[FT]権限拡大のアルゼンチン新経済相、債務再編に臨む

[FT]権限拡大のアルゼンチン新経済相、債務再編に臨む
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『アルゼンチンで2ケタのインフレの抑制に取り組む新たな「スーパー官庁」のトップが、財政秩序を確立すると宣言した。正義党(ペロン党)政権は経済政策を担う従来の経済省の権限を拡大することで、失われた市場の信頼を回復しようとしている。

下院議長だったセルヒオ・マサ氏はわずか1カ月で3人目の経済相となった=ロイター

「私は魔術師でも救世主でもない」。わずか1カ月で3人目のアルゼンチン経済相となったセルヒオ・マサ氏(50)は3日、こう語った。「課題はとてつもなく大きい」

7月下旬の任命後、マサ氏は初めての演説をし、経済政策を発表した。予算は財政赤字の削減や民間部門の借り入れで賄い、紙幣の乱発はやめると明言した。ドル準備の積み増しや、財政赤字削減のための政府補助金の「組み換え」も行う。

下院議長だったマサ氏は急速に進むインフレ、減少する外貨準備、膨らむ一方の国内債務など経済の難題に直面している。同時に2023年の大統領選挙を控えて政治的な争いもあり、それもうまく切り抜けなければならない。

アルベルト・フェルナンデス大統領がマサ氏に経済政策だけでなく、製造業や農業の政策も管轄させることにして以降、債券価格は上昇した。投資家は在任期間がわずか24日間だった前任のシルビナ・バタキス氏より、マサ氏の方がインフレ抑制で実行力を発揮すると期待しているようだ。

22年はインフレ率90%超の予想

バタキス氏は7月4日にマルティン・グスマン氏から経済相を引き継いだばかりだった。グスマン氏は経済政策の方向性をめぐって左派の連立与党内で何カ月も対立が続くなか突然、辞任した。大統領の盟友の同氏は、財政赤字を抑制するため支出を削減し、アルゼンチンが国際通貨基金(IMF)と合意した440億ドル(約5兆8000億円)の債務再編計画を予定通り進めるよう求めていた。

グスマン氏の辞任を受け、市場心理は悪化した。通貨の切り下げを恐れる預金者が、保有していた通貨ペソを米ドルなどの信頼できる通貨に交換するとペソが急落し、通貨安によってインフレが一段と進んだためだ。

経済学者やエコノミストはアルゼンチンのインフレ率が2022年は90%を超えると予想する。国債価格は落ち込み、(信用力が著しく低い)ディストレスの領域に入っている。中央銀行の調査では、貧困の水準も高く、経済は7~9月期に国内総生産(GDP)が縮小して一時的に景気後退に陥るとみられている。

フェルナンデス氏は本格的な経済危機が発生しないよう、国家財政を立て直す仕事のトップにマサ氏を据えることにした。投資家と国民を安心させることを狙った。

だがクリスティナ・フェルナンデス副大統領は経済政策で大統領とは意見を異にする。副大統領とその支持者らは、ペロン党は大統領選を控え、有権者をインフレ高騰から守るために支出を増やすべきだと考えている。

IMFとの交渉も所管

旧エネルギー省や金融機関に対するマサ氏の実際の権限について専門家は依然、懐疑的だ。エコノミストのフェルナンド・マルール氏は、組織改革の一環から一連のポストが割り振られたが、(財務を担う)経済省のリーダーシップの方向性が変わったことを示す「新顔は今のところ見当たらない」と語る。

「現在、経済は極めて脆弱だ」とマルール氏は話す。「通貨切り下げや利上げのような厳しい政策を伴った強力な経済再建計画が必要だ。マサ氏は政治的な支持を得ているものの、確かな政策が導入されたとはっきりわかるのはまだ先だろう」

過去の中道右派政権で財務相を務めたニコラス・ドゥホブネ氏は、投資家の信頼を高めるため、経済省は中銀のペソの発行に「しっかりブレーキをかけなければならない」と考える。紙幣の増発をやめなければ「インフレは終息しない」と同氏は言う。

IMFと合意した債務再編計画では、アルゼンチンは赤字を埋めるのに通年で7650億ペソ(約7700億円)相当の紙幣しか印刷できない。ミゲル・ペッシェ総裁率いる中銀は今年すでに6300億ペソを発行した。そのうち半分以上が6月上旬以降だ。

経済相という新たなポストでマサ氏はIMFとの交渉も所管する。IMFの広報は3日、9月の四半期評価に先立って債務再編計画の実行について話し合うため、担当者がマサ氏と「生産的な会合」を開いたことを認めた。

マサ氏は20億ドル強の債務について再交渉するため、8月には日米欧など22カ国が加盟するパリクラブ(主要債権国会議)との会合にも臨む。

By Lucinda Elliott

(2022年8月4日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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