[FT]台湾海峡の緊張、世界の供給網の大きなリスクに

[FT]台湾海峡の緊張、世界の供給網の大きなリスクに
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB072KI0X00C22A8000000/

『中国は、同国が領有権を主張する台湾をペロシ米下院議長が訪問したことに反発して軍事演習を始めた。それは、輸出に大きく依存する台湾を封鎖する軍事作戦の予行演習のようにみえた。一部の貨物船は航路の変更を余儀なくされた。運休した航空便もあった。

演習区域の半数が海峡の内部や近隣

演習が実施された6つの区域のうち3つは、台湾海峡の内部あるいは近隣にある。中国と台湾を隔てる台湾海峡は、最も狭いところの幅が130キロメートルにすぎない。この海峡は、世界第2の経済大国の中国と、第3の日本を結ぶ主要な航路だ。中国―欧州間の航路の要衝でもある。さらに技術大国、韓国の貿易ルートで、製品をアジアの工場から世界の消費者に届けるうえで大きな役割を担う。

「中国が一段と強硬な姿勢を示し、台湾海峡を封鎖しようとする状況は(国際物流の)大きな障害になる」と、英船舶仲介ブレーマーの筆頭アナリスト、アヌープ・シン氏は解説する。「影響は広範囲に及ぶ」

中国が台湾海峡と東シナ海で実施した今回の大規模演習は、1995年から96年にかけての台湾海峡危機の際の演習に比べ、かなり大きな規模だが、期間は短くて、数日間だけだ。それでも、地域の緊張は今後、長期化するとみられている。

中国は、米下院議長としては25年ぶりとなったペロシ氏の訪台を、米国が「一つの中国」政策を「空洞化」しようとしている姿勢の証左だと主張する。この政策は、米国が北京の共産党政権を中国で唯一の政府だと認める一方、中国の台湾に対する領有権を、受け入れるわけでなく、認識するという内容だ。

「台湾海峡における中国の軍事演習が長引き、常態化すれば、台湾の対外貿易と世界のサプライチェーンには大きな障害となる」と、ロンバー・オディエのアジア地域マクロストラテジスト、ホミン・リー氏は推測する。

世界のコンテナ船の5割が通過

米ブルームバーグのデータによると、世界のコンテナ船の5割と、排水量規模で最大級の船舶の88%が2022年、この海峡を通過した。

ブレーマーのシン氏は、海上での実弾射撃訓練について、「極めて普通」だが、これほど通航の多い地域ではふつう、避けると指摘する。同氏によれば、台湾海峡を通過する船が載せる原油や石油製品は日量で計100万バレルに達する。「この海域は、非常に混雑している」

中国による実弾射撃訓練の実施が伝えられると、少なくとも2つの大手船主会社が自社の船舶に台湾海峡を避けるように指示したと、シン氏は明かす。

「ほとんどの同業他社が足並みをそろえるだろう」と、シン氏は予想する。

船舶・航空会社は海峡の回避や運休を指示

アジア太平洋の全域に演習の影響は広がる。日本郵船は、台湾海峡を避けるよう(自社の船に)求めた。大韓航空は4日から5日にかけ、ソウルー台北便をすべてキャンセルした。韓国のメディアによれば、同国のアシアナ航空もソウルー台北便を運休した。香港のキャセイパシフィック航空は「状況を注視している」と表明した。

演習は台湾の2つの主要港の近くでも実施された。これで台湾からの海上貨物輸送が長期間、妨害されれば、世界貿易は打撃を受ける。

世界のハイテクサプライチェーンにとって台湾は不可欠の存在だ。台湾積体電路製造(TSMC)の先端半導体製造能力は世界の90%に達する。米アップルの製品を受託製造する富士康科技集団(フォックスコン)をはじめとする川下の受託生産企業は、電子部品だけでなく、スマートフォンからサーバーまで様々なエレクトロニクス製品を製造し、世界の大手メーカーに納入している。

英調査会社キャピタル・エコノミクスによると、台湾の輸出の4割が中国と香港に向かう。中国との緊張がさらに高まれば、台湾経済は壊滅的な打撃を受けることになる。中国はすでに、数千品目におよぶ台湾からの農産品の輸入停止を発表した。

「台湾が一定期間、封鎖されるような深刻な事態に陥れば、ハイテク産業の世界規模のサプライチェーンが維持できるとは思えない」と、トライオリエント・インベストメンツのダン・ニステッド副社長は警戒する。

「少なくとも3兆ドル(約400兆円)から4兆ドルに相当する生産が止まる可能性がある」

米ゼネラル・エレクトリック(GE)などを顧客に持つ香港の物流企業ジャネル・グループのポール・ツイ社長は、顧客企業が、ペロシ氏訪台によるビジネスへの打撃を不安視していると話す。

「台湾海峡の緊張がエスカレートすれば、輸送にかなりの費用と時間がかかり、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を上回る可能性すらある」と、ツイ氏は語った。

By William Langley, Chan Ho-him & Thomas Hale

(2022年8月5日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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