。ただ流入は頭打ちになった。移民への経済的な優遇策を減らし、国を率いる政治家が反移民の姿勢を強めても、国力を維持していけると考えるのは甘いだろう。移民への厳しい姿勢を言い募ろうとするなら、誰が聞いているか注意した方がいい。

By John Burn-Murdoch

(2022年8月5日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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伊藤さゆり
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 研究理事
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ひとこと解説

英国国家統計局の試算によれば、21年6月までの1年間の累計で、EU市民の純流出入(流入−流出)は純流出に転じた。しかし、EU以外からの流入は増えたため、全体の純流入は前の1年間の26万人から24万人の微減にとどまる。
EU離脱以前から言われていたことだが、英国経済は、移民の流入で活力を維持してきた。労働需給の調整の面でもEUとの労働の自由移動の恩恵が大きかった反動で足もとの労働力不足は深刻だ。
保守党政権の移民政策を巡っては、難民をルワンダに移送する政策が物議を醸している。
「コントロールを取り戻す」というブレグジットの約束を実践しなければならないことが政策を縛り、問題解決を難しくしている。
2022年8月8日 12:38 (2022年8月8日 14:06更新) 』