[FT]遅い米国のハイマース供与 ウクライナは反攻に限界

[FT]遅い米国のハイマース供与 ウクライナは反攻に限界
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『ウクライナ侵攻を続けるロシアの部隊は前線から遠く離れた地域に陣取る。そのロシア軍と戦うウクライナ軍に供与された米国製の長距離ロケット砲は命中精度が高く、ひと月足らずでいくつかの大きな戦果につながった。

高機動ロケット砲システム「ハイマース」(6月、千葉県の陸上自衛隊木更津駐屯地で撮影)=共同

ウクライナ軍は先週、待ち望んでいた高機動ロケット砲システム「ハイマース」を使い、ロシア軍が制圧したウクライナ南部ヘルソンの東方、ドニエプル川にかかる1.4キロメートルの長さのアントノフ大橋を攻撃した。ウクライナの当局者が「宝石ほどの価値がある」と評したこの攻撃で、ロシア軍の大型軍用トラックがこの橋を通行するのは不可能になり、同国が2014年に併合を宣言したクリミア半島からヘルソンへの補給路は断たれた。

ハイマースは先週末、補給物資と兵員をクリミアからヘルソン地域へ運ぶ列車を破壊した。ウクライナ内務省の顧問、アントン・ゲラシュチェンコ氏によると、この攻撃でロシア軍兵士のうち80人が死亡、200人が負傷した。英政府当局者は、鉄道の修復に数週間が必要になる可能性があると明らかにした。

100カ所を超えるロシア軍の標的を破壊

自走式で射程が約80キロメートルに及ぶハイマースは、ウクライナの戦場でロシア軍にこのような損害をもたらしている。米国防総省高官によると、ウクライナはハイマースでロシア軍の司令所、弾薬庫、防空拠点、レーダー・通信基地、長距離砲の配備拠点など100カ所を超える重要なターゲットを破壊した。

「『ハイマース』はウクライナにとって、『正義』とほぼ同義語になった。ウクライナ軍は、この極めて効果的なシステムで占領者(ロシア)に毎週、手痛い敗北を経験させるよう、あらゆる手を尽くす」。ウクライナのゼレンスキー大統領は2日、定例の夜の演説でこのように表明した。

ハイマースは追加の4基が今週、ウクライナに到着し、同国は計20基を保有することになった。米政府は1日、ハイマース用のロケット弾の追加供与を承認した。ドイツは射程約70キロメートルの同種のロケット砲システムを3基、ウクライナに提供した。

ウクライナ側は満足していない。同国政府は、追加のハイマースと、そのためのロケット弾の速やかな供給を求めている。事情を知る関係者によると、ウクライナ政府は3月、少なくとも50基のハイマースの提供を求めていた。

南部ヘルソンの奪還を優先

作戦について説明を受けた3人の当局者によると、ハイマースの供与が十分でないなかで、ウクライナ軍は、兵力と火力の両面でロシア軍に劣る東部のドンバス地域での反攻でなく、3月上旬にロシア軍が制圧したヘルソンの奪還を優先する方針だ。

ウクライナ軍はハイマースでロシア軍の兵器庫を破壊するとともに、ヘルソンにおける補給を妨げ、ウクライナ東部におけるロシア軍の前進を支えた火力の優位を失わせようとした。

「補給路を遮断すれば、(ロシア軍は)砲撃を維持できなくなる。ロシア軍はすでに極めて多量の弾薬を使用している」と、ウクライナ当局者の一人は話した。「ロシア軍は歩兵や威力の弱いマンパッド(携帯式ミサイルシステム)に頼ることになる」

英王立防衛安全保障研究所(RUSI)の軍事アナリスト、サミュエル・クラニーエバンス氏は「ロシア軍がそのような状態に追い込まれれば、ヘルソンの奪還作戦はウクライナ軍の反転攻勢を可能にする重要な機会になる」と指摘する。

ヘルソンは、東部を除けばロシア軍が制圧したウクライナで唯一の大都市だ。ドニエプル川の西岸という地理と、補給路から離れているという点で、余力が十分でないウクライナ軍にとっては格好の攻撃対象になる。

この地域の戦線は穴だらけで、ドニエプル川西岸に陣取るロシア南部軍管区第49軍は包囲されやすい状態にあると英国防省が7月28日、明らかにしている。ヘルソンは「ロシアの支配地域のなかで最も政治的に重要な人口密集地であり、現在は実質的に他の支配地域と切り離されている」と同省は説明した。

ウクライナ南部の当局者は、同国軍がヘルソン周辺で50弱の集落をすでに奪還したと明らかにした。

ウクライナ政府の複数の当局者は、冬がくる前に実行できるロシア軍への本格的な作戦は、ヘルソン奪還だけにとどまるかもしれないと考えている。

ウクライナ軍、領外を攻撃できる兵器の供与期待

ハイマースの供与について、ウクライナ側はペースが遅いだけでなく、発射したロケット砲弾が同国領外に出ないように使用上の制約を受けている事実に不満を募らせている。ウクライナ政府の当局者の一人は、この制約のためロシアの重要インフラの機能を止められないと指摘する。一例として、ケルチ海峡の上にかかるクリミアとロシア本土を結ぶ全長19キロメートルの橋をあげた。

ハイマースを提供する米国が使用を制限するのは、紛争の激化を抑えるためだ。ウクライナ側は、ロシア領内の攻撃が可能な長射程のロケット砲を求めているが、米国は応じていない。

ウクライナの複数の当局者は、1日あたりの攻撃の機会が、弾薬不足で数回に抑えられているともらす。

「ロシア側のすべての位置座標、補給施設や指揮統制拠点の位置を把握しているが、(弾薬不足で)戦況を一変させることができない」という当局者もいる。

ほかの当局者はこう話した。「(ハイマースのような兵器が)ウクライナに供与されるたびに大きく騒がれるが、冷静に計算し、戦略上の必要な水準と比べなければならない。その視点でいえば、私たちが保有する兵器は、その水準の3割に満たない。年内に決定的な反攻作戦を立案できるだけの能力の増強は見込めない。(ロシアに対抗するための)本格的な計画は(兵器の備蓄が整うと思われる)来年に持ち越さざるを得ない」

By Mehul Srivastava, Felicia Schwartz & John Paul Rathbone

(2022年8月4日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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