中国軍事演習、台湾東部でも 与那国島から60キロ

中国軍事演習、台湾東部でも 与那国島から60キロ
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM0425B0U2A800C2000000/

『【北京=羽田野主、台北=龍元秀明】中国人民解放軍が台湾周辺の6カ所の空・海域で実施する軍事演習が4日始まった。期間は7日まで4日間。演習エリアは沖縄県の与那国島や波照間島からわずか60キロメートルの距離に設定され、中国軍が発射した弾道ミサイルは日本の排他的経済水域(EEZ)に落下した。台湾を巡る緊張が日本にも波及した。

【関連記事】

・中国の弾道ミサイル、5発が日本のEEZ内落下 岸防衛相
・中国が台湾沖にミサイル、日本EEZ内に5発 外相会談中止
・台湾間近に望む与那国島、街は「いつも通り」「不安ある」

演習は台北に近い2カ所や南部の都市・高雄の沖合のほか、台湾海峡や台湾東部の空・海域で実施する。

演習エリアの一部には日本のEEZも含まれる。日本政府の指摘に対し、中国外務省の華春瑩報道局長は3日の記者会見で「中日は関係する海域でまだ境界線を画定していない。日本のいうEEZの見解を中国は受け入れない」と反論した。

与那国島は南北を演習エリアに挟まれており、約60キロしか離れていない至近距離にある。防衛省によると、4日に中国軍が発射したミサイルのうち、日本に最も近い場所に落下したのは与那国島から80キロメートルの地点だった。EEZ内ではなかった。

台湾の国防部(国防省)は4日、日本時間の午後2時56分から5時にかけ、台湾の北部、南部、東部の周辺海域に向けた中国軍の弾道ミサイル「東風(DF)」11発の発射を確認したと発表した。日本と台湾で確認できたミサイルの数に差がある。

台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統は4日にビデオメッセージを発表し、「台湾だけでなく国際社会にとって無責任なやり方だ。中国に理性と自制心を持つことを強く求める」と述べた。

中国国営中央テレビ(CCTV)は軍の専門家の話として、台湾上空をミサイルが通過したのは初めてと指摘した。国防部によると、3日に続き4日も中国軍機22機が台湾海峡の事実上の停戦ライン「中間線」を越えて台湾側に入った。

1996年に起きた第3次台湾海峡危機でも、中国軍は台湾周辺の演習に踏みきった。当時は4カ所の空・海域で演習を行ったが、今回は台湾東部を中心に演習エリアをさらに広げた。演習エリアのうち3カ所は、台湾が主張する領海にもかかる。

今回の軍事演習には、中国が開発した新型の空中給油機「運油20」も投入された。同機の運用により中国の戦闘機や爆撃機の作戦範囲は3割程度広がるとみられている。台湾東側の広範な空域をおさえ、台湾の救援に向かう米軍を迎え撃つ体制が強化される。ミサイル駆逐艦が台湾東部に回ったとの報道もあり、台湾の「海上封鎖」に向けた演習との見方も出ている。

日本政府内には「台湾有事は日本にとっても有事だ」という認識が広がりつつある。EEZへのミサイル落下でその懸念がさらに強まった。中国の軍事力は飛躍的に増強した。2022年の中国の国防予算は1兆4504億元と、1996年に比べて約20倍だ。

地上発射型の弾道ミサイルは約600基と、96年の百数十基から大幅に増えた。近年は米空母を標的にする空母キラー「DF21」や米グアム領を射程に収める「DF26」を大量に配備している。

ペロシ氏の訪台直前には、米軍の防空システムでも迎撃が難しいとされる核弾頭を搭載可能な極超音速ミサイル「DF17」の発射実験の映像を初めて公開し、米国と台湾側を威嚇した。96年当時にはなかった空母も2隻保有し、3隻目が数年内に就役する。

軍事演習に合わせて首都・北京にも警戒態勢が敷かれた。市内の要所には警備の警察官が大量に配置された。北京の外交筋は「共産党と軍、警察が一体となって有事シナリオを総点検している」と分析する。中国浙江省温州市の国家安全局は3日、台湾の独立活動に長年関わったとして台湾人男性を拘束したと明らかにした。

台湾側にも影響が広がっている。台湾の域内外を結ぶ18の航空航路が演習の影響を受け、日本やフィリピンを経由する代替ルートの利用が必要になった。南部の高雄港など主要港には、演習エリアを避けて船を運航するよう注意喚起がなされた。

台湾の国防部は3日夜、中国福建省アモイに近く、台湾が実効支配する金門島周辺の空域でドローン(小型無人機)とみられる物体を確認した。金門島は6カ所の演習エリアには含まれていない。

台北市で働く30代の女性は「両親が高雄に住んでいるので不安だ」と話した。3日にはSNS(交流サイト)で「ミサイル攻撃を受けた」とするフェイクニュースが拡散し、国防部が否定する一幕もあった。

経済界も緊張がエスカレートすることを懸念している。台湾の9つの主要経済団体は台中双方の当局に向け、「人々の生活や経済を重視して、衝突を回避するよう求める」との声明を発表した。
ニューズレター
多様な観点からニュースを考える

※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

川島真のアバター
川島真
東京大学大学院総合文化研究科 教授
コメントメニュー

ひとこと解説

中国の演習については特に二点重要な点がある。第一に、一部のミサイルが台北市の上空を通ったことである。これは台北を狙えるということよりも、事故が起きて台北に不時着しても構わないという意思表示になる。第二に、日本のEEZにミサイルを落とした点である。日本側にその意識はなくても、台湾の民進党政権の背後にはアメリカのみならず、日本の保守派がいると中国は見ている。だからこそ、日本への警告もおこなっている、ということなのだろう。中国国内では党大会や北戴河を控えて緊張感が高まっており、その文脈で今回のことに厳しく対処する。他方、今回のことを受けて日本はどの程度の抗議ができるか。岸田政権の対処が問われる。
2022年8月5日 4:14 』