中国、台湾の「進攻演習」実施発表 終了は明らかにせず

中国、台湾の「進攻演習」実施発表 終了は明らかにせず
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『【北京=羽田野主】中国の人民解放軍が4日から始めた台湾周辺での大規模演習が7日正午(日本時間同日午後1時)、終了予定時刻を迎えた。中国軍東部戦区は7日、台湾周辺の海空域で「島しょ進攻作戦」の演習を実施したと発表。演習が予定通りに終了したかは明らかにしなかった。演習はペロシ米下院議長の台湾訪問に反発して始めたが、内容は練り込まれており、以前から周到に準備していた可能性が高い。

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台湾周辺の軍事演習に絡み、中国軍が「進攻」という言葉を使うのは異例。中国軍は多数の戦闘機を出動させ、地上への打撃と長距離の空中での攻撃の能力について重点的に演習したことも明らかにした。終了を発表しなかったのは、演習の常態化に含みをもたせることで台湾側に揺さぶりをかける狙いがあったとみられる。

台湾の国防部(国防省)の7日の発表によると、同日午後5時(日本時間午後6時)までに台湾海峡周辺で中国軍の航空機66機、艦船14隻が確認された。航空機のうち12機は台湾海峡の事実上の停戦ライン「中間線」を台湾側に越えた。

中国南部の福建省に近い金門島周辺では7日夜、所属不明のドローン(無人機)1機の飛来を確認した。国防部は演習が終了したかについて「(中国側の)発表があるまで確認できない」としている。

中国が台湾周辺で大規模に演習をするのは1996年の台湾海峡危機以来。当時と決定的に違うのは、台湾の東方と南東に演習エリアを設定し、6カ所から包囲する形を築いたことだ。台湾海峡もエリアに指定しており、台湾の封鎖を想定したのは間違いない。

台湾の国防部によると、演習期間中に中国が発射した弾道ミサイルは11発。防衛省は9発の行方を公表している。そのうち5発が台湾東方に着弾しており、重視した演習エリアであることがわかる。米第7艦隊など米軍の救援を阻むことを想定した訓練とみられる。

台湾南西のバシー海峡に近い演習エリアにも2発落とした。バシー海峡は中国軍が台湾東方に回り込んだり、西太平洋に進出したりするうえでの要路にある。

国防大学の孟祥青教授も中国国営中央テレビ(CCTV)で「南の演習エリアはバシー海峡に近い」と指摘し、有事に「封鎖」も視野に入ると指摘した。南シナ海から米空母が北上してくるのを防ぐ目的もありそうだ。

演習には最新型のステルス戦闘機「J20」や「J16」、「スホイ30」などが投入された。あまり目立たないが安全保障関係者が注目するのは中国が開発した新型の給油機「運油20」の存在だ。

戦闘機や爆撃機の作戦範囲を約3割アップさせる能力を持つとみられており、中国軍は台湾のはるか東方に展開し、米軍を待ち構えることも可能になる。中国は台湾海峡にも演習エリアを設け、有事の封鎖の可能性を印象づけた。

96年の台湾海峡危機で台湾東方などに演習エリアがなかったのは、中国側にカバーするだけの能力が不足し、台湾海峡側に注力をせざるを得なかった事情もある。中国は当時と比べ国防費を約20倍に増やし、軍事技術も飛躍的に向上させた。

中国大陸からの正面侵攻作戦も強化した。中国軍は7日まで5日連続で台湾海峡の中間線を越えた。

中間線は米国と台湾が防衛条約を締結した1950年代に米軍が台湾防衛のために引いたラインに由来する。中国側は公式に認めていないものの、中台間の「暗黙の了解」として運用されてきた。今回の演習をきっかけに「無効化」を試みているとの指摘がでている。

台湾侵攻に際して中国軍が上陸しやすいポイントは台湾西部など一部に限られる。中間線突破の訓練には戦闘機だけでなく艦船も参加しており、上陸作戦と連動している可能性が高い。中国の初の空母「遼寧」と初の国産空母「山東」を動かし、台湾海峡側と東側の両サイドから挟み撃ちする姿勢もちらつかせた。

演習中の4日間は船舶や飛行機の進入を禁止し、台湾は封鎖状態に陥った。なぜ4日間だったのか。中国軍の内情に詳しい関係者は「米軍が国内手続きを終えて台湾に到着するまで7日間程度と見積もっている」と話したことがある。米軍の介入までに一気に制圧する短期決戦を見込んで演習計画を立てた可能性がある。

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渡部恒雄
笹川平和財団 上席研究員
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分析・考察

今回の綿密に準備された台湾周辺での軍事演習を観察すると、中国共産党と人民解放軍は、単なるペロシ米下院議長の訪台への反発や、中国の国威発揚と習近平主席の面子を守るといった政治的な動機だけではなく、台湾を併合するための具体的な軍事計画として綿密に計画されていることがわかります。おそらく現時点では中国側に軍事侵攻で台湾を確実に併合するだけの実力はないはずで(5年後はわかりませんが)今後も着実に能力向上にまい進していくでしょう。日米と国際社会が、この情勢をみて、それを抑止するための努力を行わないのであれば、その不作為の責任は歴史的に問われることになるでしょう。

2022年8月8日 9:04

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滝田洋一
日本経済新聞社 特任編集委員
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ひとこと解説

折しも元防衛相や自衛隊の元幹部らが参加する台湾有事を想定した机上演習が6~7日と、都内で実施されています。日本戦略研究フォーラムの主催で、昨年に次いで2回目。昨年の分は『自衛隊最高幹部が語る台湾有事』(新潮新書)として書籍化されています。今回のシミュレーションの大きなチェックポイントは3つ。①平時でも有事でもない「グレーゾーン事態」から沖縄県・尖閣諸島での不測の事態発生②邦人退避や台湾からの避難民対応③中国の核による脅迫への対処――。シナリオに基づいて、日本の防衛体制が抱える課題を探っていると日経は伝えています。台湾をめぐる事態が切迫するなか、問題点を具体的に洗う作業は重要性を増しています。

2022年8月7日 9:44 (2022年8月7日 13:53更新)』