セルビア EU加盟は目指すもののロシアとの強い関係 依然として続くコソボとの不安定な関係

セルビア  EU加盟は目指すもののロシアとの強い関係 依然として続くコソボとの不安定な関係 – 孤帆の遠影碧空に尽き
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『【欧州とロシアの間でバランス】
欧州の火薬庫とも呼ばれ、多くの民族のるつぼでもあるバルカン半島にあって、旧ユーゴスラビア諸国のひとつセルビアは、コソボなど周辺国との紛争を経て現在はEU加盟を目指してはいますが、ロシアと親和性が高い国で、4月に再選を果たした現政権も親ロシアの性格があります。

セルビアは、スラブ系住民やギリシャ正教の信者が多いというロシアとの類似点があり、コロナ禍にあっても、ブチッチ大統領はロシアのプーチン大統領に直談判し、ロシア製ワクチンを調達しています。

何よりも、旧ユーゴスラビア諸国の分離独立の戦争にあって世界中から“悪者”にされたセルビアをロシアが一貫して支持・支援したことはロシアとの深い政治的つながりとなっています。一方、NATO軍からは空爆を受けた経緯もあります。

現時点においても、セルビアの自治州だったコソボ(2008年に独立宣言)をセルビアは未だ国家として承認していませんが、コソボが目指す国連加盟に安全保障理事会常任理事国のロシアが拒否権を行使してくれるという期待がセルビアにあります。

****対ロ融和的、現職再選=セルビア大統領選****
旧ユーゴスラビア構成国セルビアで3日、大統領選の投票が行われ、ロシアに融和的な現職のブチッチ大統領(52)が再選を確実にした。任期は5年。同時に行われた議会選(一院制、定数250、任期4年)でも、ブチッチ氏率いる右派与党、セルビア進歩党が勝利する見通しとなった。

出口調査によると、大統領選でブチッチ氏は約6割の票を獲得した。進歩党の議会選での得票率は4割と、第1党の座を維持した。ブチッチ氏は「多くの人が投票し、セルビア社会の民主性を示してくれたことをうれしく思う」と表明した。

ブチッチ氏は欧州連合(EU)加盟を目指す一方、ロシアとの関係も重視。ロシアのウクライナ侵攻を非難する国連総会の決議では賛成にまわったが、対ロ制裁には加わらず、欧州とロシアの間でバランスを取ることに腐心してきた。【4月4日 時事】
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【ロシアとの強いつながり】
“欧州とロシアの間でバランス”というのは、言うは易し行うは難しといったところです。
民族的・文化的にロシアに近いことから、どうしても国民感情的にはロシアに傾きやすいところも。

****ロシアのプロパガンダ、反NATO・反米のセルビアを席巻****
ウクライナ人のリュボフ・マリッチさん(44)が、セルビア人の夫との結婚に終止符を打つ決め手になったのはロシアのプロパガンダだ。

12年間連れ添ったマリッチさん夫婦には以前から隙間風が吹いていたが、今年2月にロシアがウクライナを侵攻して以来、夫はロシアのプロパガンダをうのみにするようになった。ウクライナの民族音楽は「ナチズム信奉者」のものだと言い始め、息子に聴くことを禁じた。

「夫はロシア人以外のすべての人を非難し始めました」とマリッチさんはAFPに語った。程なくしてマリッチさんは荷物をまとめ、戦禍に見舞われているウクライナに帰国した。

セルビアは北大西洋条約機構(NATO)への嫌悪と反米感情が強く、ロシア政府のプロパガンダを受け入れる国民も少なくない。

ほとんどの欧州諸国がロシアメディアを規制する中、セルビアでは多くの場合、国営メディアもロシア政府の主張を垂れ流しにしている。

「真実はその間のどこかにあると思うのですが、誰もそれを伝えようとしません。だからロシアと西側両方のメディアを追い掛け、行間を読むようにしています」と、グラフィックデザイナーのダリオ・アシモビッチさん(27)は言う。「彼ら(西側)はロシアメディアを遮断しているので、他方の意見を聞かない。結果として人々は、疑心暗鬼を抱くようになるのです」

■プーチン氏の「神格化」
セルビアのメディアはアレクサンダル・ブチッチ政権の見解に従うことを強いられ、わずかに残る独立系メディアも常に当局に圧力をかけられている。

ウクライナ侵攻開始前、セルビアの大手タブロイド紙「インフォーマー(Informer)」は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領を称賛する記事を数多く掲載。侵攻2日前には「ウクライナがロシアを攻撃」と報じた。

