台湾有事の侵攻シナリオとは

台湾有事の侵攻シナリオとは 防衛研の門間氏に聞く
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM072I20X00C22A8000000/

『中国の台湾周辺での軍事演習からみえる台湾侵攻のシナリオとは。日本の安全保障にどのような影響が及ぶのか。中国情勢に詳しい防衛省防衛研究所の門間理良・地域研究部長に話を聞いた。

日本の南西諸島を戦域として視野に

中国人民解放軍の台湾周辺の軍事演習を振り返りわかったことは、台湾有事の際は日本の南西諸島を戦域にすることを既に決断しているとみられることだ。日本の排他的経済水域(EEZ)に軍事演習エリアを設定し、弾道ミサイルを撃ち込んだのは、日本の反応を探るためだ。

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防衛研究所の門間理良・地域研究部長

日本政府が強く反発しなければ、台湾有事において日本は弱腰であり、南西諸島の防衛に熱心でないと判断して台湾北部・東部の空・海域を自由に使い台湾を攻めるだろう。沖縄県・与那国島などを占領する可能性もある。

1996年の台湾海峡危機よりも大いに強化された中国軍はこれまでにない規模で台湾に対する演習を実施した。96年は米国が空母機動部隊を出したことで、事態はほぼ収束したが、今回は米軍もやや遠慮気味だった。それだけ中国軍が強くなっているとみているためだろう。

まだ中国は米国と本気で事を構えたくない

一方で、ペロシ米下院議長が台湾を去った後に演習を開始した点も注目すべきだ。まだ米国と本気で事を構えたくないとの意思表示だ。大規模なサイバー攻撃がミサイル演習に先立ってあり、それがいまも継続している。中国軍が目指す統合作戦に向けての動きと言える。ミサイル発射の状況や空軍戦力の出し方から判断して、中国軍はまだ本気ではないこともわかる。

ロケット軍やサイバー攻撃を担う戦略支援部隊と海軍、空軍の連携状況は情報が少なくはっきりしないが、統合作戦演習を念頭に置いていると推定される。今後は、この種の演習を増やしていき、練度を上げつつ台湾への軍事的圧力を高めることを狙うだろう。台湾軍の対応は課題を残した。少なくともサイバー攻撃には明らかに弱かったことを世間的にも露呈してしまった。

台北急襲を念頭に演習

演習の北部エリアは台北を急襲することを念頭においている。この海域に上陸用部隊を集めることが念頭にあると思われる。南部エリアからも上陸し、南部の台湾軍を引き付けて、北部に救援に向かわせない想定だ。

北部・南部いずれも上陸好適地の沖合が演習エリアに設定された。96年の危機時よりも本島に接近したエリアが設定されているのも上陸作戦を意識したと考えられる。

東部エリアは、米軍の空母機動部隊をけん制しつつ、自らが展開することを考えたものだ。ミサイルを撃ち込む数が現時点で他のエリアより多い事実が裏付けている。

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台湾海峡側のエリアは統合作戦演習を実施するためと分析する。エリア設定全体で見れば、米軍や自衛隊の介入阻止も含めて、これだけの空・海域を抑える必要があると中国軍は判断しているようだ。

発射した弾道ミサイルは台湾本島攻撃用の「DF-15」が中心のようだ。対艦弾道ミサイルなどは使用していないもようで、能力を全部見せることはしていない。発射数、時間などから判断すると、台湾本島攻撃に考えられている飽和攻撃にはほど遠い。

中国が開発した新型の空中給油機「運油20」が出てきたのには大いに注目すべきだ。台湾本島付近の空域での戦闘機の活動時間を長くして、帰投する際に安全空域に戻った戦闘機に燃料を補給することを念頭においている。

台湾の離島上空を無人機が飛んだ。中国からすると大陸に至近なので運用しやすい。台湾軍の状況を探るために情報収集型のドローンを多数送り込むことは十分考えられる。

(聞き手は北京=羽田野主)

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青山瑠妙
早稲田大学大学院アジア太平洋研究科 教授
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ひとこと解説

軍事演習中、日本のEEZに中国の弾道ミサイル5発が着弾した。これをめぐっては、概ね三つの解釈が取りざたされている。一つ目は誤った着弾という解釈で、中国の軍事力を疑うものである。二つ目はバシー海峡を狙った軍事演習と合わせて、台湾有事における日米の介入を阻止するためと見るものである。三つ目は日本の沖縄をも視野に入れた動きと見るものである。いずれにしても門間氏が指摘するように、日本として強く反発する必要がある。しかし、台湾海峡をめぐる緊張関係が高まるなかで、中国の真の狙いはどこにあるのか。日本には高度のインテリジェンス能力が求められており、また中国との意思疎通の窓口を円滑にする必要もあるだろう。
2022年8月8日 10:41 』