「セルビアの親政府系のプロパガンダ機関は、プーチン氏を個人崇拝する空気をつくり出している。ブチッチ氏に対するものの比ではない」とノビサド大学のディンコ・グルホニッチ)准教授(ジャーナリズム)は指摘する。「プーチン氏は、まさに神格化されている」

セルビアの首都ベオグラードを拠点とする、民主主義の推進団体「Crta」による最新の世論調査では、セルビア国民の約67%がロシアに「シンパシー」を感じていると答え、75%は「NATOが拡大を目指したせいで」ロシアは戦争に追い込まれたと回答。

セルビアは長年、欧州連合(EU)加盟を目標としてきたが、代わりにロシアと同盟を結ぶべきだと答えた割合は40%に上った。

この調査報告書をまとめた研究者のブヨ・イリッチ氏は「政府寄りのメディアは明らかにロシアに肯定的で、EUには中立的、ウクライナには否定的だ」と説明する。「EUに頼らなくても、ロシアという選択肢があれば、セルビアはやっていけるとの論調を有権者に示している」

■「西側の言うことは真実ではない」
セルビアとロシアはともにスラブ系で、正教徒が多く、文化的・歴史的なつながりは何世紀にも及んでいる。ベオグラードでは、プーチン氏の顔をあしらったTシャツが土産物店で売られ、ロシアの対ウクライナ侵攻の象徴となっている「Z」の文字があちこちの壁に書かれている。

1999年のコソボ紛争におけるNATO軍の旧ユーゴスラビア空爆は、今も多くのセルビア人に深い傷を残している。

年金生活者のティホミール・ブラニェシュさん(73)は、「西側のメディアは信用できない」とAFPに語った。「戦争中、セルビア人について報道された内容を覚えている。私たちはまるで動物みたいに描かれていた。当時も真実ではなかったし、今、ロシア人について(西側で)言われていることも真実ではない」

これに対し、駐セルビア・ウクライナ大使は「セルビア国民は正しい情報を得ていない」と抗議の声を上げている。
しかし、セルビアでウクライナ紛争に関する正確な情報を入手するのは容易ではない。マリッチさんのようにウクライナ人であれば、自国から生の情報を得ることができるが、それでもセルビアにあふれる偽情報やあからさまなプロパガンダに惑わされずにいるのは難しい。

「彼らのプロパガンダは非常に巧妙で、5分も読めば、自分の考えの方がおかしいのではないかと思えてきます」とマリッチさんは話した。【7月23日  AFP】
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「西側のメディアは信用できない」「戦争中、セルビア人について報道された内容を覚えている。私たちはまるで動物みたいに描かれていた。」云々には一分の真実もあります。

当時セルビアに深刻な非人道的行為があったのは事実ですが、戦争ですから相手側にも多少は・・・・。
しかし、メディアを駆使して国際世論に訴える情報戦略でセルビアは徹底的に“悪者”にされ、その責任を全て押し付けられ、NATOから空爆を受けるという結果に。もちろんセルビア側に多くの責任はあったでしょうが、国民感情的には「どうして自分たちだけが悪者にされるのか?」という不満はあるでしょう。

ロシアとの関係では、セルビアのブチッチ大統領は5月29日、ロシアのプーチン大統領と電話会談し、新たに3年の天然ガス供給契約で合意したと明らかにしました。

セルビアとロシアとのつながり、そんな両国への周辺国の反発が噴出したのが下記の事件でした。

****ロシア外相、セルビア訪問中止 周辺諸国が領空閉鎖****
ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は6日、セルビア訪問を予定していたものの、周辺諸国が搭乗機の領空内飛行を拒否したため、中止を余儀なくされた。ロシア政府関係者が明らかにした。

ロシア通信各社は、外務省のマリア・ザハロワ報道官の話として「セルビアの周辺諸国が、セルビア行きのセルゲイ・ラブロフ外相の搭乗機が領空内を飛行することを認めず、通信を断った」と伝えた。
「欧州連合や北大西洋条約機構の加盟国が領空を閉鎖した」という。

セルビア紙は、領空内飛行を拒否したのはブルガリア、北マケドニア、モンテネグロだと報じている。

ラブロフ氏はセルビアのアレクサンダル・ブチッチ大統領、ニコラ・セラコビッチ外相、セルビア正教会のポルフィリエ総主教と会談する予定だった。

EU加盟を目指しているセルビアは、ロシアによるウクライナ侵攻を非難した一方で、EUによる対ロ制裁には加わっていない。 【6月6日 AFP】
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【中国とも急接近】
また欧米との対立があるところには必ず中国が忍び寄る・・・ということで、セルビアにも。

****セルビアに中国が地対空ミサイル納入 NATO境界に緊張****
親ロシア派政権が続く旧ユーゴスラビアのセルビアに、中国が地対空ミサイルを納入したことが、14日までに明らかになった。AP通信などが報じた。

セルビアは北大西洋条約機構(NATO)加盟国クロアチアやルーマニアに隣接しており、ウクライナ紛争のさなかに緊張が高まっている。

セルビアに納入されたとみられるミサイルは、中国が開発した紅旗22(HQ22)で、最大射程170キロ。10日に、中国軍の輸送機がベオグラード空港に入ったのが確認された。中国外務省の報道官は11日の記者会見で、セルビアに通常兵器を送ったことを認め、「第3国との協力計画に沿ったものだ」と述べた。

セルビアは伝統的な親露国。中国とも近年、軍事、経済で急接近しており、2020年には、攻撃機能のある中国製無人機を導入した。昨年春には、魏鳳和・国務委員兼国防相がセルビアを訪問し、戦略的関係の強化で合意している。

一方で、セルビアは欧州連合(EU)にも加盟を申請中。ロイター通信によると、ドイツ外務省報道担当者は12日、「EU加盟候補国は、EUの外交安全保障方針に加わるべき」として、セルビアの動きをけん制した。旧ユーゴでは1990年代に民族紛争が続き、中国によるセルビアの軍事支援は、地域の緊張を招くとの懸念が出ている。【4月14日 産経】
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【コソボとの不安定な関係 ささいな事柄でもすぐに緊張へ】
分離独立をめぐって激しく戦ったセルビアとコソボはともにEU加盟を目指していることもあって、加盟の条件となる関係修復に向けた動きも2年前にはありました。

****セルビアとコソボ、EU加盟「最優先」=関係正常化協議で確認****
旧ユーゴスラビア構成国セルビアのブチッチ大統領と、2008年に同国からの独立を宣言したコソボのホティ首相は7日、ブリュッセルで会談し、欧州連合(EU)の仲介による関係正常化の協議を続けた。会談前には共同声明で「EUへの統合(加盟)と、EUが支援する対話の継続を最優先する」と表明した。

両氏は米ワシントンで4日、トランプ大統領立ち会いの下、経済関係を正常化する合意文書に署名した。ただ、共同声明では、今後もEU主導の協議を続け、加盟条件を満たすために「包括的で法的拘束力のある関係正常化の合意」を目指すことを確認した。

双方は7月に約20カ月ぶりに協議を再開した。今回はコソボ内でのセルビア系住民の扱いなども議論。月内に再び首脳が会談することを決めた。【2020年8月8日 時事】
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そのセルビアとコソボの関係が再び緊張しているとの報道が。直接の問題自体はささいなことがらのようですが、そうしたことがすぐに軍事的緊張につながりかねないあたりが、両国関係の不安定さを示しています。

****コソボとセルビアが軍事衝突の危機? その原因とは****
7月31日夜、コソボの状況は、急激にエスカレートした。その原因は、未承認国の警察が隣国セルビアとの国境の検問所を閉鎖し、8月1日以降、コソボ領内で、セルビア語で記された書類が禁止されることになったことにある。

このため、セルビア語表記の自動車のプレートが、強制的に撤去されるという事態が発生した。一体、何が起こっているのか。

状況は暴動に変わり、いくつかの場所では、銃撃へと発展した。この地域では民族紛争がさらに複雑化している(コソボの主な住民はアルバニア人だが、北コソボではセルビア人が過半数を占めている)。

コソボ当局は特殊部隊を国境に結集させた。セルビア人は主要幹線道路に集まり、コソボ警察が制圧するのを妨害するためにバリケードを組み始めた。

セルビアのアレクサンダル・ヴチッチ大統領は、コソボでの緊張が緩和されることを期待し、そのために同国政府は出来るすべてのことを行うと表明した。

西側諸国が話し合いを呼び掛けたが、コソボ当局は、セルビア語のプレートと書類を使った入国禁止措置を9月1日まで1カ月延期した。(後略)【8月1日 SPUTNIK】
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****欧州の紛争リスク、バルカン半島にも****
コソボとセルビアの対立が再燃、ロシアが付け入る恐れも

コソボとセルビアの間で先週末に対立が再燃したことを受け、北大西洋条約機構(NATO)と欧州連合(EU)は急いで緊張緩和に乗り出した。一部の政治家や専門家は、欧州の一層の不安定化を狙うロシアがコソボとセルビアの対立を利用する可能性があると懸念している。

平和維持のためコソボに駐留しているNATO軍は7月31日、コソボとセルビアの国境貿易をめぐる手続き上のもめ事が言い争いのレベルを超えて激化するのを防ぐため、介入する可能性があると警告した。

コソボ当局によると、セルビアとの国境付近に暮らすセルビア系住民とコソボ警察の間でにらみ合いが続いていた中で、31日に複数の銃声が響いた。けが人は出なかったという。

かつてセルビアの一部だったコソボは、流血の惨事となった短期間の紛争が終結した後、2008年に独立を宣言した。この紛争では、セルビア軍をコソボから撤退させるため、NATO軍がセルビアを空爆した。コソボとセルビアの根深い対立は今も続いている。特にセルビア系住民が多数派のコソボ北部での対立は深刻で、そこでは首都プリシュティナにあるコソボ政府の支配がほぼ及んでいない。

コソボとセルビアの対立が再び表面化したことで、安全保障上の新たな危機を巡るEUの管理能力が試される可能性があると専門家は指摘する。EUは既にロシアによるウクライナ侵攻への対応に追われている。

米国と友好関係にあるコソボには国連の委任で4000人近いNATO軍兵士が駐留している。一方のセルビアはロシアと緊密な協力関係にあり、文化・宗教面でも関係が深い。コソボ駐留NATO軍の報道官は31日、「安全保障が脅かされれば」NATOには介入の用意があると語った。

ロシア政府の報道担当者は国営メディアに対し、ロシアはセルビアの立場を支持するが、紛争には介入しないと語った。

今回の対立激化は、コソボが定める自動車のナンバープレートと関連書類の取得を義務付けられたことにセルビア系住民が抗議して、31日にコソボ北部の道路を封鎖したことがきっかけとなった。

コソボのアルビン・クルティ首相は今回の緊張がセルビアからもたらされた「違法構造」によるものだと非難し、それが意図的にコソボで問題を引き起こしていると指摘した。

セルビアのアレクサンダル・ブチッチ大統領は31日、記者団に対し「われわれは平和を願うが、これだけは言っておく。降伏はしない。勝つのはセルビアだ」と述べた。

対立は31日夜に和らいだ。クルティ首相は国境での行政上の変更について、実施を1カ月間延期することに同意した。協議はEUのジョセップ・ボレル外務・安全保障政策上級代表が仲介した。この変更は、セルビアと結んだ相互的な合意の一環として実施することになっていた。ボレル氏は31日、「未解決の問題は、EUが仲介する対話を通じて処理されるべきだ」とツイートした。

今回の問題は、セルビアとコソボの間でさまざまな論点をめぐってくすぶる対立の一部だ。トランプ前米政権は二国間で包括的な合意を結ぶための仲介を試みたが、その後3カ国の全てで新たな指導者が選出されたため、暫定的な合意は破棄された。

セルビアのEU加盟に向けた取り組みはほぼ頓挫している。EUとの関係を深める上での前提条件である、隣国との紛争解決ができていないためだ。加えて、米国と大半の西側諸国はコソボを国家として承認しているが、自国で分離主義勢力と対立しているスペインなどは承認を拒否している。そして重要なことに、ロシアと中国がセルビアの側に立ち、コソボの国連加盟を阻止している。

ウィーンに本拠を置く同地域専門のシンクタンク「Institute for Human Sciences」の終身研究員であるIvan Vejvoda氏は、小さな行政上の変更でさえ主権の問題だと捉えられ、今回の対立の原因になったことは、二国間関係の不安定さを反映していると述べる。

同氏によると、EUは加盟国が隣接する西バルカン地方の和平に向けて長年苦労してきた。同地方の取り込みに失敗すれば紛争につながり、ロシアや中国などの外国勢力がそこに付け入る可能性があるという。

「ロシアは、EUおよび西側諸国には西バルカンをEUに統合する能力がないという弱みを示そうとしている。統合できなければ欧州にとって安全保障上のリスクとなる」

多くの専門家は、米国のより積極的な関与なしにEUが同地域の緊張状態を恒久的に緩和することは難しいと考えている。米国は近年、外交の重点を欧州からシフトさせている。(中略)

シンクタンク「欧州安定イニシアチブ」のゲラルド・クナウス代表によれば、近隣のボスニア・ヘルツェゴビナと北マケドニアにも民族紛争の歴史があり、対立が再燃する可能性がある。(後略)【8月2日 WSJ】
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アメリカが乗り出さないと収まらない・・・・というのが現実のようですが、アメリカはセルビア・コソボどころではないというのも現実。』